KING BROTHERS | 兵庫 神戸Varit. | 2022.07.23

『虹盤』を超えた夜

「色んなことが起こりますけど、ロックンロールを信じていたらぶっ倒せることを、2001年に俺が自分で歌っていた歌を歌いながら痛感します」これはケイゾウ(Vo,G)が”よく聞け世界”の演奏前に放った言葉だ。

7月23日、キングブラザーズは久しぶりの関西でのワンマンライブを神戸Varitで開催した。4/3服部緑地野外音楽堂では「★★★★★★★」(通称:星盤)を、4/15大阪三国ヶ丘Fuzzでは「 」(タイトル無し・通称:赤盤)の全曲を収録順に再現するというライブを行なった彼らだ。ワンマンライブとあって否が応にも観客の期待は膨らんでいた。

暗転し、SEが流れ最初にステージに現れたのはゾニー(Dr)だ。彼はフロアを見渡し、手にしたビールを飲んだ。「2001年の”消え失せろ”」とケイゾウが叫んで始まったライブは、マーヤ(G,Scream)のスクリームと凶悪なケイゾウの怒りが噴出したリリックに、ゾニーの重圧感のあるビートが、脳内で同時再生される原曲を塗り替えていった。21年前のナンバーというケイゾウの声に観客は驚きながらも嬉々とした表情を浮かべていた。

ノンストップで”あッ!!ああ”が演奏された。2001年国内メジャーデビューアルバムとなった『(通称)虹盤』の2番目に収録されている元曲は、ギターの音色とそこに重なる鍵盤の乾いた音から、20代を生きる若者のあっけらかんとした明るさと危うさが滲み出ていた。この日のマーヤのギターは、メインも控えも彼が当時トレードマークのように弾いていたフレッシャーだった。しかし、この夜に危うさを感じなかったのは、「This is Zony」とケイゾウが紹介したゾニーの存在が大きいだろう。初期Drジュンは当時、フロントマン2人に負けず劣らずアクションが大きかったが、誰よりもバンドの儚さを孕み、それをビートに昇華させるタイプのドラマーだった。『儚さ』それはゾニーのビートの対極にあるものだ。だが、相反するものの相違、ゾニーが牛耳るビートにも脈々と受け継がれてきたキングブラザーズ然としたアイデンティティーが存在している。

3曲目、アルバムに収録された”ムシャクシャ”は、口笛と単音のギターと小さく刻まれるリズムの前奏が楽曲の半分を占め、鬱積した感情を浮き彫りにしていた。2022年の”ムシャクシャ”はテンポアップし、つんざくマーヤのギターはメロディックなサウンドへと変化していた。ライブは『虹盤』の収録順に演奏されていた。“明日をこえろ”、”→→【@】←”(通称やじるし)のダンサブルなビートに、フロアからは歓声が沸き上がった。”燃えつきるまで”でケイゾウは「ロックンロールのタイムマシーンに乗って今、未来に行きましょう」と言い、噛み締めるように歌った。『いつか全て消えちまう/ここにあるもの全ては/この時を駆け抜けよう/遠回りしてきたけど/立ち向い続けるのさ/いつか辿り着けるまで』と。胸を掻きむしるほどの焦燥感は21年を経て成仏したのだろうか。ギターに、ドラムに、杭打ちするような3人の演奏はとても扇情的で、2022年のキングブラザーズをつまびらかにした。

ライブは、ドラムだけで歌を導く”リズム”へと続く。曲の大半はドラムがステージを支配した。客席からはゾニーの名を呼ぶ声と拍手が湧いた。パワードラムと思われがちな彼の、実のところ饒舌なリズムビートを堪能した観客からは、この日一番の歓声があがった。続けてケイゾウは二人を紹介していく。「世界中で一番ロックンロールのやばい男だと思いますMr.マーヤ、今日使ってるギターはマーヤさんがアルバイト先から持ってかえってきた伝説のギター”フレッシャー”です。真ん中でぶっ叩きまくっているのは東京のクソバンドをぶっ倒すために西宮に移り住んできた地獄のビート野郎Mr.ゾニー(紹介されたゾニーは立ち上がりフロアに投げKissを!)ゾニーがいないと2001年にはタイムスリップ出来ませんからね」

“よく聞け世界”では自らの言葉を体現するかのように、ケイゾウは21年前と変わらぬ心情を吐露した。ゾニーが「マーヤ」と叫ぶと、彼もまた21年前から変わらぬ真っ直ぐで力強いリフを放った。“闇の中ブルース”ではゾニーがマラカスを片手にビートを刻む。ダンサブルでありながらブルージーでもある2022年の新たな解釈にのせて、ケイゾウは真っ直ぐな眼差しで歌い上げていった。

“マッハクラブ”ではいつもながらマーヤが2階フロアに声をかけながら、客を煽っていく。ここがこの夜のピークかと思われたが”虹と雲”がそれを塗り替えた。強めにかかったリバーブのせいではなく、3人の気持ちが溢れ出すようなエモーショナルな演奏はこの日一番胸をうたれた瞬間だった。一音たりとも聞き逃さないという観客の眼差しは熱く、マッハクラブよりも激しさが増していくゾニーのドラムと呼応し合う2本のギターに息を飲んだ。”メッセージ”や”虹と雲”のような聞かせる楽曲も、今のキングブラザーズの最大の魅力だと言えよう。

ゾニーのカウントで『虹盤』最後の曲”ジタバタロック”でライブは締め括られた。ケイゾウが最後に言い放った言葉が胸に突き刺さった。

「帰ったら虹盤のレコードを全部捨てて最新バージョンをしっかり覚えてください。皆さんよくぞ来てくれました。生き残りましょう」

<SET LIST>
1.消えうせろ
2.あッ!!ああ
3.ムシャクシャ
4.明日をこえろ
5.→→【@】←
6.燃え尽きるまで
7.リズム
8.よくきけ!!世界
9.闇の中ブルース
10.マッハクラブ
11.虹と雲
12.ジタバタロック

EN.ルル

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<<KING BROTHERS Presents 『NEW AGE STOMP』>>
キングブラザーズが出会った新時代のロックバンド達と巡る怒涛の4日間

▼8月11日(祝) @新宿レッドクロス
出演 : (The)SEGARE KIDS(東京) vs KING BROTHERS(西宮)
オープニングアクト : KINGGIRLYACHTZ(大阪)
DJ : NISHIJOE(NIGHT ON THE PLANET!)

▼8月12日(金) @新宿レッドクロス
出演 : ボトルズハウス(東京) vs KING BROTHERS
オープニングアクト : THE BLACK DOLPHINS(大阪)
DJ : NISHIJOE(NIGHT ON THE PLANET!)

▼8月13日(土) @名古屋BAR RiPPLE
出演 : Nicfit(名古屋), KING BROTHERS,
THE BLACK DOLPHINS, KINGGIRLYACHTZ

▼8月14日(日) @大阪ハードレイン
出演 : and Young…(大阪), KING BROTHERS,
THE BLACK DOLPHINS, KINGGIRLYACHTZ

全て18:30 OPEN 19:00 START
【音源ダウンロード付き前売チケット 3500円 (1Dr別) 】

*チケット発売は(http://www.kingbrothers.jp)にて発売中
*ダウンロード音源の内容は各公演日ごとに異なります(*収録内容一部共通)
*19歳以下および60歳以上は当日窓口にて照明証提示で1000円キャッシュバック
*当日券の販売は未定、問い合わせは各会場までお問い合わせ下さい

ライブ詳細はキングブラザーズ オフィシャルサイトにてご確認ください。

▼”Surfing!RAT” Trailer Long Ver

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Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe