POST MALONE | 東京 SUMMER SONIC 2022 | 2022.08.21

心からおめでとう、そしてありがとう

1日中快晴だった初日のサマーソニック東京。僕の両腕は明らかに日焼けしていた。サマソニの2日間はマリン・ステージで過ごす時間が長かったせいもあって、地面からの照り返しで、少しの日差しでも結構しっかりと日焼けした。「久しぶりのサマソニ、本当に楽しかったな」左腕に残ったリストバンド焼けを見ながら、そう実感していた。イージー・ライフやヤングブラッドから若きブリティッシュエナジーを体感し、WANIMAやONE OK ROCKでアーティストとファンの力を実感した。そんなこの日ラストを飾るのは、アメリカのラッパー、ポスト・マローン(以下、ポスティ)だ。

前回の来日は2018年のフジロック、ホワイト・ステージのトリ。あの時のライブ前は「なんかすげぇラッパーがアメリカから来たらしい」ぐらいの温度感だったが、正味1時間のライブで、彼は皆のハートをガッチリ掴んでアメリカに帰っていった。あれから4年、彼を取り巻く環境、そして世界は大きく変わった。セカンド・アルバム『Beerbongs & Bentleys』で世界的にブレイクを果たした彼は、その後ハリウッドのスタジオにこもり、曲を作り続けた。そんな中、世界はパンデミックが起こり、より外に出れない生活に。それが原因で閉所恐怖症になってしまった彼は、それに伴い大きなスランプに陥ってしまう。
そんな彼を救ったのはマリブの解放的な環境だった。それまでの辛い体験を客観的に振り返り、自分の言葉で語り、乗り越えていく、そんな内省的ながらも前向きな視線が感じられる最新作『Twelve Carat Toothache』を引っ提げた今回のヘッドラインステージは、解放的な今の彼のマインドが表れたライブとなった。

マイクスタンド以外、何もないステージはフジロックの時と同じ。眩く点滅する照明の中、彼は登場した。ショート丈のデニムに、白のショート丈のコンバースを履き、そして日本限定のオフィシャルTシャツを着たポスティ。その表情はとても穏やかだ。新曲“Wow.”から始まった彼のヘッドラインステージは、全体の中に穏やかさと鋭さが交互に訪れるという、大きな緩急のある流れが感じられた。
初期の名曲“Better Now”では、嬉しさのあまりに涙する最前列の女性ファンがスクリーンに映し出されると、偶然か意図的かわからないが、片手でハートのマークを作っていたポスティ。そんな優しい一面を見せながらも、時折歌い上げるパートでは絶叫するシーンも見られた。“Saint-Tropez”では、激しいシャウトを見せる一方で、気だるそうにアンプにもたれかかりながら歌い、緩めのメロディラインとサウンドアレンジが心地よいナンバー“I Like You (A Happier Song)”の間奏では、再び片手でハートマークを作り、笑みを絶やさず歌い、同曲の間奏ではマイクをポケットにつっこみ、ディスコ風ダンスを踊ってみせた。
「気分はどうだい?」とオーディエンスに問いかけるポスティ。続く“Circles”では再びステージ全体を歌いながら練り歩き、オーディエンスの声援に答えたり、チャーミングな笑みを見せたりと、その姿には愛おしさすら覚えた。

彼の楽曲の魅力のうちのひとつとして「数々のアーティストとの共演」があるわけだが、ことライブに関してそこがフィーチャーされることは意外と少ない。何故ならば、何もないステージで歌い続けている現在のポスティの存在感が大きすぎて、ちょっとサンプリングボーカルが流れたところで、それが薄れることが全くないからだ。ただし、中盤に歌った“Take What Yo​​u Want”に関しては例外だった。
あのオジー・オズボーンのヴォーカルの存在感は例えサンプリングでも薄まることは全くなく、それはまるでゴジラvsキングギドラかのように、オジーとポスティが両者向かい立って歌っているように聴こえた。(ポスティは昔からメタルファンで、本当はロック・ミュージシャンとしてデビューしたかったらしい)

彼の楽曲のもう一つの魅力は、ヒップホップ・アーティストらしからぬ、非ヒップホップ楽曲の多さである。時代的にはカニエ・ウェストやドレイク以降のところでヒップホップのポップ化は進んでいたが、白人でこれほどポップな表現をやりきっているのは今のところポスティだけだ(と僕は認識している)。それを代表する曲として“Psycho”や“rockstar”、“Better Now”があるわけだけれども、同じポップ・ヒップホップでもカニエやドレイクとは決定的に異なる点が一つある。
それはアコースティック・ギターのみで歌い切る曲があることだ(ただし、カニエがリアーナ、ポール・マッカートニーと共演した“FourFiveSeconds”は除く)。ライブ中盤のアコースティック・セクション。そこでポスティはアコギ一本で“Go Flex”と“Stay”を歌い切った。この曲たちがすごいのは、圧倒的な楽曲のクオリティだ。特にライブにおける“Stay”はずば抜けて良い。センチメンタルでありエモーショナルでもあるこの曲は、そのグッド・メロディさも相まって、オーディエンスを曲の緩やかな流れに身を委ねさせていた。

続くセクションの始まりには、暗い時代を乗り越えた彼の前向きで温かい言葉があった。先日フィアンセとの婚約と第一子の誕生を発表したポスティ。今の彼の言葉には、父親になった喜びと、周りの人たちへの感謝に満ち溢れている。
「次の曲の前に言っておきたいんだけど、みんなの大きな愛とサポートをここにいる1人1人に心から感謝したいんだ。みんなは俺にとって本当に大切な存在なんだよ。」というMCから始まった“White Iverson”では、スモークと白いライトを浴びながら、穏やかな笑みを浮かべつつ、まるでオーディエンスと対話をするように、ゆっくりとステージの上手から下手まで歌い歩き、ブリッジからラストのコーラスにかけてはアカペラで歌いきった。

“Sunflower”では、ひまわりの色である黄色いライトを背に浴びながら、爽やかなメロディラインを歌い上げたポスティ。アウトロで“あの曲”の印象的なイントロフレーズへとシームレスに移り変わっていく。“rockstar”だ。ステージ上に噴き上がる炎。その熱風はPA前で観ていた自分のところにも届いていた。そんな炎の中でエモーショナルに歌い上げ、曲終わりにはその感情そのままに、先ほどステージに放り投げたアコギを思いっきり地面に叩きつけて破壊する彼の姿があった。
過去数多くのロックスターが行ってきた“楽器を破壊する”というアクションをオマージュしつつも、もはや形骸化しつつある“ロックスター”という名の称号を、再び意味のあるものとして取り戻した彼の意思。そんな彼の姿に、2022年における“ロックスター”の姿が朧げながらも見えたような気がした。
既存の“ヒップホップ”という型に決してとらわれることなく、自身のマインドを正直に曲へ乗せて歌う彼の姿をして「現代のロックスター」と呼んだとしても、少なくともあの場所で観ていたオーディエンスにとって異論はないだろう。(曲が終わり、散らばったアコギの破片を拾い集めて、ファンにプレゼントするチャーミングなポスティ。これもまた多様化する現代のロックスターの姿なのかもしれない。)

“rockstar”が終わり、ポスティは僕らオーディエンスに感謝の言葉を口にした。それは次に歌う曲に込められた精一杯の感謝と賛辞の言葉を、直接伝えるための言葉にしたものだった。

「ここに戻ってこれるまで本当に長い時間がかかったよ。だからみんなが一緒にロックしてくれるのは本当に最高なことなんだ。ここまでワイルドな道のりだったから、これだけは言いたいよ。マジでおめでとう!とにかく誰にも夢を追うことは止められないんだよ。どうしたらいいか教えてくれるやつもいないし、世界一になったような気分にさせてくれるやつもいないけど、でもみんなこれから笑いごとにならないくらいうまくいくからさ!そんな曲を演奏するよ!」

そんなMCから、ラストは人の人生を変える成功を歌にした“Congratulations”。困難に立ち向かう勇気をくれるアンセムだ。最後のコーラスパートで打ち上がった花火は、まるであの場にいた奇跡を体験した“僕ら”を祝福してくれているようだった。「ありがとう/おめでとう」の言葉。SNS全盛の今、この言葉の重みは薄くなってしまっている。だが、この曲に込められた彼の心がある「おめでとう」には、素直に「ありがとう、日本にまたきてくれて」と返したくなった。

<セットリスト(ライターメモ)>
01.Wow.
02.Wrapped Around Your Finger
03.Better Now
04.Saint-Tropez
05.Cooped Up (feat. Roddy Ricch)
06.I Like You (A Happier Song)(feat. Doja Cat)
07.Circles
08.Psycho (feat. Ty Dolla $ign)
09.Insane
10.Take What You Want (feat.Ozzy Osbourne & Travis Scott)
11.I Fall Apart
12.Go Flex (acoustic)
13.Stay (acoustic)
14.Candy Paint
15.White Iverson
16.Sunflower
17.rockstar (feat. 21 Savage)
18.Congratulations

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by ©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.