KING BROTHERS | 奈良 NEVER LAND | 2021.07.24

伝播していく覚悟

「生き抜いてください」ケイゾウ(Vo/Gt)は、マーヤ(Gt/スクリーム)の繊細で優しさに満ちた”メッセージ”のイントロに乗せてそう言った。ダイナミズムを保ちながら叩き壊すようにゾニー(Dr)が轟音に轟音を重ねる。何ものにも屈することなく生き抜いてきた、彼らの揺るぎなさに圧倒された。

6月から始まったロストエイジ企画「MONTHLY MIGHTMARES」第2夜は、7月24日奈良ネバーランドにて行われた。開演前に主催ロストエイジの五味岳久(Vo/Gt)が、和やかな雰囲気で注意事項を告げた。「これからキングブラザーズが出てくるんですけど、キングブラザーズのライブのやり方があってそれをリスペクトしてます。僕らは僕らのやり方があって、お客さんにもそれぞれの楽しみ方があって、今日が良い1日になるようにみんなが気を使いながらやってもらえたら問題なく終われるかなと思うので、よろしくお願いします」。この日のフロアは定員の半分以下の100人限定で、チケットはソールドアウトしていた。

キングブラザーズは先攻で、ステージ中央にはスケルトンのドラムセットが置かれていた。今年の6月9日に愛媛県松山市に現存するストリップ劇場『ニュー道後ミュージック』にて踊り子とコラボレーションライブ配信『LIVE at STRIP CLUB』を行った彼ら。

その時に使われていたのもこのドラムセットだ。”デッドソウル”から始まったこの日は、いつもより気迫のこもったゾニーと、エモーショナルなケイゾウの表現力、笑顔を浮かべながらギターを奏でるマーヤ、それぞれの生命力がほとばしっていた。ゾニーが二人を煽るように打音の間にカウントを挟み込む。抜けのいい乾いたドラムの音がミドルテンポの曲にもスピードを感じさせた。マーヤがたて続けに吠えたその声は突き抜け、バンドと場内を瞬間的に高ぶらせた。

2曲目に”マッハクラブ”が続く。観客の視線はマーヤに注がれ、期待がスピードに乗ってフロアのあちこちに伝染していく感じだ。「早く何も気にせず飛び込める日が来たらいいと思っています!」とマーヤはステージ前の梁にぶら下がり、フロア全体を見やり「ロックンロールで完璧さ!」と叫んだ。

”SONICS”はよりダンサブルでリズムのフレームが立ち上がり、音色は豊かだ。この日のバンドを掌握していたのは、まさにゾニーのドラムだった。ケイゾウはステージ前ギリギリで歌い続け、尋常でない汗を足元に落としながらシャウトするも、MCを挟んでは笑みをこぼしていた。マーヤもそんなケイゾウを見ながら笑顔を浮かべている。ゾニーは鬼気迫る表情で吠え、要所要所でフロントマン二人をけしかけていく。

終盤、“メッセージ”は3人がステージ上で演奏しているにも関わらず、フロアに降りてきて観客がドラムを中心に囲んでいるかのような錯覚に囚われた。笑顔から一瞬で切り替わるバンドの集中力と求心力の凄まじさ。一転し、”8っつ数えろ!!!”のゾニーのカウントとマーヤのシャウトでフロアは大きく揺れた。ブルージーなセッションからするりとラストの曲”虹と雲”に移行すると、マーヤはギターから目を離さず、ケイゾウのヴォーカルに重ねるように歌いながらとても丁寧に愛情深く奏で、ゾニーは大きく腕を振り下ろし続けた。ケイゾウは低い声を振り絞りながらずっと変わらない決意を歌い上げていく。「歌うことやめるならここにいる意味はない/走り続けようぜ/笑い続けようぜ/叫び続けようぜ」。

キングブラザーズの覚悟と観客の覚悟は同じに見えた。目の前のバンドが起こすありのままを受け止めること、それは共犯ではなく共闘を意味した。観客はライブで胸に杭打ちされたものの正体を、振り返る時間の中で明らかにしていく。そこにいたという事実だけが、その答えを知っている。

<SET LIST>
01.デッドソウル
02.マッハクラブ
03.Do Do Scratch
04.SONICS
05.-UFO-
06.ぶっ壊せ
07.Break On Through
08.メッセージ
09.8っつ数えろ!!!
10.虹と雲

今後のライブ予定詳細はキングブラザーズ オフィシャルサイトにてご確認ください。

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Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe