FOSTER THE PEOPLE | 東京 新木場Studio Coast | 2018.1.10

ポップ・ミュージックの系譜に連なる者たち

単独公演としては約6年振りとなる今回のライブは、昨年リリースされたサードアルバム『Sacred Hearts Club』を引っさげてのものである。本作は、約200万枚の大ヒットを飾ったデビューアルバム『Torches』やセカンドアルバム『Supermodel』とは異なり、初めて複数の外部プロデューサーを迎え”モダンなスタイル”で作られたアルバムである。そういったこともあいまって、新作は色とりどりのトラックが詰まったアルバムに仕上がっていて、ライブに対する期待感も高かった。会場には、自分と同じような期待感を抱くであろう人たちや、純粋にFoster The Peopleの音楽が楽しみたいという人たちが多く集まっていた。

定刻から15分ほど遅れて始まったステージは、セカンド・アルバムから”A Beginner’s Guide to Destorying the Moon”で幕を開ける。赤く薄暗い照明がメンバーのバックから照らされ、そのステージの雰囲気はまるで新作のジャケット写真(赤く薄暗い光が差す空間に佇むメンバーが写っている)にある『Sacred Hearts Club』の世界観のようである。2曲めは新作からのリードトラック”Pay The Man”。手元のモジュラーシンセ(?)を操りながら軽快にラップを刻むマーク。しかし、あくまでも”ポップ・ミュージック”の軸はブレていない良質なトラックである。徐々に熱を帯びるオーディエンス。そのあと続けざまに”Helena Beat”、”Life On the Nickel”、”Waste”とファースト・アルバムのキラー・チューンが連投され、オーディエンスのテンションは早くも最高潮に達した。

ツイン・ドラムとベース、ギター、さらには各種モジュラー、シンセサイザーなど、あらゆる楽器がセッティングされた分厚いバックバンドによって作り出される最高のビートに促され、ライヴも中盤にかけてさらに加速していく。オリジナルとは全く異なるアレンジの”Doing It For The Money”。コズミックなサイケデリアが展開される”Pseudologia Fantastica”。モジュラー等を駆使して完全にオリジナルと異なるアレンジの”Are You What You Want to Be?”、軽快なメロディラインに小刻みなビートが心地よい”Don’t Stop (Color On the Walls)”と、これら全ての曲は、ギターのフィードバックノイズやシーケンス・ループなどを挟みつつ、ほぼシームレスに展開していった。すると、ここでなんとRamonesの”Blitzkrieg Bop”のカヴァーが投下され、一部のファンから叫喚の声が上がる。さすがに”Hey ho, let’s go! Hey ho, let’s go!”の大合唱とまではいかなかったが、その場の雰囲気をガラッと変える役割を十分に果たした選曲だ。

“Ramones”というインタールードによって、前半の盛り上がりを一旦リセットする形で始まった本編後半は、”Coming Of Age”、”Houdini”、”Call It What You Want”とアンセム連投で再びダンサブルな展開を作ってから、”Harden the Paint”の爆音ビートノイズでフロアの空気を吹っ飛ばし、”Sit Next To Me”で80年代ポップスやソウルのメロウなグルーヴで一気にチルアウトさせるという、極上のアップダウンな流れになっていて、本当に秀逸だった。本編ラスト“Miss You”では、”Harden the Paint”に勝るとも劣らないの爆音ノイズを轟かせ、フロアのオーディエンスをさらに躍らせた。

アンコールを求める大きな拍手の下、下手からバンドメンバーの内、ひとりが登場し、まるでRadioheadのライブ版”National Anthem”のイントロのように、モジュラー・シンセでラジオ放送のサンプリングをいじり始める。しばらくして、ひとり、またひとりと、ステージに現れ、1枚ずつ音のレイヤーを足していく。そして最後にマークが登場して始まったのが、彼らがブレイクするきっかけになった曲であり、みんなが待っていた大アンセム”Pumped Up Kicks”だ。ミドルテンポのグルーヴに身を委ねながら、サビのフレーズにシンガロングが起き、これで今日のライヴも大団円で終わるのかと思いきや、オーラスは新作の中でも異色な存在である人力ベース・ミュージック”Loyal Like Sid & Nancy”という大どんでん返し。重低音に重ねられる強烈なメッセージに圧倒され、一気に現実に引き戻されたが、こういうフェイントもまた良いと感じることができたのは、僕が思う『Sacred Hearts Club』の本質に気づけたからに他ならない。

『Sacred Hearts Club』は「毎日取り返しのつかない大変な事件や悲惨な出来事が起きていたり、でなければ僕らが大好きなひとかま亡くなっていたりした。だからこのアルバムは何か喜びに溢れた作品にしたかったんだ。」というマークの言葉にもあるように、様々な感情が込められたアルバムである。アッパーでダンサブルでポジティヴな曲なら楽しく踊るし、メランコリックで内省的な曲ならそんな感情をイメージして音に体を委ねる。故に、このアルバムはある意味とてもライヴ的なアルバムとも言えるのではないだろうか。そこにあるのは「決して色褪せることのない普遍的なメロディ」と「いい曲があって、みんなで幸せな気分になれればいいじゃないか」というポジティヴなマインド。今回のライヴは、そんな新作のコンセプトの中にファーストやセカンドの定番曲が放り込まれる事によって生まれた、いわばライヴ版『Sacred Hearts Club』。そう思うと、ラストの”Loyal Like Sid & Nancy”の違和感は瞬時に納得感に変わった。

最後に、開演前に感じたことを書き残しておこうと思う。ライブが始まる前、場内に流れるBGMに耳を傾けていたのだが、その選曲に彼ら(というかマーク)音楽的志向が如実に現れていて興味深かった。マークの音楽的礎となっているThe Beach Boys(というかブライアン・ウィルソン)、The Beatles、Cream、Chi-lites、Roy Ayers・・・。これら、60〜70sを彩ったジャンルを超えた普遍的な「ポップ・ソング」たち。これら「いい曲」たちが、マークの根幹にあると思うと、これからも彼の音楽への信頼感は揺るがない。

[ setlist ]
A Beginner’s Guide to Destorying the Moon
Pay The Man
Helena Beat
Life On the Nickel
Waste
Doing It For The Money
Pseudologia Fantastica
Are You What You Want to Be?
Don’t Stop (Color On the Walls)
Lotus Eater
Blitzkrieg Bop (Ramones cover)
Coming Of Age
Houdini
Call It What You Want
Harden the Paint
Sit Next To Me
Miss You
–Encore–
Pumped Up Kicks
Loyal Like Sid & Nancy

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Masanori Naruse