WILKO JOHNSON | 東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO | 2018.9.18

ロックンロール健康法!

注)このレポートは演奏曲名が記載していますので、事前情報を入れないでライヴに臨みたい方は、ライヴ後にお読みください。

ウィルコ・ジョンソンをみていると、癌には適切な治療が一番なんだなと思う。こんなに元気になった姿でステージに立ち、ギターを弾くのだ。声の張りなどはむしろパワーアップしているのではないかと思うくらいだった。

開演時刻は働いている人は助かる20時で、やはり仕事帰りの人が多い感じである。渋谷クラブクアトロには多くの人が詰めかけ、始まる前から熱気が高まっていた。場内に流れている曲に反応する人もいて、ジョナサン・リッチマン&ザ・モダンラヴァーズの”Roadtunner”などで体を揺らしている。

20時ちょうどにウィルコ・ジョンソンとベースのノーマン・ワットロイ、ドラムのディラン・ハウが登場する。メンバーはいつものシンプルに黒いシャツを着て特に飾り気はない。演奏するスタイルもステージの見せ方も、いつもの美学が貫かれていた。日本で大震災があっても、自分の生死にかかわる大病があったとしても、ステージに立つときは「いつもの」ができる70歳を過ぎたロックンローラーというのが奇跡といっていい。

違っていたのは、30年ぶりにオリジナル曲の新譜『ブロウ・ユア・マインド』をだしたことで、ライヴの前半は主に新譜からの曲が演奏された。小気味のよい”Love the way you do”から始まった。大歓声のなかウィルコはピックを使わずにギターをかき鳴らす。いつものようにカクカクした機械ぽい動きでステージを右から左へ、そしてDr.Feelgood時代のアルバム『Stupidity』(邦題だと『殺人病棟』)とジャケット写真と同じく目を見開いて驚いたような表情をするのだ。

ツアー初日なのか、新譜だからだろうか、演奏が合わないところもあったけど、熟練の3人なので、ライヴ中にきっちり修正されていった印象がある。何よりも、ウィルコがガシガシと元気にリズムを刻んで、ノーマンが動きの多いメロディアスなベースを弾き、ディランがビシビシとドラムを叩いてくる3人の音のフレッシュさは格別なのだ。歳をとっても音そのものが枯れない、でも若々しいわけではない、でも元気という、なんとも絶妙なものを味あわせてくれるのだ。これは人生を重ね、この歳に到達しないとできないものだろう。そしてロックンロールは健康にいいのだ! と根拠はないけど、信じられるような気にさせてくれるのだ。

“Take it easy”や”Dr Dupree”のどっぷりとしたレゲエ、”Going back home”のブギーなど、緩急織り交ぜて多彩に攻めてくる。ちょっとづつ小出しにしてきたマシンガンギターも後半に大放出して歓声を浴びていた。”Everybody’s Carrying a Gun”の長いソロコーナーでノーマンとディランもたっぷり紹介されこの盤石な3人をフロアを埋める人たちは愛しているのだという反応だった。もちろんDr.Feelgood時代からの定番”Roxette”や”Back in the Night”も演奏されてフロアも大満足。本編ラストの”She does it right”で最高潮になった。ウィルコもノーマンも楽器を抱えながらステージを去る。

そしてアンコールは、いつものように”Bye Bye Johnny”。チャック・ベリーにオマージュを捧げるようにダックウォークを披露、そしてギターを頭の後ろにして弾くなどできるアクションは全部やります的なエンターテインメントをみせてくれた。楽しいし、かっこいいし、死を目前にしたことのある人間についての哲学であり、ある意味健康法でもある。そんな姿に励まされる思いだ。

速報およびフォトレポートはこちら
http://limpress.com/report/4602

<setlist>
01.Love the way you do
02.You want me you got me
03.Take it easy
04.Going back home
05.Dr Dupree
06.Marijuana
07.That’s the way I love you
08.Keep on loving you
09.When I’m gone
10.Roxette
11.Letting the night go by
12.Everybody’s carrying a gun
13.Back in the night
14.She does it right

En.Bye Bye Johnny

▼WILKO JOHNSON | 記事一覧
SMASHING MAG アーカイブス

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Keiko Hirakawa