宇宙戦艦ミソノFEVER 2022 | 大阪 味園ユニバース | 2022.12.28

ロックンロールが躍動する大忘年会

ギターウルフ主催のライブイベント『宇宙戦艦ミソノFEVER』が、2022年12月28日に3年ぶりに開催された。僕はというとほとんどはじめて観るアーティスト揃いで、長らく西宮に住んでいたというのに恥ずかしながらキングブラザーズともこれまで縁がなかったし、「ジェットくノ一宇宙拳 ガメロン星の決闘」という副題にも「なんだそれ??」と思いつつ、ソワソワしながら大阪日本橋の味園ユニバース(以下ユニバース)に足を踏み入れた。この日が仕事納めの人も多かったであろう2022年の暮れ。ギターウルフをはじめとした、アーティスト達の生き様にふつふつと熱くなった『宇宙戦艦ミソノFEVER 2022』のハイライトをお届けしよう。

オープニングアクトは、公募によって選出された関西拠点のコレクティブKANG SIGH HYPER CREW。

6人のクルーが目まぐるしくステージ上で入り乱れる中で、ヒップホップを軸にしながらも前のめりなブレイクビーツやチルなトラップなどを気ままに行き来するカオティックなサウンドは、なんとも令和のフィールを感じさせる開放的なものだ。はじまる前はロックンロールが交錯するこの日のラインナップからはやや意外な選出に感じていたが、自分たちの存在を刻みつけようとする気概は凄まじいものがある。この日のユニバースに広がりをもたらしつつも、この後に控えた面々とも共通する確かな熱量を感じさせてくれた絶好の導入だった。

続いて登場したのは、横浜から来た侍ロックンロールJohnnyPandora。

黒い革ジャンでビシッと決めた4人が突っ走る清々しいまでにコテコテのロカビリーサウンドで、ユニバースのキャバレーの雰囲気も相まって、50s〜アーリー60sの異国情緒と昭和の空気が交錯するダンスホール。スカートをひるがえす前方のお姉様方からバンドと同じく革ジャンの背中で生き様を語るフロアの兄貴達を通して、ナードな僕にまで気持ちが伝播していくこの感じがなんともたまらない!「最高のダンスホールがあるから俺もそこで踊らせてくれ!」とJOHNNY(Vo / Ba)がホールでツイストを披露したかと思えば、RYU( Gt / Vo)もホールに飛び込み痛快なソロを決める恍惚のひと時。だがここで鳴っていたのは単なる古き良き郷愁ではなく、ロックンロールに魅せられた人々の明日に立ち向かう活力なのだ。時代に置いていかれそうになろうともどこまでも愚直に歌い鳴らすその姿に、今を生きるジャパニーズロックンロールの矜持を垣間見た白熱のステージだった。







幕間ではなにやらカイロ・レン風の出立ちで現れたギターウルフのセイジ(Gt / Vo)の呼び込みから2人のジェットくノ一が登場。

迫真の殺陣にセイジもライトセーバーで応戦する姿はなにがなんだかよくわからないがともかく釘付けにされたもので、ややこしいことはいいから身体と魂で感じろとでも言われているような、この日を象徴する一幕であった。

そしてフジロックや京都のボロフェスタで観た時以上に、バンドサウンドにすべてを託すような気概がヒシヒシと感じられたこの日のおとぼけビ〜バ〜。

それはMCであっこりんりん(Vo)がOLを辞めてからはじめてと語っていたユニバースへの感慨もあることだろうが、彼女が突き立てた中指の向こう側に見えるその不敵な表情は、ただひたむきに今ここに殉じる彼女たちの生き様を物語っているようだった。いつものような軽妙なMCも控えめに、バンドサウンドの強度と説得力だけで余計な解釈をすべて置き去りにしていったおとぼけビ〜バ〜。「どこまで強くなるんだ…」と思わず身震いしてしまった。








往年のガレージサウンドをプレイするDJ O.K.Dに絡みにいったJOHNNYが気ままに踊っていたり、後方のボックス席ではさながら忘年会のようにお酒が並び、思い思いの年末に浸るユニバース。だが「めちゃくちゃになりましょう!」とシャウト一閃、一瞬でホールの空気を変えるキングブラザーズの存在感といったら。

中盤からはフォトピットも解放され、ほぼステージ最前に組まれたドラムセットの強烈な打音と、負けじと前のめりにかき鳴らすマーヤ(Gt / Screaming)とケイゾウ(Vox / Gt)のゼロ距離のロックンロールが生み出す、広いユニバースを極限まで圧縮したような刹那の狂乱。だが噛みつくような眼光でギターを刻みつけるマーヤとギラギラした中におおらかな眼差しが見えるケイゾウの背中を任せ合うようなアツい信頼関係は、この密度とは裏腹にどこまでも雄大ででっかいロックンロールだ。KANG SIGH HYPER CREWの作戦53がステージに登場し気持ちのままシャウトしたり、「世界で一番人の上に乗るバンド」と豪語する通りのマーヤのダイブ&にしのみやコールに半狂乱になりながら、一切悔いを残さず2022年に刻みつけんとするフロアの躍動。僕ももう他になにも要らねえや、これこそがロックンロールなんだよという気持ちで、かつて住んでいてちょっとだけ残っていた西宮魂を炸裂させながら拳を突き上げたものだ。








そしていよいよだ!ここまで燃やし尽くしたからこそ大トリへの期待も最高潮なユニバースに、待ちに待ったギターウルフが登場。

ビールを一気に飲み干し、長尺のイントロセッションからジリジリとボルテージをあげていくロックンロールが“宇宙戦艦ラブ”でユニバースに弾けていく!難しいコードもややこしい言葉も一切聞こえない明快なバンドサウンドだからこそ、心に一直線に届くロックンロールがどこまでも清々しい。カラフルでギラギラしたライティングや星々をかたどった装飾も相まってダンスホールはさながら宇宙戦艦航行中といった様相で、雄大な広がりを感じながら前のめりに躍動する僕らとギターウルフ。セイジがJohnnyPandoraのSEIJI(Gt / Vo)にギターを渡したサプライズの一幕でも、ただひたむきに今をかき鳴らす姿がなんて輝いて見えることか。セイジもフロアに飛び込み全員でもみくちゃになりながら、2022年の最終幕はこうして最後の最後まで全身全霊で駆け抜けていった。








ロックンロールが躍動した大忘年会『宇宙戦艦ミソノFEVER 2022』。キングブラザーズのケイゾウはMCでこのロックンロールを世界中、宇宙中に散りばめていこうと語っていたことがとても印象的だったが、ロックンロールとは限られた愛好家の憧憬などではなく、性別も国籍も世代も超えて今をまっとうする生き様のことなのだと肌で感じたものだ。今年もそう楽ではない年になるだろうが、今日ここで感じた一切妥協せず今を生き抜くロックンロールの生き様を胸に刻みながら僕らも2023年を駆け抜けて、また年末にこの場所で会おうではないか。この日ユニバースのダンスホールで躍動したみんなが、そんなことを感じているはずだ。

Text by Hitoshi Abe
Photo by Tomoko Okabe