存在し続けることによって、俺は勝ち続ける
昨年、最新アルバム『SONGentoJIYU』のリリースと全国ツアーを経て、今年は30周年の節目を迎えるeastern youth(イースタンユース)。昨年7月以来、9ヶ月ぶりとなるホーム・グラウンド、渋谷クラブクアトロでのライブ「極東最前線」が4月20日に行われた。
20時過ぎ、Rahsaan Roland Kirkの”I Say a Little Prayer”をバックにメンバーがステージに登場。1曲目の「ソンゲントジユウ」は、吉野寿(Gt/Vo)の叫びに合わせてフロアからも「そうだろ?」の声が湧き上がり、この曲がeastern youthの代表曲としてすっかり定着したことを実感した。「夏の日の午後」は田森篤哉(Dr)と村岡ゆか(Ba)が生み出す大きくうねりを醸すグルーヴと、吉野の渾身の歌唱、観客の合いの手が空間に凄まじいエネルギーが空間を満たす。「砂塵の彼方へ」のサビは、村岡がコーラスで加わり、長い間親しまれてきた代表曲にもかかわらず、印象が一気に刷新されたような彩りに驚かされた。
4月にふさわしい「スローモーション」のあとに演奏された「路傍の影」でも、村岡がコーラスに加わることにより、メロディーの良さがいっそう引き立っていた。その2曲ををじっくり聞かせて、中盤に突入。吉野は前を真っ直ぐ見据えて宣言する。
「俺は勝つために生まれてきたんじゃねえ。俺は勝負に勝つために生まれてきたんじゃねえ。人間一匹、誰が、何に、どうやって勝つつもりなんだよ 。俺は負け続ける。あくまでも、果てしなく、負け続ける。負け続けることによって、俺は存在する。存在し続けることによって、俺は勝ち続ける。勝ち続けて、勝ち続けて、今のところ連勝だ。毎日、毎日、連勝してる。なぜなら、俺はまだ生きてるからだ」
ギターをかき鳴らしたのち、「空を見上げて俺の名を呼べ!」の叫びとともにカウント。堂々たる響きの「DON QUIJOTE」のカタルシスが、空間を満たす。
それにしても、禅問答的、かつ吉野のスタンスが凝縮されたような言葉だった。この日のゲスト、MOROHAのライブから感じ取られた、彼らの尽きせぬ野心と対照を成しているようにも思えた。自身を「強くなりたい」と叱咤鼓舞し、作品のみならず音楽シーンの中でも真剣に高みへと昇り詰めようと歩み続けるMOROHAと、自分の小ささ、弱さを認めつつ、自分が自分自身として生き抜くこと、歌詞を借りれば「生存の実感と尊厳と自由」への渇望を、初期から全くブレずに突き詰める吉野。どちらが良い悪いの問題ではなく、勝負のフィールドが違うのだ。
「たくさんの人が別れを告げて去っていきましたよ。どうやら俺はまだ踏みとどまっているらしい。時計台の鐘が鳴ってるよ」
と語って始まった、「テレビ塔」。曲調に呼応して溢れ出す、吉野のむき出しの感情に息を飲む。「同調回路」、「おとぎの国」も鋭さと重量感を伴って響く。中盤のクライマックス3曲が最近の曲で固められ、eastern youthがメンバーチェンジ後、音楽的なピークを重ね続けていることが示された。
「街はふるさと」の前にも、吉野は長めに語った。
「俺がもう年寄りになったせいもあると思うんだけど、一人で行動することが多くてね 。ガキの頃はたくさんの人とつるんでね、あっち行ったり、こっち行ったりさ。(今は)なんだか一人の方が気楽でね。とはいえ、一人は寂しいなって思うこともあるね。一人でいたら、惨めなんじゃないかなって思ったりしてさ。だからね、トイレで弁当食う人の気持ちわかるよ。みんな笑ってんじゃねえかなと思ってさ。『あいつはダメな野郎だ。だから友達もいねえんだ。独りなんだ』ってな。まあ、そのとおりですよ。だからってね、便所で弁当を食うことないんだよ。堂々と広げて食ってほしい。恥ずかしいことじゃねえもん。別にさ。一人だってことはさ。そう思ってるよ」
MOROHAのMCアフロがeastern youthの思い出として語った「eastern youthは『お前は徹底的にひとりぼっちだ』って、そう言ってくれました。だけど、最後に小さな声で『俺もそうだよ』って、そう言ってくれました」の「俺もそうだよ」を、そのまま吉野の言葉で語るとこんな感じになるのかもしれない。偶然だろうが、極東最前線でMOROHAとの顔合わせが実現したことの、意義を感じる瞬間だった。
終盤は「荒野に針路を取れ」「街の底」とピークを保ち続け、「街の底」で吉野はフォトピットの柵に足をかけるまでに観客に近寄り、フロアからも大歓声が返ってきた。
アンコールに応えて再びステージに登場した3人。村岡が「私事なんですけど今年から花粉症になりまして、演奏中鼻水が止まらなくて、ずっと飛んでて、非常に恥ずかしかったです。私のがヤバイです」とMOROHAの代表曲「俺のがヤバイ」を受けてみせて、フロアが笑いに包まれる。吉野も村岡へ「よく言った!」と言わんばかりに親指を上げて見せていた。
ダブルアンコールの吉野のMCも時事ネタを織り交ぜたもので、和やかな空気。しかし演奏は胸に染み入る「青すぎる空」と圧巻の「踵鳴る」で駆け抜けて、流石の締めくくりだった。満場の拍手喝采を受けながら、吉野はフロアへ深くお辞儀をする。すべての力を使い切ったような足取りだが、充実感をたたえた表情だった。メンバーが去った後、二階堂和美の「レールのその向こう」が流れ、フロアの観客を見送った。
次回の極東最前線のゲストは、吉野とも旧知の仲のDMBQ。DMBQは今まで3回極東最前線に登場しており、2000年の新宿リキッドルーム公演はサブタイトルが「新宿地獄人間郷」だったこと、極東最前線屈指の濃密なライブだったことが、今でもハッキリと思い出せる。18年を経て、渋谷クラブクアトロが一体どんなサイケデリック地獄に染まるのか。当日が待ち遠しい。チケットは、5月6日(日)まで、オフィシャルサイトで先行予約を受け付けている。
<SET LIST>
01.ソンゲントジユウ
02.夏の日の午後
03.砂塵の彼方へ
04.スローモーション
05.路傍の影
06.DON QUIJOTE
07.テレビ塔
08.同調回路
09.おとぎの国
10.街はふるさと
11.荒野に針路を取れ
12.街の底
En.1 青すぎる空
En.2 踵鳴る
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