FUTURE ISLANDS | 渋谷WWW X | 2017.12.19

ゆううつなど吹き飛ばして元気出せよ

フューチャー・アイランズをこのような会場で観られるのは貴重な機会のようだ。英米ではもっと大きな会場でライヴがおこなわれるとのこと。渋谷WWW Xにいるお客さんの外国人比率は高い。ゲストとしてサミュエル・T・ヘリングの友人のダスティン・ウォンと、嶺川貴子のユニットがまず19時30分に登場する。ダスティンがギターで嶺川貴子がキーボードか機材を操作してミニマムが音を作り上げる。2人は1本のマイクを交互に使って声をだし、それをサンプリングしたものをループさせて演奏の上に被せていく。2人の親密ぶりが感じられて音は温かい。

フューチャー・アイランズは20時35分ころに現れる。ヴォーカルのサミュエル・T・ヘリングの存在感が群を抜いている。見た目は完全に髭面のおっさん。ロックスターの要素は皆無。ジョイ・デヴィジョン〜ニューオーダー直系のシンセサイザーを中心にしたサウンドをバックに、あるときは朗々と歌い上げ、あるときはデス声でシャウトする。音源で聴いているときにはここまでエモーショナルでフィジカルな音楽とは感じなかったけど、ライヴではそれが全開になる。

そして、散々いわれていることだけどサミュエルの動き。「ステージを所狭しと駆け回り……」とはちょっと違う。動きにキレがある。眼を離したすきに次にいるという瞬間移動なのだ。胸を叩き、顔を叩き、吉本新喜劇の島木譲二にしかみえない。クネクネ踊り、変な体操をする。しかし、そこから漂うのは自己陶酔ではなく、祈りの行為のような崇高さを感じる。彼らの音楽が内でなく外へ向かっているのだ。だからこそ曲の構造はポップなのである。

「Beauty of the Road」から始まったライヴは、最新作『The Far Field』から多く演奏された。先述の通り、ニューオーダーからの影響が大きく、ウィリアム・キャッションによるベースなんかピーター・フックぽくて好きだ。

例えれば、イアン・カーティスが起きて鏡をみたら熊ゴリラみたいな風貌になっていたので、この風貌では死ねないと思い直し、とりあえず一生懸命歌っていたら他者と触れあうようになり、ポジティブさまで漂わせるようになったようなバンドである。

「Cave」ではサビの合唱、「Seasons (Waiting on You)」では大きな歓声が上がり、終盤に向けてお客さんたちも熱を帯びていった。アンコールも「Black Rose」「Vireo’s Eye」の他に予定にはなかった感じで「Little Dreamer」を演奏してくれた。「Little Dreamer」は余韻を味わうかのような歌と演奏。それまでの激しさとは一転した静けさに包まれてライヴは終わった。

このステージを観るとフジロックでやってほしい、多くの人にサミュエルをみてほしいと願わずにはいられない。哀愁、激情、そして笑い。こんな素晴らしいエンターテイメントもないのだ。
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Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Kazumichi Kokei