THE 1975 | 神奈川 ぴあアリーナMM | 2023.04.27

親密にそしてより劇場的(シアトリカル)だった2日目

彼らのリアルが詰まった初日公演が終わり、一晩明けた2日目の昼。僕は桜木町近くのカフェで、これまでの彼らのストーリーを踏まえての横浜初日のステージをずっと振り返っていた。全く予想できなかったベクトルのパッケージになっていた初日。「それを踏まえて、2日目はどうなるんだろう?」。会場に入って、座席についてもまた、言葉で表現し難いライブあるあるな期待と不安で頭は膨れ上がっていった。

19時11分過ぎ、場内にはエルヴィス・プレスリーの“Love Me Tender”が流れ、背景のスクリーンに映し出されたのは、「Atpoaim(A theatrical performance of an intimate momentの略=親密な瞬間の演劇パフォーマンス)」の筆記体の文字。そして、そのさらに後ろには、バックステージで自然体で待機するマットの姿があった。その瞬間、この日は通常モードに展開していくであろうと確信した。その場をうろうろしてみたり、お猪口の日本酒を口にしてはちらっとカメラに目線をむけ微笑みを浮かべてみたり、とことん演者的。程なくその場から離れ、ステージへ向かう。その姿をリアルタイムで映し出すカメラ。そのままライブは本編へとシームレスに突入していった。

黒のジャケットとパンツ、その下には白いシャツに黒のネクタイという、ツアーのアーティスト写真と同じようないでたちのマット。バックバンドメンバーのジェイミー・スクワイアー(Key./Gt.)とセミ弾き語りでの“Oh Caroline”で始まったライブは、“I Couldn’t Be More In Love”とシームレスに続き、リアルな失恋状態の自身をシアトリカルに表現した“When We Are Together”でスパッとライブのイントロが終了した。

程なくして、メンバーが登場。今回のバンド編成は、正規メンバーのマシュー・ヒーリー(Vo./Gt./Key.)、アダム・ハン(Gt.)、ロス・マクドナルド(B.)、ジョージ・ダニエル(Dr.)に加え、バックバンドにはイントロにも登場したジェイミー、ジョン・ウォー(Sax./Key.)、ポリー・マネー(Gt./Key.)、ガブリエル・マリー・キング(Per.)の8人編成。<At Their Very Best>ツアーのキックオフだったサマソニ2022の時とさほど変わらない編成ではあったが、全編通して曲の聴こえ方が全然違っていた。それは、おそらく新曲自体が持つ装いと、そこに既存曲が合わさった時のストーリーの見え方に変化をもたらしていたことが起因しているように思う。

80sなシンセのイントロで始まるポップ・ファンク“Looking for Somebody (to Love)”でスタートした本編は、繊細なリフが体を躍らせるジャム・ポップ・ファンク“Happiness”、心地よいギターリフが軽快なグルーヴを産む“UGH!”と初日と変わらぬセットリストで進んでいくのだが、前日との違いはなんといってもマットの立ち振る舞いだ。曲のイントロでちょっとおどけてみたり、ビートに合わせて小気味よいステップを踏んでみたり、オーディエンスをキー高めの声で煽ってみたりと、そこには「人間」であり「演者」でもあるマットの姿があった。

フルバンドバージョンでの”Oh Caroline”では「Thank you」を連呼したり、“Me & You Together Song”ではメンバーもオーディエンスも心地よさそうに体を揺らし、そんな光景に優しい微笑みを浮かべるマットなんてシーンもあった。“If You’re Too Shy (Let Me Know)”後のMCでマットは「Grazy year……」。とちょっとハニカミ気味に口にするマットがいじらしかった。

初日に印象的だった“I’m in Love With You”以降のセクションもこの日は違って見えた。“I’m in Love With You”の意図的なコール・アンド・レスポンス。“Fallingforyou”におけるマットのエモーショナルなヴォーカル回し。“About You”スピーカーの上に立って手を大きく広げて開放的に歌い上げる姿など、さまざまな瞬間がより開けて見えたような気がしたのだ。

ライブ中盤、“Somebody Else”の前には、オーディエンスに向けて歓声のウェイブを促すマットに、それに大きな歓声を持って応えるオーディエンス。その光景を見て興奮のリアクションでまた応えるマット…。そこには、これぞライブショウな光景が広がっていて、来日ツアー前にあった懐疑的なものはそこにはもう感じられなかった。

そんな良い流れに拍車をかけたのは、メンバーでも演出でもなく、オーディエンスだった。“Sincerity Is Scary”の中盤、客席から投げ入れられたのはニット帽。それはかつてマットがよく被っていたニット帽に似たもので、それをマットが被った瞬間、サマソニ2019からコロナ禍を経ての2023年の間にボツボツとあった溝が一気に埋まったような気がした決定打だった。

皆がコロナ禍で抱えたモヤモヤが大きく取り払われた今、もう何も怖いものはない。その後にプレイされた曲のパフォーマンス全てが完璧だった。アコギアレンジからドラマティックに始まり最後は会場を包んだスマホライトが印象的だった“Paris”、遊びを持たせたギターイントロから始まった初期アンセム“Chocorate”ではオーディエンスを存分に躍らせた。

そしてライブは怒涛のクライマックスに突入していく。時折見せる鋭い視線と猛然としたボーカルの“Love It If We Made It”でエモーションを発散しまくった後、マットがアコギを手に取り、聴き覚えのありすぎるフレーズを歌い出す。バンドにとっても僕らにとっても特別な曲“Guys”だ。彼らが初めて日本に来た時の思い出へトリビュートをささげた歌詞「初めて日本に行き、今までで最高の出来事だった。またできたらいいね。」とこのフレーズ周辺だけ歌ってくれたメンバーに泣けそうだったし、その流れからの泣きのアンセム“I Always Wanna Die (Sometimes)”のイントロ流れた瞬間、「あぁ…」と込み上げる感情が思わず声に出てしまった。周りを見渡すように歌うマシューの目の前では、今日一番のシンガロングが起きている。そんな風景の中に自分がいて、そこにいる皆で一緒にシンガロングできている、そんなカタルシス。最高だった。

そんなカタルシスの余韻を加速させるようにライブは、ライブアンセム連投の大エンディングへ。「Yokohama! f*ckin jump!」の号令と共に会場全体が揺れた”The Sound”、デビュー当時のの青臭さと今の成熟感が混ざり合った轟音ギターサウンドの”Sex”、そして最後は”Give Yourself A Try”で残ったエネルギーを発散させるが如く発散しまくったメンバーたちは、フィードバックノイズの中、ステージを後にした。

この2日間のステージから感じたものは、マットの「演者としての誠実さ」と「人間としての正直」さ、その両面だった。プロのミュージシャンとして、「ロックスター/ポップスターはこうであれ」という姿を見せることも、もちろん大事だと思うが、そんな彼らだって人間だし、自分の中から外から大きく揺さぶられることも絶対にある。それは稀代のエンターテイナー、フレディ・マーキュリーだってそうだったし(映画『Bohemian Rhapsody』を観た人ならわかるはず)、そこは年齢も立場も関係ない。

インターネットで何でも知ることができ、かつ情報発信もできてしまうこんな時代だからこそ、生のコミュニケーションに価値があり、その価値を享受するためには、ネット上の根拠の薄いコメントよりも、目の前で起きている事実を受け止めることが大事だ。それをライブに当てはめるならば、今のありのままの心情や姿を覆い隠すことなく表現することに「表現者側の価値」があって、それを受け止め感じ取るところに「受け手側の価値」がある。そういう風に思うのだ。そんな風に思わせてくれたのは、俳優を両親に持つマットの役者の息子としての矜持なのかも知れない。

そんな哲学をエンターテインメントとして昇華させたこの2日間は、バンド史上最高に意義のあるライブだった。この先、彼らがどんな道筋を歩んでいくのかは、彼らもわからないだろうし、神のみぞ知るところだろうが、きっと5年後も10年後も彼ららしくあり続けてくれるに違いない。

<セットリスト(4/27)>
01. Oh Caroline〜I Couldn’t Be More In Love
02. When We Are Together
03. Looking for Somebody (to Love)
04. Happiness
05. UGH!
06. Oh Caroline
07. Me & You Together Song
08. Medicine
09. If You’re Too Shy (Let Me Know) – MC
10. I’m in Love With You
11. Fallingforyou
12. About You
13. An Encounter
14. Robbers
15. Somebody Else
16. It’s Not Living (If It’s Not With You)
17. Sincerity Is Scary
18. Paris
19. Chocolate
20. Love It If We Made It
21. Guys (Matty solo acoustic / short ver.)
22. I Always Wanna Die (Sometimes)
23. The Sound
24. Sex
25. Give Yourself a Try

The 1975 ぴあアリーナMM公演 初日レポート

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Jordan Curtis Hughes