【フジロック’25総括】

今年のフジロックは正しさが証明された

今年のフジロックは人が多かった。売り切れた2日目だけでなく、前夜祭を含めて他の日も昨年を上回っていたし、コロナ禍以降でも一番賑わっていた。しかも、世界的なビッグネームをヘッドライナーに迎えなくても、ロッキングオンの山崎氏やクリエイティブマン清水社長が「今年のフジロックは発明だ」と評していたように、円安や洋楽ビッグネームの稼働が少ない中、「通好みの絶妙な洋楽ヘッドライナー+(英米に限らず)先鋭的な洋楽アーティスト+邦楽の新旧ビッグネーム」という組み合わせで結果がでた。これは来年以降に大きな影響を与えるのではないか。それはフジロックが培ってきたお客さんや会場の雰囲気への信頼感の蓄積があったこともある。もちろん、来年はビッグネームが動く年かも知れないので、今年のよい空気が続くかはわからない。

【地殻変動を感じた】

1日目グリーンステージでHYUKOH&Sunset Rollercoaster AAAにはいろんな意味で感じるものがあった。グリーンステージがかなり埋まっていたこと。次のVaundy待ちの人も多かったかも知れないけど、反応もよかったのでこの2者のコラボレーションを目的とした人も多かったのではないか。ちょうど晴れた夕暮れどきで雰囲気も最高によかった。隣で観ていた男(たぶん中華系の人)が“Tomboy”を演奏中に涙ぐんでいて自分も思わずもらい泣きしてしてしまいそうになった。韓国と台湾のバンドでグリーンステージをお客さんで埋めてこんなに素晴らしい空気を作ることに感動した。そして今回のフジロックの目指したところが間違っていなかったことが証明されたのだと思ったし、英米のアーティストでもなく、邦楽の大物でもないけどこの集客で作られた空気はフジロックの地殻変動のように感じられた。

【今更だけど発見】

グリーンステージの後方にある通路を歩いていてプライオリティテントあたりに差し掛かったときの音響が気持ちよかった。山側から自然に反響する音がちょうどよく耳に残り、いつまでも聴いていたい感じになる。自分は移動中でCreepy Nutsがやっていたときだった。このまま留まって、この音響を聴いていたいと思わせた。今まで気づかなかった。この辺りで聴いている人は気づいているのだろうか。

【小さなステージも充実】

今回はところ天国の青空寄席「筍亭」、苗場食堂、ルーキー・ア・ゴーゴーで複数回観ることができた。何万人も集めるステージの迫力も素晴らしいけど、この大きなフェスの中にあるこぢんまりとしたステージで出会うよさもある。

青空寄席では、浪曲師の玉川太福や関西のピン芸人ナオユキがよかった。昨年もでた玉川太福は2年目の余裕もでてきてフジロックに対応していたし、日本の伝統話芸の音楽的な側面も感じられるようになった。ナオユキは大阪のうらぶれた酒場で繰り広げられた悲哀をユーモアでくるみ、まるでブルースを歌うように語る。

苗場食堂も充実していた。直接観たのは、2日目のUSと3日目の苗場音楽突撃隊だったけど、作業をしているところに近くて音はけっこう聴こえたこともあり、「今年の苗場食堂は充実してるなぁ」と他のスタッフとも話したくらいだった。注目のKhaki、後から評判を聞いたLAUSBUB、リハーサルしか聴けなかったけどプログレッシブロックのEVRAAK、ファンキーなBRADIO、大きなステージでもよかったのではないかtoconomaやNOT WONKなどこれだけでも小規模なフェスが成り立つのではというメンツだった。

ルーキー・ア・ゴーゴーもたくさんのメインステージ出演者を輩出しているように今年もメインのステージにでられるバンドがいたのではないか。自分が観たのは雪国とテレビ大陸音頭だったけど、特にテレビ大陸音頭は人がたくさん集まり、さすがに話題のバンドらしく盛り上がっていた。

【今年のベスト】

今年は全般的によかったし、グリーンステージのライヴも充実していたけど、レッドマーキーでおこなわれたYHWH NAILGUN(ヤハウェ・ネイルガン)が素晴らしかった……というより、この実験的で狂った感じの音楽が許され受け入れられる懐の深さを感じた。

今年のフジロックを踏まえて来年はどのようになるか。この路線は正しかったわけで、引き続き、このフェスを音楽が好きな人のためのものであって欲しいと思った。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Nobuyuki Ikeda