ライヴ・ミュージックで満たされるオースティンを駆け抜けて
今年で30周年を迎えたサウス・バイ・サウスウェスト(以下SXSW)に行ってきた。サウス・バイことSXSWミュージック・フェスティバルは、世界中から2000組を超える有名無名のアーティストやバンドが集結し、約6日間にわたってライヴやショーケースを行う世界最大級の音楽イベントだ 。2度目の参加となる今年も蓋を開けてみれば、熱気あふれる無数のライヴ・パフォーマンスをはじめ、オバマ大統領夫妻の来訪、ジャパン・ナイト20周年から最終日の発砲事件に至るまで、話題は盛りだくさんだった 。残念ながら、これからSXSWが盛り上がるという金曜日の夕方に帰国しなければならなかったけれど、それまでにテキサス州オースティンで体験してきたことを書き残したいと思う。
ライヴやショーケースだけでなく、セミナーやパネル・ディスカッションなど、たくさんの見所があるけれど、個人的には新人アーティストをチェックするのが一番の楽しみ。BBCがプッシュする期待の新人リスト、サウンド・オブ・2016に選出されたフランシスは、キーボードの弾き語り形式で情感のこもったパフォーマンスを披露。同リストに入っていたシンガー・ソング・ライター、ビリー・マーティンの繊細な魅力にも光るものがあったし、デビューしたばかりのL.A.発R&Bトリオ、キングが繰り出すスムースなサウンドが心地よくて、観客の反応も上々だったように思う。それに、ブレイク間近と思われるN.Y.ブルックリン発のロックバンド、サンフラワー・ビーン。ラジオ・デイ・ステージで彼らのライヴを観たけれど、演奏力が高くてカリスマ性のあるパフォーマンスはかっこよかった。そして、今年フジロックへの出演が決定しているUKアーティスト、ジャック・ギャラット。ギター、キーボード、ドラムパッドを駆使したワンマン・ショーなのだが、そのマルチな才能も素晴らしいし、ライヴで見るとダンス・ミュージックの要素が強くてとにかく踊らされる。ジャックは静と動のバランスをうまく使ったパフォーマンスで会場を盛り上げていた。フジロックでのパフォーマンスも期待していいはずだ。
また、新人ではないけれど、熱気あふれるライヴが印象的だったのは、R&Bシンガーのケラーニと、マンチェスター発のガールズバンド、ピンズ。ケラーニは超満員の会場を完全にロックオンしていたし、ピンズのオシャレな見た目と裏腹の男前なパフォーマンスは最高にロックだった。ガールズバンドといえば、昨年初出演からデビューアルバムのリリースを経て戻ってきたスペインのガールズバンド、ハインズも、底抜けに明るいパフォーマンスで相変わらず人気を集めていたらしい。昨年ライヴを観たけれど、「楽しんだもん勝ち!」を体現する彼女たちのライヴは、一見の価値ありだ。
日本人アーティストとしてもっとも注目を集めたのは、水曜日のカンパネラ。初日の夜にライヴを行ったコムアイは、観客の中に練り歩いたり、動画アプリを使ったり、会場入り口付近のブロックに駆け上ったり、はたまた吉備団子を配ったりとステージに収まりきらないパフォーマンスで観衆を圧倒。ライヴは大盛況だった。初めてのアメリカでのライヴで、萎縮することなく堂々とパフォーマンスするコムアイのエンターテイナーっぷりに心底感動してしまった。6月のメジャーデビューも発表され、今後の国内外での活動が楽しみだ。一方で受難があったのは、今年20周年を迎えた日本人アーティストのショーケース、ジャパン・ナイト。出演する7組のうち3組が入国トラブルのため、強制送還されてしまったのだ。帰国を余儀なくされたバンドは、本当に気の毒だった。しかし、そこで見えたのが日本人の結束力。3組の穴を埋めるために、エックス・ジャパン(X JAPAN)のドキュメンタリー映画『ウィー・アー・エックス(We Are X)』上映でSXSWを訪れていた同バンドリーダーのヨシキや、アレクサンドロス([Alexandros])らの出演が決定。私は参加することができなかったけれど、取材したスタッフの話によれば、過去最高の盛り上がりだったそうだ。
SXSW終了後に発表されるゲルケ・プライズ(Grulke Prize)は、SXSWでもっとも素晴らしいパフォーマンスをしたアーティストに贈られる。この賞は毎年SXSWで話題を集めたアーティストをうまく捉えているのだが、今年アメリカ国内部門で受賞したのは、L.A.発のラッパー、シンガーソングライター、アンダーソン・パーク。アメリカ国外部門では、 第2のアデルとの呼び声も高いUK発の歌姫、ラプスリーが受賞した。ベテランアクト部門では、観に行った誰もが絶賛していたイギー・ポップが受賞。新作『ポスト・ポップ・デプレッション』が好評のイギーは、クイーン・オブ・ストーン・エイジのジョシュ・オムや、アークティック・モンキーズのマット・ヘルダーズら豪華アーティストを従えてのパフォーマンスが大好評だった。新人アクト2組に関しては、きっとこれから耳にすることも増えていくだろう。
今年はスマッシング・マグによる動画レポートにも参加しつつ、ライヴハウスをはしごしていたら、あっという間に3日半の滞在期間が終了してしまった。最終日まで体験し切れなかったのは心残りだったけれど、逆に最後まで残ったとしても味わい尽くせるわけがないのだと思い直すことにした。短期間でもキラリと光るアーティストたちをチェックできたことに感謝しつつ、来年の参加を夢見るとしよう。音楽を中心に個人的に体験したことを長々と書き連ねたけれど、少しでもSXSWが生み出す熱気が伝わっていれば幸いである。