KING BROTHERS | 大阪 難波メレ | 2021.12.12

ロックンロールの頂点を見た

聴衆は、バンドは、これほどまでに待ちわびていたのか。音圧が最大レベルに上がりきったライブハウスでこの夜、喜びだけが満ちていた。今日まで生き延びてこられてよかったと、心の底から湧き上がってくることがいまだかつてあっただろうか。パンデミックは私たちのあらゆるものを変えてしまったけれど、ロックンロールにはかすり傷ひとつ付いていなかった。2021.12.12 ロックンロールは、キングブラザーズは、それを証明した。

キングブラザーズが2021年の12月8日(水)~12日(日)までの連続5日間、有観客オンラインライブの開催を難波メレにて行った。この日は第5夜最終日だ。直前に映像での参加がThe Jon Spencer Blues Explosion(以下JSBX)と公式発表され、現地での対バンは明かされず開場時間を迎えた。トップバッターは主催、キングブラザーズだ。SEが鳴り止むと同時にステージを覆っていた黒幕が剥ぎ取られ、真っ赤なライティングに照らされた3人がフルテンの気迫で現れた。” Super X ”から5日目とは思えない凄まじいテンションで会場の温度をグイグイ上げていく。「Are you ready? C’mon Let’s go Rock’n Roll 最終日だぜバカヤロウ、ロックンロールが飛び込・・・」と言い放つや否や、マーヤはギターを弾きながら躊躇なく観客の上へダイブした。開演前にマーヤに体調を訊ねたところ、最終日だからね、と不敵な笑みをこぼしていた。きっと3人とも連日の疲れで体はボロボロなことは容易に想像できたが、いざステージを望むとそんな事は杞憂だと思い知らされる。どこにこれほどの気力と体力が残っているのだろうか。

間髪入れず”King Beat”とケイゾウが叫んだ。2年ぶりの”King Beat”はまさに音塊そのものだ。ゾニーが躯体ごとスティックにエネルギーを込めて振り下ろし続けると、待ちかねたとばかりに凶悪なビートが叩き出された。これこれ、これが見たかったんだという客の顔がステージに向けられる。ケイゾウとマーヤのギターが絡み合ってマーヤの咆哮を合図に曲間に何度もポーズが差し込まれる。観客から声が湧き上がるが、続く轟音にすぐにかき消された。「オラァ、ボケっとすんな!ロックンロールで踊りまくってコロナウィルスをぶっ倒すんですよ!」と20年以上前、ケイゾウがこの曲を作った当時さながらの凶悪な顔で叫んだ。めまいがするほどの初期衝動が噴出していた。ゾニーの合図で曲は最大限まで膨張し、曲最後のフレーズが“8っつ数えろ!!!”の頭に連動するとフロアから声にならない奇声があちこちから上がった。そりゃそうだろう、吠えるようにケイゾウとマーヤがコーラスを歌い、同じリフが2本のギターから掻き鳴らされ、ゾニーがカウントを叫ぶ。キングブラザーズという生き物の真骨頂が目の前に広がっていたのだ。あまりの感情の高揚感に全身が包まれる感覚はなんと久しぶりだろう。

続く“あッ!!ああ”の「くだらない日々を繰り返して、そこのあんたお前のことさ」「後には戻れない」とケイゾウがマーヤが繰り返し歌うをこの曲を聞いてつくづく思う。どれほどの山や谷を越えて彼らはここに立っているのだろうか、彼らの推進力はなんなのだろうかと。ただ感動するばかりの中、“メッセージ”の美しいリフがマーヤの青いギブソンから奏でられた。この曲は、初期メンバーのジュン(Dr)が最後に残したアルバム「13」に収録されている。原曲に張り付いていた悲しみややるせなさは、今のキングブラザーズからは微塵も感じさせない。時折瞳を閉じ、髪を振り乱し一打一打に想いを乗せ一心に叩きつけるゾニーを見て、この曲はゾニーが2021年の終わりに叩く為に作られたのではないか、そんな事を思うほどに希望に溢れ聴衆の心を打った。

悲しみや苦しみ、焦燥感に絶望、バンドを20年以上続けた喜びの陰に潜むそれらを、かなぐり捨てねじ伏せてきた果てに、聴衆の魂に切り込まれるほどの完璧な夜が来るのだ。”メッセージ”を聞くとき、まるでリトマス試験紙のように我々の心の内が露わになった。お前の進む道は、ロックか否かということを突きつけられるからだ。マーヤは天を仰ぎながらギターを鳴らし、ケイゾウは5日目というのに衰えない声量で「前に進まなきゃ悲しみに飲み込まれてしまう」と吠えた。飲み込まれる気などさらさら無いという気迫でだ。

「この3人で最初に作ったナンバー聴いてください」というケイゾウの一声で始まったのは“JUDGEMENT MAN”だ。怒りに満ちたこの歌のリリックが、パンデミックの時代に突き刺さる。ケイゾウは「フザケンナ!」と繰り返した。「みなさんも家に帰ったら新しいバンドを組んでキングブラザーズをぶっ飛ばすような感じでよろしくお願いします」とケイゾウが言い放ち、最後の曲”ルル”が始まった。マーヤはマイクを観客に渡し、代わりに叫ばせた。バンドは要所要所にタメを入れ、観客のはやる気持ちを焦らした。「それではロックンロールが飛び込むぜ」とマーヤはギターとジャケットを脱ぎ捨て「今日は踊らなくていい、その代わり誰にも迷惑をかけないバイオレンスをよろしくお願いします。モーレツに力を使って、一人で勝手に朽ち果てろ!」「お前らが俺をステージに戻した時がライブの終わる時や」そう言うとフロアにその身を投じた。観客はライブを終わらせてたまるものかと、彼をフロアの奧へ奧へと運んだ。「リーダー、オオサカが戻してくれへん」とマーヤがケイゾウとゾニーに声をかけると「5days,6daysになりますのでよろしくお願いします。後2週間くらい延長しますから」とケイゾウは言い、地獄の底から湧き上がるような低音でギターを弾き続けた。ゾニーの打音が心臓の鼓動にリンクする。マーヤは観客に支えられ、「ニ・シ・ノ・ミ・ヤ」コールを放つ。ステージに帰還したマーヤとケイゾウが”ルル”を歌う姿はあまりも完璧で、神々しくもあった。

「俺たちの出番はここまでなんで、5日間ありがとう」とケイゾウが「5days fack you Rock’n Roll」とマーヤが叫ぶと大歓声と拍手がフロア一杯に広がった。ライブはここで終わったが、キングブラザーズは終わらなかった。続くJSBXの秘蔵ライブ映像を挟み、直前までシークレットにされていたバンドが登場する、ギターウルフだ。JSBXとギターウルフのライブを見て、若き日のケイゾウはキングブラザーズを結成した。尊敬する2バンドを前に全力で衝動をほとばしらせていたのだ。

ギターウルフも、容赦無い爆音をただならぬ気迫で鳴らしていた。”Kick Out The Jams”でセイジはいつも客をステージに上げる。この夜、セイジの口から出たのはケイゾウの名前だった。マーヤとゾニーは子供のように笑いながらステージ上のリーダーを見ていた。さっきまでフロアを牛耳っていた男が、ただのギターキッズの顔でセイジのSGを抱えていた。セイジが合図するジャンプのタイミングをはかりながら、耳をギターに近づけてチューニングする辺り、さすがである。「低い!(ジャンプが)」「遅い!(ジャンプが)」とセイジに指摘されながらも、彼はちゃっかり背面で弾いてアピールすることも忘れない。ギターウルフに憧れて20数年、その曲間、ギターウルフのメンバーになれたシーンを目撃した観客がどれほど盛り上がったのか、想像つくだろう。

最高のステージングが、時間と共に更新されていった。耳をつんざくギターウルフの最後の音が鳴り終った瞬間、なんとフロア後方の普段はDJブースの小さな場所でキングブラザーズの3人が演奏を始めた。”マッハクラブ”だ。

最高潮の中、マーヤが華麗にフロアに飛び込む。ギターを抱えて再びセイジがステージに立つと今度はキングブラザーズにセイジが加わる形だ。DJブースに4人揃う光景は、筆舌に尽くしがたい。

ロックンロールを受け渡し、そして受け取り、続いていく。その過程で3組のバンドが交差した一夜のことを、我々は決して忘れることはないだろう。

今後のライブ予定詳細はキングブラザーズ オフィシャルサイトにてご確認ください。

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Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe