ずっと真夜中でいいのに。| SONICMANIA & 大阪 SUMMER SONIC 2023 | 2023.08.18 & 08.20

ソニマニと大阪サマソニ。違った環境で体感する、ずっと真夜中でいいのに。のライブ表現

19年22年のフジロック出演もあり海外アーティストのファン層にもじわじわと浸透してきたずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)だが、サマーソニックとソニックマニアは初出演。特にソニマニの出演は注目で、26時前に出演したカウントダウンジャパン19/20ほどの真夜中とはいかなくても、深まる夜のダンスフロアにずとまよがどう映えるのか、とても期待しながら当日を迎えた。そして都合のいいことに僕は大阪の民なので、大阪サマソニ2日目のずとまよのステージにも足を運ぶことができた。せっかくなので環境の違いなどもふまえながら、2つのライブをレポートしていきたい。

 

ソニマニ編(8/18 幕張メッセ SONIC STAGE 22:20〜)

バンドの進化と真夜中に溶けていくACAねの存在感

幕張メッセに到着したのは22時前。仕事を持ち込んでいたのでGrimesのDJに揺られながらメールをするという余裕のない状況だったのだが、サウンドチェックから早速代表曲のひとつ“秒針を噛む”を演奏するものだから、気分は即ずとまよモードに。Open Reel Ensembleの3人によるオープンリールとブラウン管ドラムが唸るイントロセッションがフロアのソワソワする空気を掴み、“勘ぐれい”からライブはスタート。昭和歌謡的な情感に令和ポップスのきらびやかな感触が入り混ざる歌唱の中でも、10人のメンバーによるバンドサウンドが随分強調されているように感じる。

単独公演は総勢20人近くにもなるのでこれでもまだコンパクトなバンドなのだが、“眩しいDNAだけ”や“お勉強しといてよ”でも、総勢10人のアンサンブルはやはり壮観。裏のステージのThundercatなんかも彷彿とさせる二家本亮介(B)のベースが軸となる、ファンキーなJ-POPサウンドを基調としながらも、ブラス隊と村山☆潤(Key)のサウンドメイクはゴシックな立体感とシネマティックな臨場感を持ち込み、はたまた見た目にも派手なOpen Reel Ensembleの実験的なセッションに平沢進のライブを連想したりと、重層的にさまざまなイメージが浮かんでは消え溶け合っていく。

正直に言うとこの日の幕張SONIC STAGEの音圧は物足りなく感じるところもあったのだが(構造上仕方がない部分もある)、そんなことはものともしない強靭なバンドサウンドが光っている。前半はそんな感じで「今日のバンドは一味違うな」なんて思いながら、音楽的に語るべきところの多いライブをいくらか分析的に観る余裕もあった。だけど、やっぱり持っていくのはACAね(Vo / Gt)なんだよな。“綺羅キラー”ではフィーチャリングのVTuber/Vラッパー・Mori Calliopeのラップパートを歌いながら要所要所で「ソニマニ!」と歌い代え、ブレイクで「ずっと真夜中でいいのに。です、よろしくお願いします。」からの必殺のフック「キラキラ」でサビに突入する流れに、もう一瞬で落ちてしまった。

そして、いわばコンセプチュアルな総合芸術ともいえる単独公演のセットとは違っていても、やはりヴィジュアル面のアプローチもずとまよの魅力だろう。前半ではお馴染みの絶妙にACAねを映さないサイドモニターとともに、「ZTMY LIVE」の文字と楽曲ごとの原素記号のような略称(お勉強しといてよ→Os、綺羅キラー→Kkなど)が表記されたシンプルで無機質な映像が、メッセの無骨な鉄筋造りも相まってソニマニらしく映えていた。だが、シックなピアノサウンドが冴える“違う曲にしようよ”に続いて、最新作『沈香学』の“上辺の私自身なんだよ”ではスクリーンの文字が溶けて沈んでいき、一瞬でモードが変わっていく。そんなフロアに、より表現の幅が広がったACAねの艶っぽい歌声が染み渡り、この日のハイライトともいえるしんみりとした夜の情感が醸し出されていた。

ずとまよではお馴染みのブラウン管ドラムや扇風機ギターといった見た目にも派手な家電楽器たち(どういう原理で音が鳴ってるんだろう?)も、辻褄の合わない奇妙な夢を見ているようで、不思議な浮遊感に身を委ねるソニマニの夜。中盤にかけてバンドがドライヴする”暗く黒く”でも、大所帯の強みが遺憾なく発揮される重厚なサウンドを切り裂くようにACAねの扇風機ギターソロが冴え渡り、ベースソロからジリジリと入っていく“残機”でラストスパートのギアが入る。「あの曲だよね!?」と気づいた人から興奮が伝播していくこの感じがたまらない。ACAねもやたらとアグレッシブで、呼応するようにフロアもどんどん盛り上がっていく。

MCでは「さっき楽屋でキラキラしたものをアルファードでいっぱいつけてて」とACAね。TOYOTAの車?何を言ってるんだこの人はという空気があたりを包んだが、どうやら瞬間接着剤のアロンアルファと言いたかったようだ。こういう不思議なところも含めて素なのかキャラクター演出なのかさえいまいち掴めないが、どちらにせよ奇才としか言いようのないACAねの存在感に、やっぱり気づいたらのめり込んでしまう。

最後は「シャイな人もそうじゃない人も一緒に踊ろう!」と、“あいつら全員同窓会”で心のまま跳ね回るオーディエンス。というかサウンドチェックの“秒針を噛む”はやらないんだ!?他にも“ミラーチューン”だったりライブの定番曲をあえて外しながらも、耳が肥えた人も多いソニマニの夜に向けて、最新作を軸にした気合いの入ったスペシャルなセットリストに酔いしれた。終演後には「楽しかった」と呟きスマホでフロアを撮るACAねの姿にもドキッとしたし、バンドとACAねの存在感がこれからさらに深まっていくソニマニの夜に花を添えていた。

 

サマソニ編(8/20 舞洲ソニックパーク SONIC STAGE 15:20〜)

ライブバンドずとまよのパフォーマンスをまっすぐに堪能!

ところ変わって日曜日の午後の大阪、舞洲ソニックパーク。日中の外が暑過ぎるので、涼みがてら唯一屋内のSONIC STAGEにたくさんの人が集まるのは大阪では毎年恒例の光景だが、それにしてもソニマニと比べても明らかにずとまよファンらしき人が多く、開演前からフロアはソワソワした熱気に包まれている。

オープンリールとブラウン管ドラムの刺激的なイントロセッションからなだれ込むように、最新作の“馴れ合いサーブ”からライブはスタート。フジロックやソニマニとは違ってここ大阪ではステージを映すサイドモニターがなかったが、ハードなサウンドのドライヴ感も相まって、かえってライブハウスのような臨場感を生み出しているように感じる。ブラスのアレンジが冴える“お勉強しといてよ”でも、手を振り上げるオーディエンスのまっすぐな熱狂がソニマニとも違ってまた心地いい。

そして一際盛り上がったキラーチューン“綺羅キラー”では、ソニマニに続いてラップパートも歌うACAね。この次の週足を運んだ兵庫のONE MUSIC CAMPでは、の子(神聖かまってちゃん)が“フロントメモリー (feat. ACAね)”をヘリウムガスを吸ったようなエフェクトで歌っていたのも気分があがったもので、音源では聴けないACAねのラップを一身に受ける高揚感は、必ずしもフィーチャー相手が客演で来ることが完全ではない遊び心に溢れている。

ライブ中盤では満を持して、ソニマニのサウンドチェックでも演奏していた“秒針を噛む”を披露。馴染みの楽曲だからこそより感じられたのだが、最新作を経たACAねの歌唱表現の進化が凄まじい。淡々と歌う部分も織り交ぜつつ、Bメロの「でも壊れない 止まってくれない」のところなど、さりげなくエモーションが滲む緩急のコントラストがとても際立っている。しっとりとした入りから加速していく“暗く黒く”でもそれは顕著で、舞洲SONIC STAGEは切なくも清々しい情感に包まれていた。「昨日太陽の塔でお祭りやってて、そこでニンニクマシマシの餃子を3パック食べた」と話すと、すかさず“残機”。もちろん歌詞の「ニンニク増しで目指した健康体」にちなんだMCで、ソニマニのベースソロからの入りも興奮したがこういうバリエーションも楽しいものだ。

そして最後は「変な動きになってもいいし、好きに踊りましょう!」と“あいつら全員同窓会”。手数とバラエティを増したスケールの大きいバンドセッションに揺られながら、「一緒にシャイな空騒ぎしてくれる方ー!」と投げかけるACAねと一緒に、縦横無尽に飛び跳ねるオーディエンス。例えばこの日のヘッドライナーのBlur“The Universal”や、昨年のThe 1975“Give Yourself a Try”を彷彿とさせるような、強烈なクライマックス感を切なく噛み締めながら、ずとまよと過ごす時間は最高潮を迎える。夜のクラブのような情感があったソニマニともまた違う、ライブハウスのような熱狂を感じた舞洲のひと時だった。

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もちろんそれぞれのルーツやスタイルは違うが、syrup16gやandymori、神聖かまってちゃんや相対性理論、もっと言えばRadioheadやThe Smithsなど、決してクラスの中心にはいない僕らの胸を打ってきたあの感覚と近しいものを僕は感じていた。近頃使わないプリンタの処分に困っている僕だが、家電楽器達に光を当てるのも同じようなニュアンスを感じていて、ずとまよはクールなようでいてどこか不思議なあたたかみがある。

そういった“シャイな”青春の系譜が、ニコニコ動画やボーカロイド、pixivやVTuberといったカルチャー/アートフォームの文脈や、ACAね自身の幅広いバックグラウンド、そしてクリエイティブチームのような創造性を持ったバンドと巡り合う中で生まれた、現代のJ-POPの在り方。もしかしたらそれがずとまよなのかもしれない。

姿もろくに見えないし、家電楽器もなにがなんだかよくわからない。歌詞もイマイチ捉えどころがないけれども、でもそんな言葉と音楽がスッと心の奥底に触れるずとまよのライブ。ともに過ごした一夏の「シャイな空騒ぎ」は明けたが、どこまでも遠いのに限りなく近いずとまよの音楽は、これからも人知れず悶々としている僕らの真夜中とともにあるだろう。舞洲のライブの最後に「ずっと真夜中でいいのに。」のロゴとともにフロアを照らした真っ白なスクリーンが、朝焼けのように脳裏に焼き付いている。

 

<セットリスト>

▼SONICMANIA(8/18 幕張メッセ SONIC STAGE 22:20〜)
勘ぐれい
眩しいDNAだけ
お勉強しといてよ
綺羅キラー (feat. Mori Calliope)
違う曲にしようよ
上辺の私自身なんだよ
暗く黒く
残機
あいつら全員同窓会

▼SUMMER SONIC(8/20 舞洲ソニックパーク SONIC STAGE 15:20〜)
馴れ合いサーブ
お勉強しといてよ
綺羅キラー (feat. Mori Calliope)
秒針を噛む
暗く黒く
残機
あいつら全員同窓会

Text by Hitoshi Abe
Photo by オフィシャル提供写真