マシュー「弱いメッセージに存在の余地はない。僕は強いメッセージを発したいし、みんなにも僕の言うことを心から信じてほしい」
「『OK Computer』(的な価値のあるアルバム)を作りたかったんだ。」。マシュー・ヒーリー(Vo./Gt.)は新作『A Brief Inquiry into Online Relationships(ネット上の人間関係についての簡単な調査)』がリリースされた際のインタビューでこう語っていた。The 1975のポップなイメージを確立したファースト・アルバムとセカンド・アルバムを経て、次に自分たちがどんなアルバムを作るべきなのか、その結論であるアルバムが上記コメントが発端となって作られた3枚めのアルバムだった─。
3年ぶり3回めのサマソニ出演となったThe 1975。今回のライブの注目点は、新作を経て彼らの覚醒っぷりがライブにどう表現されるのか。その一点に尽きたと言っても過言ではないだろう。実際に今年のコーチェラ・フェスティバルでのパフォーマンスは新作の彼らのスタンスが如実に表れた圧巻のステージだった。それを日本で観れるのだ。期待値は今年出演するアーティストの中で最も高かった。
初代プレイステーションのロゴがあしらわれたキャップとジャージのトップ、そして太めの赤のボトムスという独特な出で立ちで表れたマシュー。「アレが似合うのマシューだけじゃないか?!」と彼のイケメンっぷりにちょっと嫉妬含みの感想抱きつつも、その事実は揺るぎなく否定もできない。実際彼らその格好の一挙手一投足にオーディエンスは大きな歓声をあげていた。そんな中、他のメンバーも登場し、“The 1975 (『A Brief Inquiry into Online Relationships』ver.)”をSEにしてライブは始まった。
“Give Yourself Try”のギターイントロフレーズが流れた瞬間、マリン・ステージに爆発的な歓声が巻き上がった。前よりも圧倒的に強靭になったバンド演奏と、マシューのカリスマ性あふれるパフォーマンスにただ唸るしかないオーディエンス。“TOOTIMETOOTIMETOOTIME”では黒人女性ダンサー2人が参加し、トロピカル・ハウス・ファンクなトラックをバックに軽快にダンスする。“Sincerity Is Scary”ではダンサー2人が今度はコーラスに回り、マシューはMVでマシュー自身が被っているニットキャップを被って歌う。最高にカラフルでテンションも上がる曲展開に観客のテンションはどんどん上がっていった。
ライブ中盤はアップテンポだった序盤から一転して、ミドルテンポなポップ・チューン中心のセクション。マシューのエモーションがオートチューンを通すことで増幅した“I Like America & America Likes Me”。ここまでの展開にはないアンニュイな空気を醸し出す“Somebody Else”。そしてライブのターニング・ポイントとなったのは新作のラストを飾る“I Always Wanna Die (Sometimes)”。エモーションが徐々に溢れていく感動的な展開のこの曲からライブはクライマックスに突入していく。The 1975の楽曲史上最もポリティカルな曲“Love It If We Made It”、右腕を高らかに突き上げ仁王立ちでエモーショナルに歌い上げるマシューの姿にしかと感じ取れた“覚悟”。そんな彼らの“覚悟”であり“宣言”でもあるこの曲から、最後は“Chocolate”、“Sex”、“The Sound”と怒涛のアンセム3連発。正味1時間のセットに若干の物足りなさはああったものの、それ以上の感動の余韻がこのライブの満足度の高さを物語っていた。
この日のステージは、バックのスクリーンとステージ左右に常設されたスクリーン、そしてステージ中央に構えられたファースト・アルバムとセカンド・アルバムのジャケット写真にも映っている長方形のフレームが、演出に大きな効果をもたらしていた。スクリーンに流されていた映像は今の世情を揶揄するような映像もあれば、バンド自身を否定する映像(初期の彼らの音楽性への賛否)も流れたりと、カラフルな見え方とは逆にシリアスなものが多く、そんなギャップ感は彼らの世代ならではの発信の仕方だったのではないだろうか。
そんな世代の彼らが生きる現代。インターネットやSNSが人間のコミュニケーションに歪みを生んでいることの事実と、そんな時代に世界中で起きている事件や悲しい事実。それらに対して、新作に込められている「本当にどうしようもない面倒な時代だけどさ、なんとか一緒に乗り越えようよ。」という彼らからのメッセージ。そこにいわゆるネガティブなプロテスト的圧はない。しかし、マシューの強いメッセージを伝えたいという思いは間違いなく感じるし、2019年に生きる青年たちの感覚にフィットするそのメッセージは、感覚的には僕ら世代とは違うものの非常に納得できるものが多く、その納得感がこの日のライブにも確実にあった。だからこそ感動できたのだと思う。
今年で2010年代も終わり、来年から新たなディケイド(10年間)が始まる。2013年にデビューした彼らが、2018年にセカンド・フェーズを迎え、来年2020年にさらに歩みを進めるニューアルバム『Notes On A Conditional Form』をリリースする。先日、このアルバムのオープニング・トラックとされる“The 1975”が発表された。言わずもがな全アルバムの1曲めを飾っている同曲名の楽曲だが、今作ではスウェーデンの10代の環境保護活動家グレタ・トゥーンベリのスピーチをフィーチャーしているとのことで、この曲をオープニング・トラックにしてアルバムの中でどんな世界観そしてメッセージが繰り広げられるのか─今はその時を待とう。
“The 1975”
<セットリスト(ライターメモ)>
01 The 1975 (from 『A Brief Inquiry into Online Relationships』)
02 Give Yourself Try
03 TOOTIMETOOTIMETOOTIME
04 She’s American
05 Sincerity Is Scary
06 It’s Not Living (If It’s Not With You)
07 I Like America & America Likes Me
08 Somebody Else
09 I Always Wanna Die (Sometimes)
10 Love It If We Made It
11 Chocolate
12 Sex
13 The Sound