パンと音楽とアンティーク2025秋 | 東京オーヴァル京王閣競輪場 | 2025.09.28

このまま続けてください

前回、春におこなわれた『パンと音楽とアンティーク』の次回は、約半年後の秋におこなわれた。会場は京王閣競輪場であり、新宿から電車で20〜30分の距離で交通の便は悪くないし、何しろ1500円というチケット代で楽しめるお手軽なフェスとして定着しているようだ。自分がいった日曜日は混雑していた。

ステージは5つあって競輪場の施設を使ったものである。ステージのレイアウトは前回とあまり変わらなかったし、音楽好きだけでなくパンやアンティークへの興味が強い人も多いという雰囲気は相変わらず。独自の色が確立されてきた感じがする。

さまざまな楽しみ方ができる中で自分は音楽をメインで楽しんだ。スタンドの特別観覧席がそのまま休憩所になっているので、ちょっと時間が空いたときには食事・休憩所として利用できるように自分のペースで楽しめるように会場が作られている。

着いたときには、野外の円形ステージであるオレンジ・ステージで松崎ナオが始まるところだった。アコースティックギターで弾き語る。彼女の優しく明るく、だけど憂いや哀しさやエキセントリックさがちょっと混じって昼の多摩川近くにある会場にふさわしい空気を作っていた。ラストは『ドキュメント72時間』のテーマ曲“川べりの家”をキーボードを弾きながら歌う。やっぱりしみじみいい曲だなと感じる。

屋内の車券売場に設けられたポストカード・ステージで水平線という京都を中心に活動しているバンドをちょっと観て、オレンジ・ステージでカジヒデキ。このフェスの常連である。短パンに青いシャツを着てアコースティックギターで弾き語りをする。ソロでデビューして30周年を迎えるカジヒデキはお客さんたちの期待を裏切らず、古い曲も新しい曲も変わらぬ瑞々しさで歌う。“カローラⅡに恋をした”、映画『デトロイト・メタル・シティ』で使われた“甘い恋人”、そして“ラ・ブーム〜だってMY BOOM IS ME〜”とみんなが盛り上がる曲も披露する。

ポストカード・ステージでタブレット純。昔、田渕純で活動していたときに観たことがある。それからお笑い芸人、モノマネ芸人として知られるようになり、昭和歌謡の博士的なポジションを手に入れた。いきなり、田渕純名義でだしていた“夜をまきもどせ”を歌う。見た目やMCでの喋りと打って変わって、野太いムーディーな男の声のギャップにやられる。しかし、機材のトラブルでカラオケの音声が途切れてしまい歌は途中で終わってしまった。「汚れたCDを持ってきてしまったようです」と詫びて、以降は調布にちなんで、布施明(三鷹出身のようだけど……)、競輪場にちなんで競輪で大金をスった芸能人が主演したドラマの主題歌、川が近いので映画『男はつらいよ』のテーマ曲、自転車にちなんで“青春サイクリング”など、日頃の営業で鍛えられた感じの選曲で盛り上げていく。

ギター(ウクレレを大きくした感じ)を手にして“コモエスタ赤坂”を歌うけどスパニッシュなギターが上手くてびっくりした。かと思えば、似顔絵が描かれているパネルを次々とだしてきてモノマネを始める。大沢悠里、森本毅郎、永六輔、高田文夫、吉田照美、加藤諦三(テレフォン人生相談のパーソナリティ)……首都圏のラジオ聴いてないとわからない人選だけど、わかる人にはツボってしまう。そして政治家シリーズとして岸田文雄、石破茂、田中真紀子、田中角栄で閉めるといつコーナーがあって、「ロックンロール!」とザ・モップスの“たどりついたらいつも雨ふり”を歌いながらスーツを脱いで終わると一旦ステージを去る。そして赤いドレスを纏って越路吹雪の“愛の讃歌”を歌いながら再び登場。圧倒的な歌声でディーヴァが降臨する。最後は時間が余ったとのことで浅田美代子の“赤い風船”を演奏。ハーモニカとアコースティックギターで歌われる“赤い風船”は名曲の風格があった。この曲がこんなふうに聴こえるなんて。

特別観覧席でパンを食べながら休憩して、オレンジ・ステージで小西康陽。アコースティックギターで弾き語る。本当に長々と語りを入れながら歌う。服装についてはカジヒデキを参考にしている、競輪場を舞台にした古い日本映画について、味噌汁の具について、成蹊大学の学園祭で観た野毛ハーレムというバンドについて……すっかり白髪の老人となった小西康陽から歌われる曲(ピチカートファイヴのセルフカヴァー含む)はしみじみとして枯れた味わいがあった。ブレッドの“Make It Wirth You”(二人の架け橋)を、ロジャー・ニコルス追悼で“The Drifter ”をそれぞれ日本語詞でカヴァーしたり、ピチカートの“陽の当たる大通り”を歌う。

後ろまで人でぎっしり埋まっていたポストカード・ステージが大盛況だったtofubeatsのDJを少し観てから、オレンジ・ステージで高野寛。エレクトリックギターにパソコンなどの機材を持ち込んでテクノポップ的なセットで演奏する。ツイッターがXになった悲しみを歌った青い鳥飛んだやクラフトワークの電卓の替え歌ぽい曲やDEVOヴァージョンを優しくした感じの“(I Can’t Get No) Satisfaction”などお客さんをたたせて踊らせる。ダンサブルな“ベステンダンク”、そして“夢の中で会えるでしょう”、とちょうど暗くなる時間帯に合った選曲だった。

今回も素晴らしかった。回数を重ねて運営も慣れてきたみたいだし、ある程度完成したといえる。来ている人も多く認知され定着したようだ。そうなると、内容のさらなる充実を望むのだけど、今回のラインナップで素晴らしかったし、これ以上集客するアーティストを呼ぶと混雑で会場を自由に回遊する楽しさはなくなるし、このまま頑張ってほしいものです。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Nobuyuki Ikeda