ARCTIC MONKEYS | 東京 東京ガーデンホール | 2023.03.12

彼らが唯一無二の存在になるまでの20年間の物語

昨年結成20周年を迎えたアークティック・モンキーズ。彼らの日本でのライブの数は決して多くはなかったが、その度に大きなインパクトを残してきた。初々しさを残しながらもヘッドライナーの役割を見事にまっとうした2007年のサマーソニック。存在感と圧で会場が破裂しそうなほど凄まじい熱量のあった2009年恵比寿リキッドルームでのプレミアライブ。そして、王者の風格を身につけ堂々帰還した2014年のサマーソニックなど、その度にアップデートされた内容の印象を残し続けてきた彼らだが、個人的に最も印象に残っているのは2009年に開催された日本武道館ライブだった。

当時の最新アルバム『Humbug』は、ファンの中にあった初期2作絶対主義的な期待感を一掃するような意欲作で、このアルバムに対して当時の僕は「この作品性をどう理解すればいいのだろう?」と言う戸惑いにも似た感情を抱いていた。しかし、武道館でのライブでその戸惑いは完全に払拭された。ヘヴィにそしてスロウな『Humbug』モードにアップデートされたファーストアルバム『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』とセカンドアルバム『Favourite Worst Nightmare』の曲から感じたのは、『Humbug』が生まれたことの必然性。アンコールラストの“505”を聴いた時の納得感は今も記憶に強く残っている。

それ故に、更なる進化を遂げた直近の2作『Tranquility Base Hotel & Casino』と『The Car』を提げたライブを行う、という今のこの状況は、あの時の武道館公演と重なるような気がしたのだ。『AM』で確立したギター・ロック&モダン・ロックというイメージを『Tranquility〜』で手放して、シアトリカルなアートポップへとシフトチェンジした「必然性」は一体どこにあるのか?そして「新作モードの旧楽曲たちはどのような変化を遂げるのか?」、興味はそれに尽きた。

それで結論としては、やはり『Tranquility〜』と『The Car』が生まれたのはやはり必然だったなと。『Whatever〜』でデビューし、ジェームス・フォード(シミアン・モバイル・ディスコ)と出会って『Favourite〜』で“505”のような曲が生まれ、その方向性はジョシュ・オム(クイーン・オブ・ア・ストーン・エイジ)がジョインすることで拡張されていった。一方で、フロントマンのアレックス・ターナー(Vo./Gt.)は「アークティック・モンキーズではできないこと」としてマイルズ・ケインとザ・ラスト・シャドウ・パペッツ(以下TLSP)の活動を開始。その流れはメンバーの心境の変化も相まって『Tranquility〜』や『The Car』へと繋がっていった。そんな一連のプロセスを「20年の集大成」として表現したのが今回のライブだったのだ。

うねるようなドライブ感と遊びのあるアレックスのヴォーカルとのバランスが絶妙だった“Brianstorm”。艶感とグルーヴがより際立っていた“Snap Out of It”に“Why’d You Only Call Me When You’re High?”。オリジナルのヘヴィサウンドを全面に出しすぎることなくナチュラルかつ緩やかなうねりを見せていた“Crying Lightning”。それらのどの曲からも、新作モードのフィルタを通すことによる、新しい一面が見えたような気がした。その一方で、『Whatever〜』の曲に関しては、かなりオリジナルに近しい形でプレイされていたのだが、そこに「新作モードとのギャップによる異質感」みたいなものは全く無くて、むしろ現在に至るまでのプロセスにフィットしているように聴こえた。

そんなライブの中でも一際圧巻だったのは本編のラスト2曲、“I Bet You Look Good on the Dancefloor”からの“Body Paint”だった。初期衝動そのままにがむしゃらにプレイするデビュー当時のスタイルから、鍵盤をベースにしたシネマティックバラード、そして歪んだギターと強く重いビートサウンドへと展開していった最新モードへ繋がるこの流れは、彼らの歩んできた“20年間の過程”そのもの。こんなにもドラマティックな瞬間はそう味わえない。本編が終わり、フロアにはアンコールを待つ大きな拍手が起きていたが、僕的にはこの時点で大満足状態だった。しかし、“よりエモーショナルな瞬間”はアンコールに待ち構えていた。

耳馴染みのあるドラムビートから始まったのは、ライブ終盤の定番曲となった『Favoriite〜』の“505”だ。武道館の時、重低音ビートと強烈に歪んだギターアレンジが印象的だったこの曲は、東京の新しいライブ会場で天井のミラーボールが煌めく下、鍵盤を軸にしたドラマチックで深みのある曲へと変貌を遂げていた。その13年間の変化という名のコントラストに感慨深さから涙が出そうになった。

現在の彼らの手中には、経験と技術に基づいた“最高のクリエイティビティ”と“最強のロック”がある。そして、かつての自分達のサウンドスタイルを全て包括して、今ではどんなタイプの曲も“ロック”として聴かせることができる術も獲得した。2000年代初め、ガレージ・ロック・リバイバルの最中にロックンロールと出会い、その初期衝動そのままに真っ直ぐギター・ロックを鳴らしていた彼らは、20年間のプロセスの中で、ロックの概念をアップデートし続けた。結果、今僕らの目の前にいるのは2023年におけるアートとしてのロックを身につけた唯一無二の存在だ。

<セットリスト(ライターメモ)>
01. Sculptures of Anything Goes
02. Brianstorm
03. Snap Out of It
04. Crying Lightning
05. Don’t Sit Down ‘Cause I’ve Moved Your Chair
06. Why’d You Only Call Me When You’re High?
07. Four Out of Five
08. Arabella
09. From The Ritz to the Rubble
10. Cornerstone
11. There’d Better Be a Mirrorball
12. Do I Wanna Know?
13. Do Me a Favour
14. One Point Perspective
15. Teddy Picker
16. Pretty Visitors
17. I Bet You Look Good on the Dancefloor
18. Body Paint
–Encore–
19. Big Ideas
20. 505
21. R U Mine?

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Shun Itaba