SXSW Music Festival 2018 リムプレスが注目するアーティスト15選!

街全体がライヴハウスと化す音楽ファンにはたまらない7日間のはじまり

いよいよはじまる今年のサウス・バイ・サウスウエスト・ミュージック・フェスティバル(以下SXSW)、リムプレス編集部が注目するアーティストを自由気ままにピックアップ。

アーティストの紹介をはじめる前に、そもそもの「SXSWとは?」を紹介しておこう。SXSWは、アメリカはテキサス州の州都オースティンで、毎年3月中旬に7日間にかけて開催される世界最大級の音楽見本市だ。

すべては、テキサス州オースティン在住の3人の若い音楽関係者からのこんな熱い問題提起からはじまった。「自分たちの愛する地元のアーティストやバンドをどうやって世界に売り込んでいくか?」。彼らは、1986年にアルフレッド・ヒッチコックの映画『北北西に進路を取れ(North by Northwest)』をもじり、ニューヨークから見たオースティンの方角である南南西(South By Southwest)と命名し、活動を開始する。当時ニュー・ミュージック・セミナーというインディーズ・レーベルの見本市が開催され活況を呈していた、ニューヨークの盛り上がりを地元オースティンに持ち込もうという想いの表れであった。

SXSW開催の間、総勢2000を超える有名、無名、雑多なジャンルのアーティスト/バンドが、大学の校庭やアパレル店、駐車場から廃墟に至るまで街中ありとあらゆる会場で連日連夜ライヴを繰り広げるのだ。“ライブ音楽の都(Capitol of Live Music)”、オースティンを丸ごと味わうことができる。ノラ・ジョーンズをはじめ、ここをきっかけにブレイクしたアーティストは数知れない。SXSWの魅力はライヴだけにとどまらない。キー・ノートと呼ばれる、その年を代表する錚々たる面子によるスピーチ、音楽関係者向けの様々なセミナーや勉強会といった比較的シリアスなものもあれば、「ギア・エクスポ」という楽器見本市やロック・ポスター展など“音楽”から想起されるあらゆるネタがそこかしこに散りばめられている。音楽ファンはどの入口から入っても楽しむことができるのだ。1994年にはフィルム・フェスティバル、1998年には来たるインターネット時代をいち早く踏まえたインタラクティヴ(IT)の見本市もスタートしている。

SXSWがいかに巨大なものとなろうとも、オースティンという寛容な街は、世界各地から集まる多種多様な音楽を暖かく包み込み、訪れるすべての音楽ファンに笑顔をもたらす。音楽を愛するものによる音楽を愛するもののための“場”、それがSXSWだ。

では、要注目出演アーティストの紹介に移ろう。

1. Dan Deacon
ダン・ディーコンは、アメリカはメリーランド州、ボルチモア出身のアーティストだ。2003年から活動していて、アルバムも相当数リリースしている。2016年のタイコクラブで彼のライヴを観て、一発で気に入ってしまった。パッと見冴えない剥げたオッサンが繰り広げる、ポップで毒っ気満載の踊れるビートの嵐。”Wall of Life”という提案がこれまた最高だった(”Wall of Death”ではなく笑)。曲の間中オーディエンス同士、ノンストップでハイタッチし合って盛り上がるというものだ。深夜2時くらいのステージだったと思うが、楽しさのあまり眠気が吹き飛んだのを覚えている。さて、SXSWではどんな歓喜のステージを届けてくれるのか?

※4:10くらいから上記”Wall of Life”がはじまります。

 

2. August Greene (Common / Robert Glasper / Karriem Riggins)
2016年にシカゴ出身のグラミー賞受賞MC、コモンが、今をときめくジャズピアニストのロバート・グラスパーと、ポール・マッカートニーのライヴ・バンド・メンバーを務める凄腕ドラマーにして地元デトロイトで故J・ディラとともに名作を産んできたヒップホップ・プロデューサーでもあるカリーム・リギンスと共に立ち上げた、所謂スーパーユニット。コモンの最新アルバム『Black America Again』に収録された”Letter To The Free”での共演がきっかけだそうだ。こんな名うてのアーティストたちの豪華極まりない演奏を小さいハコで間近でじっくりと担当できるのもSXSWの醍醐味と言えるだろう。

 

3. Dr. Octagon
SXSWのオフィシャルHPには何も書いてないが、目に入った瞬間にテンションが上がった。ザ・プロディジーのリアム・ハウレットも大好きな元ウルトラ・マグネティック・MCズの変態MC、クール・キースによる伝説のヒップホップ・プロジェクトだ。アブストラクト・ヒップホップの大名盤『Dr. Octagonecologyst』なんてCDがすり減るんじゃないかってというくらい聴いたなぁ。今春、完全復活を遂げる。4月にはダン・ジ・オートメーターとともにニュー・アルバム『Moosebumps』がリリースされる予定だ。このタイミングでSXSWで見れる機会があるなんて、必見必聴に決まっている。

 

4. Elephant Stone
ストーン・ローゼズの名曲をいやでも想起してしまう、カナダのモントリオールで2009年に結成されたサイケデリック・ロックバンド。オースティンでは毎年4月にサイケに特化したフェス、LEVITATION(かつてはAustin Psych Festと呼ばれていた。今年は4月26日から29日にかけて開催され、スロウ・ダイヴなどが出演する)を開催していることもあり、SXSWにも数多くのサイケなバンドが集う。彼らはベックや、インディーロック界の暴れ馬、アントン・ニューコム率いるザ・ブライアン・ジョーンズタウン・マサカーらとのツアー経験もあり、実力は折り紙つきだ。

 

5. Gang of Youths
オーストラリアのシドニーで結成された5人組のロックバンドだ。昨年リリースされた2枚目のアルバム『Go Farther In Lightness』が地元オーストラリアでNo.1になり、数多くの賞を受賞している。ワールドワイドなブレイク目前のアーティストと言っていいだろう。マス・アピールなメロディに温かみある歌声は、耳が肥えたSXSW来場者の心を捉えるに違いない。

 

6. A Giant Dog
地元、オースティンのパンクロック・バンド。サブリーナ・エリスとアンドリュー・キャシェンのツイン・ボーカルが切なく響き渡る。日々の悶々としたあれやこれや、どうしようもならなさをその音、叫び、全身で飾りっ気一切なしの表現をしているようなバンドだ。昨年リリースされた4枚目のアルバム『Toy』を引っ提げ、地元で自由気ままに暴れまわる彼らをビールを片手に目撃したい。

 

7. Pale Waves
今年のサマー・ソニックへの出演が決定している、イギリスはマンチェスターからのロックバンド。The 1975、ウルフ・アリスと同じレーベル、Dirty Hitの所属だ。レーベル仲間のThe 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルがデビュー・シングル「There’s A Honey」をプロデュースしている。ゴスにメイクアップされた中心メンバーのヘザー・バロン・グレイシーに目がいってしまうが、音は万人受け間違いなしの真正ポップ・ミュージック。英国放送協会BBCが毎年有力新人を選出する名物企画「BBC Sound of 2018」にノミネートされるなどイギリスでパワープッシュされている。今観ておくべきバンドだろう。

 

8. Pussy Riot
ロシアはモスクワからの刺客。「Virgin Mary, Put Putin Away」なんて曲を教会で演奏して逮捕されたりしてるらしい。社会にプロテストする攻撃的で荒々しいパンクソングが多くを占めるキワモノと思いきや、英語詩でアンニュイに歌いあげる「I Can’t Breathe」や、汚職検察官のことを歌った「Chaika」や、皮肉たっぷりな「Make America Great Again」など音楽性もバラエティーに富んでいて一筋縄ではいかない。SXSWではこういうバンドこそ観たいものだ。

 

9. Starcrawler
つい先日初来日し、リード・ボーカリストのアロウ・デ・ワイルドによる圧倒的なパフォーマンスで東名阪、そして京都で旋風を巻き起こしたスタークローラー。日本での熱狂をまとったままSXSWに乗り込むわけだ。音はややグランジーなジョーン・ジェットといった印象かな。エルトン・ジョンをはじめ、デイヴ・グロールといった大物ミュージシャンからラヴコールを受ける彼ら。今が旬のバンドであることは言うまでもない。LAのバンドならではの禍々しいロックンロールはSXSWでも話題をかっさらうことだろう。

 

10. SXSW SLUGFEST – A Night of Pro Boxing and Music
SXSWでは様々なスペシャルなショーケースが繰り広げられる。ルー・リードが亡くなった翌年はガーランド・ジェフェリーズやレニー・ケイといった縁の豪華アーティストで感動的なトリビュート・ショーをやったりと。今年の中で特に目を引いたのが、これ。プロボクシングマッチと音楽の夕べというやつだ。どんな内容になるのだろう?ラインナップにライズ・アゲンストのザック・ブレアの名が含まれているのが嬉しい。ボクサーのたぎる血潮にどんぴしゃな熱いギターに期待大だ。

 

11. Todd Rundgren
こんなレジェンドが小箱にふらっと出演してくれるのもSXSWの大きな魅力のひとつ。言わずもがなだが、トッド・ラングレンは天才メロディメイカーにして、XTCやホール&オーツなど数々のアーティストを手掛けた名プロデューサーだ。2015年のフジロックでEDMをバックに軽快に踊り狂っていた御大。過去の栄光にすがらずに今を生きる、清々しい自由さを見た気がした。と言いつつも、やっぱり『Something/Anything?』や『A Wizard, A True Star』の頃のの名曲を聴きたいんですよねぇ。

 

12. Breanna Barbara
ミネソタ州イーダイナ出身のブルーズ・シンガー、ブレアナ・バーバラ。トリッキーの「When We Die」をリワークしたことが縁で彼のツアーバンドの一員として参加したり、ニュージャージーの若手天才ギタリストのデリケイト・スティーヴの前座を務めたりしている。スライドギターがいなたく唸るサイケデリック・ブルーズ。大好物ですよ、こういう音。スモーキーで迫り来る声も凄い。これは是非とも生で聴いてみたい。

 

13. Ratboys
シカゴ出身のインディー・ポップ・バンド。ふんわりとしたメロディに、踊るパワフルなギターに、ジュリア・ステイナーの小悪魔的で気だるさ漂う歌声。どこまでも真正なインディー・ポップ。売れる前のウィーザーみたいな、おぼこい音がたまらない。この手のバンドはほんとアメリカで聴くと最高。ほっこりすること間違いなしだ。ステージの後はメンバーと乾杯したいな。きっと良い奴らに違いない(笑)。

 

14. The Bright Light Social Hour
地元オースティンのサイケデリック・ロックバンドをもう一つ。中心メンバーのカーティス・ラウシュ(ギター/ボーカル)とジャック・オブライアン(ベース/ボーカル)とがサウスウエスタン大学に在学中だった2004年に結成されている。サザンロックの土臭さを根底に持ちながらも、R&Bやエレクトロニカの要素を昇華して洗練されたサイケデリアが持ち味だ。2015年にリリースされたセカンド・アルバムの『Space Is Still the Place』はネオ・サイケデリアの名盤と呼んでも言い過ぎではないだろう。

 

15. Peelander-Z
最後に紹介したいバンドはやっぱり彼ら、ピーランダー・ゼット!スーパー戦隊シリーズのヒーローのようなカラフルな色で彩られたコスチュームを身にまとい、老若男女みんなでシンガロングできるキャッチーな音で会場をハッピーにする。ライヴ中にいきなりはじまる、ヒューマン・ボーリングにリンボー・ダンス、プロレス対戦といったパフォーマンスも最高。彼らのライヴは規格外の楽しさだ。オースティンの子供たちにも大人気なのも頷ける。もはや、SXSWに来たら彼らのライヴを観ないと帰れない。

 

現時点でオフィシャルに発表されている出演アーティストから注目株をピックアップした。昼間にはアンオフィシャルなパーティーが繰り広げられているし、かつて故プリンスやパブリック・エネミーがいきなりシークレット・ライヴを決行したりする。逆に、出演するはずのアーティストが来ていないなんてこともざらにある。結局のところ、現場に行かなければ何が起こるかまったく分からないのがSXSWだ。街を歩きまわり、人と出会って血の通った情報交換をする。そして、得た情報のすべてを忘れて街中から流れてくる音に誘われ、ただ身をゆだねる。これがSXSWで良いライヴを観る秘訣と言えるだろう。

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Text by  LIM Press
Photo by  LIM Press