THE PAINS OF BEING PURE AT HEART | 渋谷WWW X | 2018.1.21

僕の好きなものは、君たちが好きなもの

「僕の好きなものは、君たちが好きなもの」という空気でライヴハウスは満たされていた。ギターの音、リズム、メロディ、声、リードヴォーカルのキップ・バーマンの表情、周りのメンバーの姿形まで、「キップの好きなもの」でできていた。

ボストンのインディポップバンド、Minskの”Margot”が流れて18時50分にザ・ペインズ・オブ・ビーイング・アット・ハートが登場した。まずは新しいアルバム『The Echo of Pleasure』から”My Only”。この日1stアルバムの『The Pains of Being Pure at Heart』からたくさん演奏されて、お客さんたちは盛り上がったのだった。

キップはMCで話しながらはにかむ表情もよい。音もバンドの見た目も、どこを切っても「インディバンド」のテイストで溢れていた。

ライヴならではの勢いのよさがあって、ポップでカラフルな印象のあった新アルバムの曲も旧作と上手く調和していた。ときに激しく鳴るギターも轟音の一歩手前で上品に抑制される。曲のひとつひとつがポップで爽やか、そしてどこか儚さが漂う、とっくに失われた10代の架空の思い出が詰まっている。本編は”Young Adult Friction”、”Everything With You”、”The Pains of Being Pure at Heart”と初期曲3連発で締めくくった。

アンコールはキップがひとりで登場し、自分の妻の誕生日だということで、レナード・コーエン”Suzanne”をギター1本で歌う。そしてバンドがでできて、”This Love Is Fucking Right!”と”Belong”を演奏する。

映画『(500)日のサマー』で登場人物は、壁にジーザス&メリーチェインのアルバムジャケットを飾り、ザ・スミスの曲を聴き、カラオケでピクシーズの曲を歌う。ロサンゼルスが舞台の映画で、こんなにもおれの大学生のときのような近い趣味の人がいるなんて、と同志をみつけた嬉しさがあった。これと同じような気持ちだと、ライヴを観ながらこの映画のことを思い出した。キップはニューヨーク出身であり、スミスやキュアーやニューオーダーやシューゲイザーのバンドに親しみ、そこから受けたものを素直にだせるのだろう。おそらく世界中に――それぞれの土地で多数派でないけれども――こうした趣味の人たちがいて、ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・アット・ハートは聴かれていくのだろう。

— set list —  

My Only / Heart In Your Heartbreak / The Body / Simple and Sure / Anymore / Higher Than The Stars / Come Saturday / Falling Apart So Slow / A Teenager in Love / Eurydice / When I Dance With You / Until The Sun Explodes / Young Adult Friction / Everything With You / The Pains of Being Pure at Heart

— encore —
Kip solo song / This Love is Fucking Right! / Belong

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Keiko Hirakawa