夢による覚醒
マグマは2015年以来の来日公演。2019年6月には、過去にはライヴ録音があるものの、スタジオ盤として新譜となる『Zess (Le Jour De Neant)』がリリースされた。4年ぶりの来日公演で新譜か! と胸踊っていたけど、どうやら『Zess』は最近のライヴでは演奏されてない様子だった。普通、新アルバムがでると、そのプロモーションの一環としてツアーをするのだけど、マグマはそういうものとは隔絶しているのだろうか。それもマグマの孤高さを感じさせるエピソードのひとつとして回収してしまう。もちろん、ホーン隊などいろんなプレイヤーが必要なので帯同させることができないこともあるかもしれない。
前日に渋谷wwwでおこなわれたアコースティックライヴでは、『Zess』のさわりだけ演奏されたようだけど、やっぱりフルで聴きたい。『Zess』は反復するリズムにいつものようにマグマらしいコーラスが乗って徐々に頂点に近づいて、クライマックスで絶頂に達する30分以上の大作であり傑作で、これライヴで聴きたいなぁと思うのであった。
六本木のEXシアターは満席だった。年齢層は高く、男が90%くらいを占めていた。客席で話されるバンドはアレアとかキャラバンとかフォーカスとかであり、そういうのが好きな人が集まった感じである。会場ではサン・オーの曲がが流れている。ドゥームなメタルでありながらアンビエントである不穏な曲は前回の来日公演のときと同じだ。
18時10分ころ流れる曲も止まり、静けさが会場を包む。18時15分ころ暗転してバンドが登場した。リーダーでドラマーのクリスチャン・ヴァンデはステージ中央。シンバルの数は多いけど、基本的にはシンプルなドラムセットである。バスドラムが小さい。コーラスを担当するステラ・ヴァンデ、ハーヴ・アクニン、イザベル・フォイヨボゥワはステージ下手の台にいて、曲によってはステージ中央で歌うこともある。下手からヴィブラフォンのベノア・アルジアリ、ギターのルーディ・ブラス、クリスチャン・ヴァンデを挟んで、ベースのフィリップ・ブソネ、上手にキーボードのジェローム・マルティノである。
クリスチャン・ヴァンデもすっかりお爺さんになっているけど、まだまだドラムは迫力あるし、湧き上がるパワーを感じる。ルーディ・ブラスはゴツい男揃いのバンドにあってほっそりした優男の風貌であるけどレスポールが唸りを上げるギターはよい音が鳴っていた。フィリップ・ブソネのベースはいつものように高速フレーズを繰りだしてクリスチャン・ヴァンデのドラムと熟練したコンビネーションをみせる。ベノア・アルジアリのヴィブラフォンとジェローム・マルティノのキーボードは、ゴリゴリした音の中に浮遊感を与える。
MCをするのはステラ・ヴァンデで、お客さんたちやスタッフの方々に英語で感謝を述べる。男1人、女2人の男女混声合唱団はソロをとるとオペラぽくもあり、コバイア語という架空の言語で歌われる世界に強力に引き込んでいく。クリスチャン・ヴァンデも立ち上がって歌う場面があり、歌いながら素手でシンバルを殴る姿は畏怖の念を抱く。
“Ëmëhntëhtt-ré”から始まったライヴは、マグマの呪術的なサウンドが、会場を包み、かき回し、コバイア星まで引き上げ、爆発して、噴火に至る。この世がクソッタレなら、現実に侵されないくらいの世界を作り上げてやる。夢をみるけど、その夢によって別の世界が覚醒するものを作り上げてやる、という強い強い意志をマグマから感じる。マグマのライヴに臨むとき、鑑賞でなく体験なのだと、2時間半くらいの旅であるのだと、心に強い刻印が押されたかのようなものだ。
“Theusz Hamtaahk”、“Wurdah Ïtah”、“Mekanïk destruktïw kommandöh”と最近のセットリストで定番となる曲が演奏された。本編が終わるとお客さんたちはみなスタンディングオベーションでバンドを讃えた。すさまじい拍手。そしてアルコールを求め、最後に“De Futura”。ゴリゴリしたベースが跳ねるヘヴィファンクメタルプログレッシヴトランスオペラ。クリスチャン・ヴァンデが楽しそうにドラムを叩いていたのが印象的である。もちろんこの曲が終わるとスタンディングオベーションであった。