ストーリーテラーは国境とジャンルを軽々と超える
2月3日、大阪SOCORE FACTORYで開催されたアイソレーション・ベルリン初来日ライブへ足を運んだ。アイソレーション・ベルリンはその名の通りドイツ・ベルリンのバンド。ドイツといえばクラフトワークをはじめ、日本でも知名度の高いレイヴフェスティバル「ラブパレード」など電子音楽、テクノの印象が非常に強い。そんな固定概念に反して、彼らはドイツ版ザ・スミス、ジョイ・ディヴィジョンと称され、ドイツの音楽シーンでいまもっとも快進撃を続ける4人組バンド。本国ベルリンでのライブは1300人の動員を記録したという大躍進バンドの初来日パフォーマンスに、自然と胸が高まる。
今回の初来日ツアーは、東京ではTAISHI IWAMI率いる新イベント「SUPERFUZZ」、大阪ではAlffo Recordsがサポートすることもあり、ロック・カルチャーを愛するファンからの注目度がかなり高い。事実、ここ大阪にも多くのファンが詰めかけた。オーディエンスは20から30代を中心に国籍も豊か、大阪のロック・カルチャーを語る上での重要人物まで集い、フロアは大いに賑わっていた。
この日のSOCORE FACTORYは、単なる来日ライブではなくロックパーティーという言葉がふさわしい空間だっただろう。School In Londonの村田タケルによるDJでスタートし、昨年のフジロックフェスティバルに出演したAnd Summer Clubのライブ。Alffo Recordsのオーナーであるナカシマセイジは、さまざまなジャンルをロック解釈したプレイで場を盛り上げ、メインアクト前から最高の空気ができあがっていた。
そして、いよいよ今回の主役であるアイソレーション・ベルリンが登場。ボーカルのトビはレザーのジャケット、ベースのディビッドはスーツ、ギターのマックスとドラムのジミーはTシャツというカジュアルな装いでステージに舞い降りた。登場のSEもなく、フラっとステージに入るラフな姿を目にして、リムプレスのインタビューで語られたマックスの言葉をふと思い出した。「見た目やジャンル、アティチュードを気にするミュージシャンって多いけど、僕らはかっこつけたりはしない。幅広く受け入れられるのは、音楽がアティチュードを超えて響いているってことだと思う」いきなりそれを見せつけられた気分だ。この日が節分ということもあり、ステージから豆が投げ入れられ、ジミーの顔には鬼のお面が。日本のファンとしては嬉しいサプライズ演出に、思わず会場から笑みが溢れる。
本編は軽快な「Annabelle」でスタート。ザ・スミスとザ・ストーン・ローゼスを彷彿とさせるギターが心地よい「Marie」へ続く。序盤はミディアムテンポの曲が多く、トビの歌い方が特に印象的に聞こえた。メロディに乗せて彼の放つ言葉は、まるで生きているかのように強いパワーを宿している。「僕らの音楽はストーリーを伝える感覚に近いんだ」とトビが述べているのは、まさにこのことなのだろう。トビが歌っている姿は映画のワンシーンさながらの迫力があり、フロントマンとして圧倒的な存在感を放つ。硬質で緊張感のあるサウンドにトビの色気と表現力が融合することで、アイソレーション・ベルリンを作り上げているのだと実感した。
序盤のミドルテンポから一転、2ndアルバムのタイトル曲「Vergifte dich」、「Der Bus der stillen Hoffnung」、「Die Leute」と少しずつテンポを上げていくとともに、フロアの熱も上昇。バンドアンサンブルもそれに呼応するように熱量が高まっていき、トビもシャウトでそれに答える。シンプルなビートとソリッドなサウンドが織りなすダンスロックナンバー「Prinzessin Borderline」で、中盤のクライマックスを迎える。が、この曲の最中にマックスのギターの弦が切れるというアクシデントが発生。曲終了後も弦の張り直しが続いていたが、トビを筆頭に”Arigato Osaka”と口ずさむ即興ソングを披露し、それが大盛り上がり。豆まきに続き、大阪公演でしか見れないサプライズ演出となった。
本国のライブではオーディエンスが合唱するほど人気でメランコリックな「Fahr Weg」で復活。そこからジョイ・ディヴィションのカバー曲「Isolation」へ。ドイツのローリングストーン誌が行った現行のジャーマンバンドによるジョイ・ディヴィジョンのカバー企画で生まれたこの曲を、日本で見れたことはかなり嬉しかった。
ここからラストまで、さまざまなフィーリングでオーディエンスたちの心を内側から揺さぶってくる。「Meine Damen Und Herren」ではオーディエンスを爆発的に踊らせ、ベルリンの連呼が美しい本編ラストの「Isolation Berlin」では感傷的な気分に。余韻に浸る間もなく、続くアンコールではアッパーな2ndアルバムのリードシングル「Kicks」、そしてラストの「Wahn」へ。
彼らのサウンドはジャンルを飛び越えている。シューゲイズ色が強い曲もあれば、ダウナーなムードの曲もある。ラストの「Wahn」のギターリフはとびきりポップだし、ガレージやパンクなどジャンルをカテゴライズできない。しかし、鳴らされているものは一貫してアイソレーション・ベルリン・サウンド。先にトビの言葉を引用したように、彼らはストーリーを音楽で伝えている。ドイツ語の美しさでさえ、その世界観を表現するための重要なファクターとなっているのだ。ジャンルや言葉を軽々と飛び越えていく、この新しい体験を初来日公演に足を運んだ誰もが肌で感じたに違いない。大阪でもそれは間違いなく受け入れられていた。ラストの曲でトビが勢いよくフロアに飛び込んだ、あの瞬間のオーディエンスの表情を見れば明らかだ。大歓声と拍手と素晴らしい笑顔でトビを迎えた、あの光景が忘れられない。
このタイミングでアイソレーション・ベルリンのライブを見れたことは本当に嬉しい。次はフジロックフェスティバルなどの大型フェスで、さらに多くの日本人オーディエンスを虜にするはずだ。そんな彼らのことを想像すると思わずニヤけてしまう。