サニーデイ・サービス | 東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO | 2018.03.26

聴いたことのない音へ飛び込め  サニーデイ、何度目かの絶頂の季節

ニューアルバム『the CITY』の配信リリースが告知されたのは前日の3月13日。しかもCDでのリリースはなく、4月25日に2枚組のアナログがリリースされるのみだという。そして、配信リリース直後に東名阪のツアーがスタートし、急遽、東京は追加公演が決定するというスピード感。アルバム・リリースから12日目。まだ咀嚼なんてできていない。しかし。それがなんだっていうんだ。むしろ最高に興奮するじゃないか。

話は逸れるが、ボブ・ディランが今年初めてフジロックに出演する。大方の人が歓迎しつつも「ほとんど曲知らないし、ずっと追いかけてる人ですら、毎回アレンジが変わるからわからないらしいし、盛り上がるのかな?」と、心配そうに言う。自分もなんとなくうなづいてしまうけれど、それって要するに「盛り上がれないものやことに対して距離を置いてしまう」悪しき習慣ではないのか、と。

曽我部恵一がディランと同じような考えを根底に持っているかどうかは知らない。制作物の量が告知や販売のスピードに追いついていないだけかもしれない。
でも、前作『Popcorn Ballads』が、夜中にいきなり発売ではなく、サブスクリプション・サービスによって「シェアします」という、国内のアーティストで、それなりの知名度をもつアーティストでは初めてのことだった衝撃を考えると、今回もなるべく前情報なしに、音楽だけを世に出したかったのではないだろうか。かくして、私たちはただこれから行われることに好きなように向き合うことになった(多少、大阪、名古屋の情報があったにせよ)。

「泡アワー」をSEがわりにスタートしたライブは冒頭からいきなり新生サニーデイ・サービス(と言いたくなるほどのこれまでにない感)のクライマックスを迎える。4レターワードを連呼する「ラブソング2」は、ライブではボーカル・エフェクトなしで、ひたすら様々な感情を込めてリフレインされる。そこから音のバランスをあえて歪にし、極悪シューゲイザー的なギターサウンドで「ジーン・セバーグ」がプレイされる。音源での不穏より、いい意味もっとラフだ。“サニーデイ・サービスの破壊”を標榜した新作は文字通りライブでもその真意を表現しているけれど、それは『Popcorn Ballads』の曲も、『DANCE TO YOU』の曲も同じ板に乗せる。ミニマム・ファンク調の「冒険」の単音ギターリフの執拗なまでの繰り返しは、レアグルーヴィな音源の印象からどんどん乖離していった。もう、何もかもがトゥー・マッチ。口をあんぐり開けて、ただステージで行われている情熱が有り余っているメンバーというか生き物の動向を見つめる。

むしろSIMI LABのMARIAが呼び込まれ、「みなさんもご一緒に」と「Tokyo Sick」のフレーズを歌うよう促された時、ステージ上とフロアはいわゆる普通のコミュニケーションをしている感覚に陥った。再び、ロネッツが今の時代にサイケデリックなオルタナバンドに変身したような「花火」で再び美しい轟音が雷鳴のように轟く。続く「セツナ」のイントロに安堵したような歓声が上がったのも、フロアの素直な反応な気がした。だってようやく自分のものになってるメロディとビートで乗れるんだから。場のムードが温まったところに2組目のゲスト、MGFが登場して「さよならプールボーイ」も披露された。

冒頭のキツーイ一撃にも圧倒されたが、後半は「抱きしめたり〜音楽」でのシンセの揺らぎに乗る「空・星・雲」といった単語の発語や、「音楽」での「飽くまで」「悪魔に」といった押韻の楽しさと、自分自身が音楽をもっとも「感じることができる時」を重ね合わせて、どんどん曲に没入していくのが自分でわかった。そこから続いた「I’m a boy」は、「音楽」での僕だーー勝手にそう思って胸苦しいと同時に痛快な気分にもなる。

本編ラストは新作と同じく「シックボーイ組曲」「町は光でいっぱい」。アルバムの中では従来のサニーデイの名曲路線に聴こえるけれど、ライブでは小節の長短に決まりごとがないようにすら見える。あっさりなんて終わらない。自分たちがやりたいだけ何度でもメインテーマを繰り返す。敵わねえなと思いながら笑ってしまう。某MONDO GROSSOのアルバムタイトルじゃないけど、サニーデイ・サービスは何度でも新しく生まれるバンドだ。

自分が面白いと思えないことの言い訳なんかしたくない。お前の欲望はなんだ?——そう問われているような、しかもそれが苦しくない、そんなライブだった。

<SET LIST>
01.泡アワー
02.ラブソング2
03.ジーン・セバーグ
04.青い戦車
05.冒険
06.イン・ザ・サン・アゲイン
07.青空ロンリー
08.苺畑でつかまえて
09.Tokyo Sick feat.MARIA
10.卒業
11.花火
12.セツナ
13.さよならポールボーイ feat.MGF
14.海へ出た夏の旅
15.星を見たかい?
16.金星
17.抱きしめたり〜音楽
18.I’m a boy
19.シックボーイ組曲
20.町は光でいっぱい

En.1 白い恋人
En.2 東京
En.3 桜 super love

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Text by Yuka Ishizumi
Photo by Keiko Hirakawa