SOCCER MOMMY | 東京 LIQUIDROOM | 2025.12.03

ソフィー・アリソンという人間の生きる様はかくも美しい

 アメリカ・テネシー州ナッシュビル出身のソフィー・アリソンによるソロ・プロジェクト、サッカー・マミー。彼女の約6年ぶりとなる来日公演が、この日東京のLIQUIDROOMで行われた。この6年間の、彼女の躍進っぷりには目を見張るものがあった。彼女の代表曲と言っていいデビューアルバム『Clean』に収録されている “Your Dog” は、Spotifyで約5010万回再生を記録し、世界の主要音楽メディアでも彼女の作品は軒並み高評価(デビューアルバムは『米Pitchforkでは8.4点、英NMEでも4/5点など)獲得。さらに、グラストンベリー・フェスティヴァルやコーチェラ・フェスティバルといった世界的な大規模音楽フェスティバルにも多数出演し、その地位を確固たるものにしつつある。

 そんな彼女が満を持して日本に帰ってくる。会場に入ると、すでにフロアは後方まで観客で埋め尽くされ、その期待の高さが伺えたが、ソフィーはその期待を遥かに上回る素晴らしいパフォーマンスをこの日披露した。最新作『Evergreen』からの楽曲を中心にしつつも、過去のアルバムから満遍なく披露されたこの日のライブは、6年間に歩んできた彼女の軌跡を凝縮したようなライブだった。

Photo by kokoro

 ライブのスタート時間になると、オーディエンスによる大歓声の中、ソフィー・アリソン(Vo/Gt)を先頭にバンドメンバーたちが入場した。サッカー・マミーのバンド編成は、ジュリアン・パウエル(Gt、ソフィーのプライベートのパートナーでもある)、ロラム・ハース(Dr)、ニック・ワイドナー(B)、ロドリゴ・アヴェンダノ(Key/Gt)、そしてソフィーの5人編成だ。

 胸を躍らせるトリッキーなドラムのカウントと、水疱が弾けるようなSEで始まったのは“circle the drain” だ。Y2Kポップロックを彷彿とさせるオープナーは、懐かしく親しみやすいメロディとは裏腹に、歌詞に込められた「うつや無気力感」への描写という人間が持つ“闇”がじわりと胸に染み込んでくる。そんな言葉にし難い感情は、曲終わりに響いたファンの共感性を感じる歓声に表れていた。すると、ソフィーが微笑みを浮かべながら「みんなありがとう!ここに来られて本当に嬉しいよ」とファンに感謝の言葉を伝え、その直後、“circle the drain”の持つ闇を吹き飛ばすように、歪んだギターイントロから “Driver” がスタート。90年代のグランジやパワー・ポップを融合させたようなこの楽曲は、バンドメンバー全員のエネルギーが爆発するような力強さがあり、ヴァースからコーラスパートへと重厚感を持って疾走。最後は、ジュリアンによる荒々しくも恍惚感を覚える泣きのギターが炸裂して曲を締めくくった。

 続くは、冒頭の2曲で歌われた人の心にある「悲しみ」や「愛する」という感情、そんなシリアスな感情をポップに表現するようなラブソング “Abigail”。この楽曲が持つ「ファンタジーと遊び心」を、清涼感のあるドリーム・ポップなメロディと、ソフィーの柔らかで心地よいボーカルで表現、ファンを魅了した。続く “Bones” では一転、恋愛における「自分自身の不甲斐なさ」や「変わりたいという切実な願い」を、甘くポップなメロディラインに乗せ、ソフィーが感情を染み込ませるように歌う。そんなポップでキャッチーなメロディとのギャップを際立たせるような、重厚でノイジーな激しいバンドサウンドも最高だ。

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 彼女の曲が持つ「内省性」は多面的だ。“Abigail” のような現実世界から離れた先を見つめる内省もあれば、“Bones” のようにソフィーの内なる空虚感や心の叫びを表すものもある。続く “Shotgun” では、愛の二面性(献身と危うい情熱)をダークでサイケデリックなドリーム・ポップに乗せて囁き歌った。その不穏なサウンドと破壊的なシューゲイズは心を分断するようだ。そんなダークな雰囲気は残しつつも、ポップな浮遊感のあるサウンドにシフトした “Dreaming of Falling” は、まるで夢の中を彷徨うようなソフトなタッチのソフィーのボーカルとサイケデリックなアレンジのギャップが印象的だった。

 ライブ序盤、サッカー・マミーらしさが全開だったパフォーマンスは中盤へ移行するにつれて、徐々に『Evergreen』が持つオーガニックなサウンドと、より人間的な感情の機微を帯びていった。彼女のディスコグラフィの中でも人気の高い “Cool” では、鬱屈とした感情のが込められた歌詞を歪んだギターと太いベースラインが吹き飛ばし、続く “lucy” では「人間が持つ内なる邪悪な心」を象徴するような薄暗い響きのあるサウンドが展開されていった。ソフィーのボーカルからは、その「邪悪な心」に抗おうとする生々しい感情が伝わってきて、そこから共感が生まれ、徐々に感情移入が深まっていく。そんな彼女のボーカルにこそこそ、彼女の“人間らしさ” が強く表れていると言えるのかもしれない。

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 今回のライブの核となっている最新作『Evergreen』は、ソフィーの「最愛の母を亡くした後の喪失感」が大きなテーマになっている。このアルバムに収録されている曲から感じるのはソフィーの「喪失感と揺らぎ移ろう心」。そんな心模様をソフィーは、囁くようなボーカルに込めて歌い上げていく。

 まず、“Thinking of You”では、母との思い出を反芻し続けてしまうことを《How long is too long(いつまで許されるのだろう?》と、「執着」と「開放」の間で強く揺れる感情が溢れるようなボーカルで表現し、続く “M” では《’Cause I miss you / Like a loyal dog / Waiting by the door to hear the lock turn(あなたがいなくて寂しいから / 忠誠心の高い犬のように / ドアの傍で待っている)》と、母への思いを痛切な気持ちを歌いあげた。これらの楽曲は、どちらも一聴すると悲しい気分になりそうなものだが、この日の彼女の声を聴いていて、不思議とそうはならなかった。その理由は、ソフィーの感情が心の中で揺らめくようなボーカルと、曲に込められた感情のグラデーション、そしてそれを時に優しく包み込み、時に突き放すようなバンドアレンジが織りなす絶妙なアンサンブルにあったからだ。

 ここでロラムとニックが一旦ステージを後にし、ソフィー、ジュリアン、ロドリゴの3人のみが残った。その間も続いていた “M” の美しい旋律のアウトロは、次第に幻想的な音色へと変化し、そのままシームレスに “Lost” へと引き継がれていった。ここまでのバンドメンバー5人による、ポップなサウンドと歪みの強いサウンドとのギャップを印象付けた演奏とは対照的に、『Evergreen』に収録されているこの曲は、ソフィーの繊細なボーカルと、霧がかった森の中にいるかのようなアンビエントなフォーク・サウンドが印象的。ソフィー、ジュリアン、ロドリゴの3人が奏でるそのサウンドは、ただただ美しく、ソフィーの心の中にある「母を亡くした喪失感」と「母から受け継いだものを背負い生きていることを受容する心」─── それらの感情が彷徨っているような心模様も表れていて、聴き入っているうちに言葉を失ってしまった。そんな切ない気持ちを感じながら曲が静かに幕を閉じると、客席からまるで「ソフィーの心模様」を受容するような、大きな拍手と温かい歓声が沸き起こった。

 曲が終わると、ソフィーひとりがステージに残り、6年前の来日の時のことを口にした。「前回ここに来た時は、まだアルバムを1枚しか出していなかった頃だと思う。これから演るのはそのアルバムの曲で、大学にいた頃からずっと長く演奏している曲です。だから、久しぶりに(ここ日本でも)披露しようかなと思います」と語り、ソロで披露されたのは “Still Clean” 。彼女の原点とも言えるミニマルなベッドルーム・ポップで、ソフィーはシンプルな美しいギター・アルペジオと共に、澱みのないクリアな声で歌い上げた。

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 バンドメンバーがステージに戻ると、ライブは終盤に突入した。ソフィーの心の中にある「自己嫌悪」や「自分を偽モノと感じてしまう心理」、それを皮肉めいた歌詞と、徐で表現した “royal screw up” では、そのサウンドのコントラストも相まって強く胸に刻まれ。アウトロからシームレスに始まった “Salt in Wound” でも、徐々に感情が溢れ出していくようなスロー・バーンなサウンドデザインが、喪失感から生まれた「心の痛み」を「忘れる」のではなく、《Salt in wound(傷口に塩を塗る)》ことで「忘れない」という、複雑でやるせない感情を内包した強い意志が強くに伝わってくるようだった。

 大歓声の中、ステージで光る琥珀色の照明は強く瞬き、“Salt in Wound” の余韻を具現化したかのような緩めのジャムサウンドが鳴る中で、ソフィーが6年ぶりの来日公演に来てくれたファンたちに向け、感謝の言葉を口にした。「今日は来てくれてありがとう!今回は6年も空いてしまったけれど、次はもっと早く戻ってくるよ。また戻ってくるね!」。それは至ってシンプルな感謝の言葉ではあったが、不思議と胸にくるものがあった。それは、楽曲を通して彼女が剥き出しの自分でファンに向き合ってくれたからに他ならない。

 ライブ本編のラストを飾ったのは、支配的な恋人に対する怒りと決別が歌われているこの曲は、「あなたのクソ犬にはなりたくない」という宣言から始まる痛快なアンセム “Your Dog” だった。MCの最中にも鳴り続けていたアンビエントなバンドサウンドが、徐々にフェードしていく展開は感動的で、期待感と共に歓声が湧き上がると、“Your Dog” のギターイントロでファンの感情はさらに高まった。痛烈な歌詞、どこか冷ややかで淡々としているソフィーのボーカル、気怠くダークでグルーヴィーなベースラインを中心としたバンドサウンド ─── それぞれのレイヤーにあるコントラストは、痛烈な歌詞をより際立たせ、自分を縛り付ける「何か」から開放してくれるような力強さを感じた。

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 “Your Dog”のアウトロのギター・フィードバックノイズが鳴り止むと同時に、会場には大歓声と、アンコールを求める大きな手拍子が湧き上がった。そんな中で再びステージに現れたメンバーたち。荘厳なギターサウンドが鳴り響く中、ライブのラストを飾ったのは “Scorpio Rising” だった。アコースティックで穏やかなヴァースから、情熱的に激しく燃え上がるコーラスパートへと展開するこの曲は、会場のファンたちの体温をさらに上昇させていった。メランコリックな美しいメロディ、荘厳な中にも激しさやポップな音色のSEをアクセントに加えたバンドサウンド、そして、その中心で熱い感情を淡々と歌うソフィーのボーカルが織りなすアンサンブルは、まさにサッカー・マミーの楽曲性の象徴だったような気がする。「東京のみんな、本当にありがとう!また次回会いましょう!」と笑顔でステージを去ったソフィーとメンバーたち。会場に漂う余韻と残り香は、まるで会場にいたファンたちの満足感を表しているようだった。

 サッカー・マミーの曲には、聴いているだけで引き寄せられてしまう、そんな不思議な魅力がある。そのひとつの理由として、感情が直接伝わるサウンドデザインと、囁くようなソフィーのボーカルとの対比があるわけだが、やはり核になっているのはソフィーのボーカルにあると思う。彼女の歌声からは、一見穏やかでありながらも、人間の苦悩や葛藤が確かに感じられる。それは内なる感情を抑え込んでいるようにも映り、彼女のパフォーマンスを観ていると、彼女の静かな歌声の奥に確かなエモーションが揺らいでいるのが伝わってくるのだ。
 そして、ソフィーの紡ぐ歌詞には、辛く悲しい感情をも受け入れ、前に進もうとする強い意志と、そこにある人間的な葛藤が凝縮されている。そしてそんな姿には人間としての美しさを感じずにはいられなかった。この日のファンは、彼女の曲に込められた感情をライブを通して感じ取るように受け入れ、それに呼応するかのように彼女に歓声を送っていた。そんなナチュラルなコミュニケーションは、アーティストとファンの理想的な関係性なのかもしれない。そんなことを感じたサッカー・マミーの6年ぶりの単独公演は、「また続きを、今すぐにでも観たい」、そう自然と感じさせるような強い求心力があった。

<セットリスト>
01. circle the drain
02. Driver
03. Abigail
04. Bones
05. Shotgun
06. Dreaming of Falling
07. Cool
08. lucy
09. Thinking of You
10. M
11. Lost
12. Still Clean (Sophie solo)
13. royal screw up
14. Salt in Wound
15. Your Dog
EN01. Scorpio Rising

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by kokoro