あらゆる時代に触手を伸ばす、オープンマインドなバンド・アンサンブル
ライブと同日に新しいEP「Message」をリリースし、アンコールでメジャーデビューを発表するという、バンド、ファン双方にとって歓喜にあふれたこの日。だが、当然ながら肝心なのはライブの中身だ。ワンマン・ライブの数はまだ多くない彼らだが、いやむしろだからこそ見るたびにアレンジや音響が変化していく、そのフレキシブルなスタンスが非常に痛快だった。
生音とエレクトロニクスを融合したバンドは、日本のメジャーシーンにも増えてはきたが、DATSのユニークなところは新世代ジャズ的なリズムアプローチやハウス、インディR&B的な要素と、バンドキッズ然としたフィジカルな見せ方が同居しているところだろう。シンセを操りながら歌い、煽る杉本亘(Vo、Syn)、この日のライブでは、よりギターでイマジネーションに富むサウンドを表現していた早川知輝(Gt、Syn)、パンク〜ラウドロックの背景も見えつつ、ハウスの打ち込みのベースを生音に転換するようなプレイも聴かせる伊原卓哉(Ba、Key)、ちなみにこの日、彼はRage Against The MachineのTシャツを着ていた。ダンスミュージックの淡々としたビートから、シュアでジャズ / フュージョン寄りのドラミングまで消化した大井一彌(Dr)。もう面白いほど背景は違う。今、4人が共有している好きな音楽が同じでもプレイヤーとしてのスタンスが個々に如実にあるのがDATSのアンサンブルを立体的なものにしているのだ。
この日、オープニングは昨夏リリースのアルバム『Application』収録の“Patagonia”だったが、アレンジが変更され、しかもフロアの後方にも据えられたスピーカーから出るシンセやビートが空間の中で動くのが、曲と曲のつながり、色合いを変えながらも一つの流れを形成することに成功。そしてちょっとライブを見ていない期間に、ハンドクラップが自然と起こったり、自然とオーディエンスの手が上がるようなキラーチューンに“Netflicks”や“Mobile”が育っていたことは、バンドはもちろん、ファンに頼もしさを感じた場面だった。そして、複数のスピーカーで鳴らす音のありかを探すことにも注力したが、例えばドラムのキックやハイハットも生と打ち込みの両方が鳴っているヴァースがあったりして、単純に四つ打ちで乗るのとは全く違うビートの感触が楽しい。これはバンドのみならず今回のチームワークの勝利だろう。
そして去年のフジロックのレッドマーキーにも登場した、DATSのサウンドメイクの同志でもあるラッパー荘子itが加わった場面では、どこかASIAN DUB FAUNDATIONを想起させるタフでトライバルなグルーヴを聴かせ、また、新曲“Heart”や“Message”は、90年代のダンスアクト、例えばアンダーワールドやケミカル・ブラザーズらを想起させるサウンドスケープも出現。そしてあくまでも個人的な感触だけれど、ギターロックから一旦距離を置いた彼らが、ギターも活かしつつ、よりビッグで新しい鳴らし方でバンド・サウンドを構築している、そんなイメージだった。
ワンマンならではのアコースティックなブロックは、もっと極端に楽器編成を生にしても面白いのでは?という印象も持ったが、そこは次なる課題かもしれない。海外の先鋭的なサウンドとタイムラグがないバンドでありつつ、あまりそのことに拘泥せずに、彼ら自身が面白いと思うことをアンサンブルで大胆に実現するスタンスを推し進めていけばかなり面白いことになるはず。6月にはメジャーからアルバムがリリースされる予定だが、おそらく明確に一つのジャンルでいいあぐねる、オリジナルなものが届きそうな予感を残す、そんなライブだった。
Setlist
1.Patagonia
2.Cool wind
3.Memory
4.Netflicks
5.Mobile
6.Candy girl
7.Some boy
8.Painting
9.Interlude
10.Enemy
11.Storm
12.Filter
13.Run
14.Heart
15.Message
アンコール
16. Dice
17. Jane
Photo by Kosuke
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