今、ライブハウスでロックバンドを見るという喜び 僕たちのロックスター、くだらない1日 ツアーファイナルを見て。
その日は僕にとって、17年ぶりの下北沢シェルターだった。
理由は、最近話題のエモバンド、くだらない1日のツアーファイナルに参加するためだ。
ここ2年、僕たちは本来のライブハウスで人の密にまみれながら、ロックバンドを体験することを少しだけ奪われてしまっていたような気がする。
仕事の都合や、家族の事情、気軽に移動できずに在宅勤務というものを強いられて、できる限り自分の生活範囲の中で暮らしていく。そんな生活の中ではただ、働き、イヤホンをつけっぱなしにして、会議に参加したり、スマートフォンで音楽を聴いたり、全身で音に包まれることを忘れてしまう生活だった。
現在は東京を拠点に活動する、くだらない1日は、去年から話題になっている東京のエモシーンの中でもステージの素晴らしさに定評のあるバンドだ。1stフルアルバム『rebound』を今年の4月29日にリリース。先行曲“やるせない”のミュージックビデオの配信と共に、着実にそのファンを増やしている。
この日は、突然少年とのツーマンライブでの開催だった。20時から始まったライブは、突然少年の感情むき出しの45分のステージで幕を開け、観客の熱量が少しずつ充満し終わった頃、21時を回る頃には、フロアに人が集まってきて、いよいよくだらない1日のステージが始まる。
1曲目は“やるせない”から。その瞬間に観客たち、フロアの視点は一気に音を奏でるメンバーと音楽に集中する。くだらない1日は、元々福岡で高値(Vo)が結成し、紆余曲折を経て、東京で中川コウ(Dr)、太陽(G)、downtのメンバーとしても活動する河合(B)というラインナップが固まり、今のラインナップになっている。
数々のステージ活動を経て、脂の乗り切ったタイミングでのアルバムリリースを経てツアーを重ね、まさに、最高のタイミングでツアーが終わろうとしていた。観客の中で、どれくらいそのストーリーを知っている人たちがいたのかは正直、わからない。しかし、目の前で繰り広げられるステージにどんどん目線がうつっていき、演奏に引き込まれていく。
曲が進むにつれて、サビの部分で手を上げる者や、ステージに登りポゴダンスを踊る音楽好きのみんなが今のくだらない1日を楽しんでいる。まるで「自分達のバンドの晴れ舞台」を祝うかのように。
ツアーファイナルというものは、きっと「お疲れ様。よくがんばったね」という雰囲気になる日かもしれない。しかし、彼らに感じるのは、未来の可能性でしかない。
ライブというものは「今の状態を発表することを体験する」以外にも「これからの可能性を感じていく」ための場所でもあると思う。それは、バンドアンサンブルの強さが固まっていくこともさることながら、高値(Vo)のフロントマンとしての表現力が格段に上がってきていることもそう感じた1つの要因かもしれない。
元々、ひたすら演奏に没頭していく彼らのステージ自体は、一言で「かっこいい」ものだった。それが「エモ」というジャンルの括りの中でのものだったことは事実だ。しかし、彼自身が様々な経験を積み上げて、バンドが1つにまとまってきて、ステージ自体が、フロアの観客を包み込まれていくようになっていくにつれ、「彼ら自身の経験の発信」が「バンドとして関わる人たち全ての生活を代弁しながら表現していく」ものに変わっていくにつれ、彼らの存在は「僕たちのロックバンド」となっていく。
1度でも体験してしまうと、病みつきになる。また見たくなる。それがくだらない1日の存在だ。
これから年内、予定されているステージもいくつかある。今こそライブハウスで「僕たちのバンド」に出会うチャンスだ。
事実、ステージが進むにつれて、手を上げたり、踊ったり、誰もが自由にそのステージを楽しんでいく。途中に挟まれるMCではこれまでに起きたバンドの出来事を振り返り、感傷的な話題もいくつかあったのだが、メンバーが笑顔でそれを見守りながら、まるでDJが楽曲を繋いでいくかのように次々と繰り出されていく楽曲。フロアの空気は止まらない彼らの演奏のスピーディさに呼応するかのように「今とこれからを見つめていくことができるロックバンドが目の前で演奏している」そんな喜びと期待感に満ち溢れていく。
フロアで僕に許されていたはずの自由を与えてくれている。ただ、かっこいいだけではなく、僕たちの生活に彩りを与えてくれながら、バンドと緒になってその未来を感じていく。
今、彼らを体験していくことは、自分達の生活を肯定してくれるバンドと共に、自分達の暮らしをアップデートされていく時間を共に過ごすこと。
これからどう大きくなっていくのかを難しく考えながら追いかけていくことはナンセンスだと思わせるステージング。
大切な友達とかっこいいバンドに出会いにいく。僕たちが忘れてしまった楽しみ方を思い出させてくれるクリエイティビティを持つバンド。
イヤホンだけではわからなくて、全身で音を浴びながら夢中になれる。そんな楽しみと可能性を与えていくには十分すぎるステージだった。
一体次はどんなバンドになっていて、新しい世界を感じさせてくれるのだろう。そんな45分間を感じさせながら、ライブハウスでスピーカーから流れる大きな音で、音楽を全身で感じていく、ただのツアーファイナルでは終わらないバンドを友達と感じてくことの楽しさを証明させてくれる。そんな時間だった。
※ライブ写真は他ライブのイメージ写真です。
くだらない1日 – プロフィール
くだらない1日は、高値(Vo/Gt), 太陽(Gt), 河合(Ba), 中川航(Drs)による東京拠点のインディーロックバンド。2016年に福岡で結成され、3枚のEPと1枚のアルバムを自主制作でリリース。その後、東京のレーベルUngulatesとサイン。東京のANORAK!とのスプリットE.P、シンガポールのCues、 インドネシアのHulicaとの3Wayスプリットをリリース。欧米のミッドウェストエモ〜激情ハードコアにインスパイアされた楽曲に、ポエトリーリーディングを取り入れた歌唱スタイルの融合を実現し、Tiny Moving PartsやHotel Booksといったバンドを彷彿とさせるサウンドはeastern youthやLOSTAGEといった国内エモ/オルタナシーンのファンからの評価も高い。2020年コロナ禍以降も果敢にツアーを開催し、楽曲とライブの強度を高め続け、2022年度は待望のアルバム、『rebound』をリリース。先行曲「やるせない」のMVとともに話題となり、「各種ライブサーキットへの参加、アルバム発売に伴う全国ツアーを開催。夏以降も各音楽イベントへの参加や4年ぶりの結成場所、福岡でのライブを含め、予定が随時決定している。ライブ情報は各種SNSアカウントにて随時掲載。
MV – やるせない
ライブ映像 – 激情部
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