KING CRIMSON | 東京 立川ステージガーデン | 2021.12.05

2021年、コロナ禍での奇跡

2021年、日本でツアーをおこなったおそらく唯一の海外アーティストであったのがキング・クリムゾンである。1969年にデビューして52年、解散と再結成を繰り返し活動を続けている。

ヘヴィな音とと浮遊感ある音の対比、さまざまな解釈が可能な文学性の高い歌詞、ときに10分を越える長い曲など、「プログレッシブ・ロック」というジャンルを定義して数多くのフォロワーを産み続けている。

中心人物であるギタリストのロバート・フリップもすでに75歳、これで最後の来日ではないかという話が噂されている。コロナ禍で海外アーティストが日本に来るというのが厳しい状況でさまざまな困難を越え、さらに来日してから世界的なオミクロン株の流行で外国人の入国ができなかったことを考えると、2021年の奇跡といってもいい。

今回の来日メンバーは7人。唯一のオリジナルメンバーのロバート・フリップ。70年代のメンバーでスタジオミュージシャンとしてローリング・ストーンズなど数々のアルバムに参加しているサックスのメル・コリンズ。80年代のメンバーで、氷室京介や渡辺美里など日本人ミュージシャンを含む数多くのセッションをおこなっているトニー・レヴィン。90年代からクリムゾンに参加し、過去に在籍していたMr.ミスターでは全米ナンバーワンヒットもあるドラマーのパット・マステロット。ポーキュパイン・ツリーのメンバーでもあるドラマーのギャヴィン・ハリソン。キング・クリムゾンのトリビュートバンドに在籍していたギター&ヴォーカルのジャッコ・ジャクジク。そしてノエル・ギャラガー・ハイフライング・バーズにいたドラマーであるジェレミー・ステイシー。ドラマーが3人で、ギターが2人。ロバート・フリップやジェレミー・ステイシーはキーボードを弾く場面も多かった。

メンバーは全員テクニシャンで難度の高い曲もこなしてしまう。特に3人のドラマーによって複雑なリズムは迫力を増し、古い曲を演奏してもその曲に新たな命を与えられたのだった。ツインドラムのバンドはたまにあるけど、トリプルドラムというのはあまりない。ドラマーが3人いるだけでこんなに新鮮な気持ちで往年の名曲が聴こえてくるとは。それだけで発明といえる。その3人のドラマーの役割は飽くまでも自分の印象であるけど、手数多く派手に叩くのがギャヴィン・ハリソンで、パワーを与えるのがパット・マステロット、2人をつなぐのがジェレミー・ステイシーという感じだ。

会場の平均年齢は高い。そして男が多い。今回のライヴはそれでも女性比率が上がったかなと思ったけど、途中の休憩時間では男性用トイレが想像を絶するほどの長蛇の列になっていたので、やはり男で年齢が高い(年を取るとトイレが近くなる)人が主な客層といえる。

今回のツアーのうち、自分がいったのは立川ステージガーデンだった。2,500人くらいのキャパシティで満員だった。しかも隣の席を空けないでの満員である。この2年間、スタジアムにしても映画館にしてもコンサートホールにしても隣の席は必ず空いていた。もちろん、それが快適ではあったけど、ぎっしりと詰まった座席をみるだけでグッとくる。

ライヴは2部構成で第1部は、60~70年代の名曲の連打。名曲しかない、まるでベスト盤を聴いているかのようなセットリストだった。3人のドラムが暴れまくる“Larks’ Tongues in Aspic, Part1”、ジャッコ・ジャクジクが優しく歌い上げる“Peace: A Beginning”、狂気が疾走していく“Pictures of a City”、荘厳な“The Court of the Crimson King”、攻撃性を失わない“Red”と“One More Red Nightmare”、「混乱こそ我が墓碑銘」というロック史に残るフレーズを刻んだシンフォニックな“Epitaph”、そして破壊衝動と構築という相反する要素を同時にぶつけた“21st Century Schizoid Man”とトニー・レヴィンのベースソロなどを挟みつつ、全て名曲だらけの第1部をやり遂げた。会場はもちろん大喝采。

第2部は“Disciplineが機材トラブルで上手くいかなかったけど、攻撃的なギターにと3台のドラムがバトルを繰り広げる“Larks’ Tongues in Aspic, Part2”、美しい叙情を湛えた“Islands”、硬質なリズムがぶつかり合う“Indiscipline”、キング・クリムゾン流のヘヴィメタルである「ヌーヴォ・メタル」な“Radical Action II”と“Level Five”で第2部は締めくくる。

声はだせなくても会場はかなりの熱気を帯びて猛烈な拍手でアンコールを求める。再びステージに現れた7人がまず演奏したのは“Discipline”で先ほどの機材トラブルで不完全燃焼だった演奏を取り返すかのようなテンションでやり遂げた。そして最後は“Starless”。70年代のキング・クリムゾンへ別れを告げる名曲が、この2021年の立川で再現される。別れを惜しむようなロバート・フリップのギターが鳴り、予想される何度目かのバンドの終焉、ライヴをやる者楽しむ者にとっては厳しかった2021年唯一の奇跡をまだ味わいたいという気持ちと、さまざまな感情が重なる。そこに「Music Is Our Friend=音楽は私たちの友だち」というツアータイトルを思うとき、70年代から解散と再結成を繰り返し、金銭的な苦労とレーベルとの裁判、そしてコロナ禍をくぐり抜け、ロバート・フリップが妻・トーヤと共に週刊面白爺さんとなって、キング・クリムゾンがたどり着いた答えが「音楽は僕たち私たちの友だち」であったということに感動してしまうのだった。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Nobuyuki Ikeda