SXSW 2014 レポート | Austin, TX | 2014.03.11-16

”ライヴ・ミュージックのキャピトル”の奏でる音の引力に引き寄せられて

「何より大切なのは、人生を楽しみ幸せを感じること、それだけです。」(“The most important thing is to enjoy your life – to be happy – it’s all that matters.”) – オードリー・ヘップバーン
 
今回で4回目となるサウス・バイ・サウスウェスト(以下SXSW)。初回はちょうど10年前の2004年で、2012年以降は毎年来ている。初回から一貫して感じるのは、オースティンに集った、ミュージシャンを含むすべての音楽ファンの多幸感あふれる笑顔が、街全体を暖かく包んでいるということだ。冒頭の稀代の大女優のシンプルな名言が実にしっくりくる音楽フェスである。

SXSWに集いし音楽ファンに満面の笑顔をもたらすのは、オフィシャル発表だけで2000を超えるアーティスト/バンドがオースティンの至るところで繰り広げるショーケースだ。今年は、アップル社が連日”アイチューンズ・フェスティヴァル(itunes Festival)”を開催し、コールドプレイやサウンドガーデン、ピットブル、御大ウィリー・ネルソンといったビッグ・ネームが出演し話題を呼んだ。また、ジャングルやパーケイ・コーツといった、今年のフジロックに出演するバンドの中でも比較的情報の少ないバンドのステージをいち早く目撃することができたのは幸運だった。フジロック出演といえば、デーモン・アルバーンとザ・ストライプスは、今年の要注目株として今は亡きSXSWのクリエイティヴ・ディレクター、ブレント・ゲルケ氏にちなんだ”ゲルケ・プライズ(Grulke Prize)”を受賞している。ルー・リードとジミ・ヘンドリックスという偉大なミュージシャンへのトリビュート・ショーは、あらゆる音楽ファン垂涎のイベントだったことは間違いないだろう。

とにかく膨大なショーケース数のため、例年は出演アーティスト/バンドを事前に調べ、絞り込みを行うのだが、今回はあまりそれをやらなかった。なるべく現地で情報を集め、流れる音の引力に引き寄せられる形で新しい音と邂逅するというテーマを自分に課して取材にのぞんだ。SXSWは未契約のこれからのアーティスト/バンドの見本市としての側面が色濃く、また突然の出演キャンセルが発表されるなど、開催期間中常に情報が七色に変色し錯綜する。ここで新しく、かつ質の良い音の宝探しをするには、前評判云々ではなく現地の空気をしっかり感じ取り、自分の耳目に従うのがベストだと思ったのだ。

現地で情報を集める上で本当にありがたい場となったのが、SXSWのオフィシャル・メイン会場のコンベンション・センターの中央の展示ホールにて3月13日から15日の3日間に渡って開催されていた「フラットストック・43」(Flatstock 43)という、総勢80を超えるアーティストやグラフィック・デザイン会社によるロック・ポスター展だ。アーティストごとにブース分けされていて、ポスター(その多くはライヴ告知ポスターやフライヤーだった)をはじめ、Tシャツなどの作品を実際に手に取り、運が良ければ居合わせたアーティスト本人と会話を交わすこともできる、楽しさあふれるイベントだった。かっこいいなと感じ、立ち寄ったアーティストのブースにいる客は音の好みも似通っているのか「今日はこれから何を観る予定なの?」とか「今回のSXSWでオススメある?」とそれとなく尋ねると欲しい情報がガンガン打ち返されて来るのだ。ひとつの情報をきっかけに「それが好きなら、無名だけどこのバンドも気に入るはず!」、「このパーティーは絶対行くべきだよ!」と芋ずる式に次から次へとその人の想いのこもった情報へとつながる。現場での人との縁から生み出される”口コミ情報”は、媒体からは得られない感動を伴うのだ。おかげで新しい音の収穫は過去最高に大豊作となった。

今回のSXSWにおける一大事として、胸に刻み込まれていることがある。3月13日の深夜に起きた、飲酒運転容疑で警察に追われていた男の運転する車が、レッド・リバー通り沿いにあるモホーク(Mohawk)というライヴハウス前の交差点で、入場のため列を成していた客や付近の歩行者を次々とを撥ね、死者3名、20数名の重傷者を出した悲惨極まりない事件のことだ。事件発生当時、私はモホーク内でLAパンク・レジェンドのエックスを観ていて、運良く難を逃れた。だが、そのほんの少し前まで同様に列を成していたわけで、タイミングが悪ければ巻き込まれていてもおかしくなかった。

楽しみ幸せを感じるために訪れたはずのこの場で、なぜこのような痛ましい事件が起きてしまうのだろうか。そしてたまたまそこに居合わせ、巻き込まれてしまった被害者やそのご家族の方々に降りかかった突然の不運にどう対処したらいいのだろうか。この事件は、いつ災害や事件に巻き込まれないともかぎらない不条理さと隣り合わせに生きているということをあらためて教えてくれた。

今回のSXSWは、ショーケースもさることながら、個人的に気づかされる機会が多く、強く記憶に残ることになりそうだ。もちろん、SXSWを通してつながった音楽を愛する仲間たちと陽気に酔っ払って音楽談義に花を咲かせる、そんな他愛ないやり取りが最高であったことは言うまでもない。冒頭の”何よりも大切”なことを存分に堪能できる場、それがSXSWである。本総論に引き続き、写真総論(森リョータ編)と、2011年以来3年ぶりとなる映像スタッフ陣による動画レポを同時に公開予定だ。連日オースティンの街中を飛び回り、取材したスタッフそれぞれの想いのこめられたレポを、ぜひとも楽しんでいただきたい。実際にSXSWに足を運んでいただく、ちょっとした後押しになれたとしたらこの上ない幸せである。

Text by Takafumi Miura
Photo by Ryota Mori