MÅNESKIN | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.05

ロック再興の真なる狼煙が上がったその証明

「圧巻!」そして「ロック再興の狼煙が上がったんだ!」、そんな実感に満ち満ちたライブ・ショウだった。そんな感覚は、若いロック・ファンにとってはまるで新しくものを見つけたかのように、歴の長いロック・ファンにとっては「やっぱりロックは最高だ!」と心から思えたように、どんな層のファンにも響いていた。2000年代以降「ロックは死んだ」と飽きるほど耳にしてきたこの音楽業界の中において、再びロックを再興させることは、決して容易いことではない。時代が移り変わっていく中で人間の価値観と同様に音楽ジャンルも多様化していった。それはロックも例外ではない。多様化していったロック系ジャンルは、今や数数えきれないほどに膨れ上がり、その結果、純然たる「ロック」の存在感は徐々に薄れていった。それに加えて、サブスクやSNSに代表される、効率的に時間を使えるという時代のライフスタイルにマッチしたツールの登場が、ポップ・ミュージックを一気にメインストリームの中心に押し上げた。

そんな状況下で、突如表舞台に現れ、あっという間に壁を打ち破っていったのが、イタリア出身のロック・バンド、マネスキンだった。彼らの奏でる音楽は、王道ロックを軸にしつつも、ポップであり、ヒップホップやR&Bな要素・雰囲気も持ち合わせたものだ。と、ここだけ読んだら、これまで出てきた同様なロック・バンドと変わらないじゃないかと思うだろうが、彼らが決定的に違うのはロック・ソングの作り方自体にある。多くのロック・バンドはロックに他ジャンルを継ぎ足していくという作り方をしているのに対して、マネスキンはロックとして他ジャンルを包括していくことでロックの強度を底上げするような作り方をしている。よって彼らの根幹にあるロックは強度を上げつつ、ポップへの最適応もモノにしている。だからこそ、若いロック・ファンも古参ロック・ファンも引き込んでいる、そう思うのだ。

Photo by Shuhei Wakabayashi

イタリア出身のロック・バンド、マネスキン。2回目の単独来日公演にして、初のアリーナ公演が東京と神戸で合わせて4公演行われた。チケットは全ての公演が即日ソールドアウト。昨年のサマーソニックと、豊洲ピットで行われた初の単独来日公演(サマーソニックEXTRA)での衝撃、その余韻を残したまま、2023年1月にリリースされた3rdアルバム『Rush!』は、世界15カ国でチャート1位を獲得。第65回グラミー賞では最優秀新人賞にノミネートを果たした。主に若い層を中心としたファンたちの熱狂は、前回ツアー『Loud Kids Gets Louder Tour』から現在行われているツアー『Rush! World Tour』へ、日程的にもほぼ途切れることなく続き、昨年の来日時より、数倍増した熱量を持った状態でライブ当日を迎えた。

夕方頃の会場前には、開場までまだ時間があるにも関わらず、多くのファンが集まっていた。先行グッズ売り場に並ぶファン、純粋に待ちきれずに早く来てしまったファン、と様々だったが、驚くべきは会場に集まっているファン層の若さだ。基本的には平均年齢20代といったところだが、中には明らかに中学生や高校生と思しきファンもいて、想像以上の年齢層の若さに驚きを隠せなかった。加えて、彼ら彼女らの中には、グッズ売り場の列に並んでいる子たちもいて「決して安くないグッズを買うため、なけなしの小遣いを握りしめて並んでいるんだな…」と想像すると、何だか胸の熱い思いがした。

Photo by Shuhei Wakabayashi

大きな赤い膜が吊るされたステージ上。会場が暗転すると間もなく、イントロの演奏から始まり、ダミアーノ・ダヴィド(Vo)の《Dance dance dance…》のフレーズで口火を切ったオープニングナンバーは“DON’T WANNA SLEEP”だ。イントロの終わりと共に幕が落ちると、長めのイントロが逆に焦らしとなり、激しいストロボライトの演出も相まって、早々から会場のボルテージは最高潮に達する。顕になったメンバーたちのその姿。天井から吊るされたマイクに向かって歌う上半身裸に黒パンツ姿のダミアーノ、繊細さとヘヴィなドラムを叩き出す超ショートタンクトップ姿のイーサン・トルキオ(Dr)、身体も音もうねるギターがタマらない白タンクトップに黒ジャケットを羽織ったトーマス・ラッジ(Gt)、そして曲のグルーヴを増幅させるようなベースラインが最高な黒のロングビスチェ姿のヴィクトリア・デ・アンジェリス(Ba)。彼らによる、明らかに新人離れしたパフォーマンスを実際に目の当たりにして、初っ端から圧倒されながらも、コール・アンド・レスポンスの要求にしっかりと応えていくオーディエンス。

そこからシームレスに続いたのは、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)とのコラボ曲“GOSSIP”。この曲は、メンバー間でジャムしまくってできた曲ということもあり、バチッとハマった原曲の感じは残しつつ、ライブ版はよりジャム感が増していて、感嘆の声が会場中から上がっていた。特にトーマスのギターは、まるでトム・モレロの歌うようなギターをはじめとした、彼にインスピレーションを与えた名ギタリストたちの影響が随所に感じられ、終始最高の泣きのギターがファンを魅了する。この曲が持つロックで、且つダンサブルな曲調は今風でもあり、トーマスのインスパイアのくだりでも書いたように、ロックの先人が築き上げた歴史も感じられる楽曲だった。

スタートダッシュはまだまだ止まらない。ダミアーノのカウントアップから始まった、ヒット曲“ZITTI E BUONI”では、全編イタリア語で歌われるヴォーカルからは艶っぽさが感じられ、バンドのセクシーな一面を強調する。ここでもダミアーノはコーラスをファンに委ね、3回目のコーラスではジャンプも促し、コール・アンド・レスポンスからのシンガロング&ジャンプという、ファン参加型リアクション全入りな展開にテンションは一気に突き抜けた。そんなオーディエンスのテンションをさらに煽ったのはリズム隊の二人だ。超ハードでヘヴィなイーサンのドラムと、喘ぐように鳴るヴィクトリアのベースは、レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムとジョン・ポール・ジョーンズの関係性っぽさもあり、“GOSSIP”と同じく「ロックの歴史は繋がっているんだ」という実感が否応にも湧いてくる。曲が終わり、ダミアーノの凄まじい勢いのMC「コンバンワ!トーキョー!ファッキン!ファイアートゥナイト!」から始まったのは、“HONEY (ARE U COMING?)”。いきなりのヒット曲連発に、オーディエンスのテンションは上がりっぱなし。コーラス最後の《Honey! Are U coming!!!》のシンガロングもバッチリ決まってて最高に気持ち良い瞬間だった。(ちなみに、Mステ出演時に演奏した同曲のパフォーマンスが大人しめだったので、ちょっと心配したがそれは杞憂だった)

ライブ序盤を観て気になったことがひとつあって、それは演出が非常にシンプルだったこと。煌びやかなライトこそ当たってるが、ステージの両サイドにあるスクリーンに映し出されてるのも演奏するメンバーのみで、いわゆる映像演出というものが無い。それはある意味古典的で、照明を使った演出も、ただステージ全体の見た目をど派手に魅せるためのものではなく、メンバーのパフォーマンスを際立たせることに特化している。言い方を変えれば、彼らは照明と自らのパフォーマンスのみで勝負してる、とも言えるし、その辺がかつて観てきた「ロックバンド像」と重なるようで、思わずニヤッとしてしまった。

Photo by Fabio Germinario

マネスキンはロックをやることにプライドを持ちつつも、非常に柔軟な思考も持ち合わせている。それがわかりやすく表れているのが、次の曲“SUPERMODEL”だ。マックス・マーティン(コールドプレイ、ザ・ウィークエンド、レディー・ガガなど)をプロデューサーに迎えたこの曲で、キャッチーでモダンなテイストは持ちつつも、とにかく中毒性の高いそのモダン・ロックなグルーヴが、オーディエンスを踊らせ、暴れさせる。さらには、ダミアーノの「カモン!シング!」で歌い、「エヴリバディ、ジャンプ!ジャンプ!」の言葉にジャンプし、とにかく消費カロリーが高い曲だ。けど同じくらいに楽しい。

ここまで猛ダッシュで駆け抜けてきたライブを、少し落ち着けるように始まったのが“CORALINE”、テンポをグッと落としたバラード曲である。序盤はダミアーノのヴォーカルとトーマスのギターのみで聴かせ、途中からイーサン、ヴィクトリアと参加し、一気にエモーションが増していく展開。ヘヴィでシンプルなメロディと、イーサンのエモーショナルなドラムがぶつかり合い、悲痛な心の叫びがドラマチックに会場中に響き渡る。曲の後半では、ジョン・フルシアンテを彷彿とさせるようなギターのトーマスに、ヴィクトリアが跪きながら向かい合いベースを弾き、しっかりと二人の存在感を誇示。極め付けはコーラスパートからのアウトロだ。ダミアーノのイタリア語の歌詞の美しさ溢れるヴォーカル、そしてトーマスの泣きのギター、そして素になる瞬間を与えない怒涛のドラマティックな展開は、終始胸を締め付けられるようで、とにかく感動的だった。

バラード曲で休まるどころか、感極まって逆にエネルギーを使ったところに投入されたのがTikTok経由で彼らを一躍有名な存在にした大ヒットカヴァー曲、“Beggin’”だ。曲のオリジナルを歌っているのは、ザ・フォー・シーズンズ(60年代後半以降に活躍したアメリカのブルー・アイド・ソウル・グループ)なのだが、原曲の雰囲気を全く感じさせない。それは、マーヴィン・ゲイの“I Heard It Through The Grapevine”(※1)やザ・ビートルズの“Twist And Shout”(※2)に似たものだ。このカヴァー曲で沸き起こったシンガロングは、“Beggin’”を“Beggin’”という曲名の別のオリジナル曲にした瞬間のように感じさせた。曲中盤では、ヴィクトリアが客席に突入し、もみくちゃにされながらもしっかりベースプレイしている姿がとにかく頼もしい。そこに《I’m beggin’, beggin’ you!!》のシンガロングも相まって、会場全体を一体に仕立てていた。

(※1) オリジナルを歌っているのはスモーキー・ロビンソン(50〜60年代に活躍したR&Bシンガー/モータウンの設立メンバー)。
(※2) オリジナルを歌っているのはザ・トップ・ノーツ(60年代前半に活躍したR&Bヴォーカル・グループ)。

Photo by Fabio Germinario

“Beggin’”の熱狂の余韻が残る中、ライブは中盤へと突入していく。ミッドテンポのロックバラード“THE DRIVER”では、スロウなヴァース&コーラスとヘヴィサウンドなブリッジの繰り返しというシンプルな曲構成ながらも、哀しさを感じるコーラスからまるでミューズを彷彿とさせるド派手なブリッジの落差の凄さが、聴き手の感情を刺激する。「次はトーマスのフェイバリットソングだ!」というダミアーノのMCから始まった“FOR YOUR LOVE”も“THE DRIVER”と同じくミッドテンポなロックソングながらも、ダミアーノの「メイク・サム・ファッキン・ノイズ!」という煽りと情熱的なヴォーカル、そしてヘヴィな演奏が相まって、客席に熱狂の渦を作り出す。途中からはダミアーノ、トーマス、ヴィクトリア、それぞれが客席に突入し、ファンともみくちゃながらに触れ合いながら熱を増幅させていく。もう、これだけでも十分な盛り上がりを作り出せていたが、バンドはさらにオーディエンスを煽っていく。トーマス、ヴィクトリア、イーサン、それぞれのソロパートだ。まるでジョン・フルシアンテを彷彿とさせる熱狂と繊細さが同居するメロディアスなトーマスのギター。真っ暗闇の中、琥珀色のスポットライト(ダミアーノが照明を持って照らしていた)に照らされ、そこに映し出される陰影に見える立ち姿はブライアン・メイのようでもあり、新時代のギターヒーロー誕生を感じさせるこの瞬間は、最高に鳥肌ものだった。それに対して、ヴィクトリアのベースは、決してど派手ではないものの、ジェンダーを超えた艶やかさのある存在感と、バンドサウンドを堅実に支えるベースプレイは「マネスキン」というバンドの軸にあると感じさせる説得力がある。そして、極め付けはイーサンのドラムである。「ボンゾ(ジョン・ボーナム)か!?」とつい口走ってしまいそうになるドカドカ系のヘヴィなドラムはとにかく圧が凄まじく、ステージから離れた位置にいた自分のところにも響いてきた。

ダミアーノの色気のあるイントロのボーカルから始まった“VALENTINE”は、ダミアーノの哀愁溢れるヴォーカルが印象的なバラードナンバーだ。気持ちスロウなテンポの演奏によって繰り広げられる、古風と新しさが同居するメロディラインは、ダミアーノのヴォーカルとトーマスたちの演奏によってひたすらに美しくも哀しく鳴り響く。クライマックスは、ひたすらに哀愁的なシャウトを見せるダミアーノのエモーショナルなヴォーカルと、そんなヴォーカルをまるで撫でるように鳴るトーマスのギターが絡み合い、強く胸を締め付けられるようだった。

“VALENTINE”が終わり、間もなく始まったのは、イーサンとトーマスによるセッションパートだ。重くもリズミカルなイーサンのドラムと、咽び泣くようなトーマスのギターのアンサンブルが、二人の世界を創り上げていく。途中でダミアーノの掛け声も入るが、それはあくまで添え物としてのもので、会場を掌握しているのは完全にイーサンとトーマスだった。

そんな凄まじいセッションにあっけに取られていると、間も無くヴィクトリアの殴りつけるような重いベースラインがそこに加わり、“GASOLINE”へと移行する。不穏な空気を感じさせるような赤いライトに照らされるステージ上で、強烈なリズム隊の演奏をバックに、ふてぶてしく歌うダミアーノ。そこにトーマスの歪みまくりのギターが切り込むと、演奏は徐々にテンションを上げていった。そこに満を持して《We’re gonna dance on gasoline!!!》のフレーズで大音量で叫ぶオーディエンス!すると、トーマスはステージを降り、アリーナ最前列の柵…いや柵前のファンにもたれかかるように唸るギターソロを炸裂させる。そのままアウトロに入ると、リズム隊のシンプルながらもスーパーヘヴィな音で、トーマスのギターを最高に引き立たせていた。

Photo by Fabio Germinario

会場は暗転し、しばらく「何が起きるのか?」とざわついていたオーディエンスだが、そのざわつきはじきに手拍子へと変わっていった。すると、アリーナ後方にスポットライトが当たり、そこにはダミアーノとトーマス、イーサンの姿が。沸き起こる歓声。そこはサブステージのようだ。スタンドマイクを手に取るダミアーノ、アコースティックギターを手にトーマスとイーサンが椅子に座ると、そこからアコースティック・セクションがスタートした。

アコースティック・セクションの1曲目は“TRASTEVERE”。自然発生したオーディエンスによるスマホライトが煌めく中、艶めかしくも情熱的なバラードを奏でる3人。コーラスパートで高らかに歌い上げるダミアーノのヴォーカルとまるで競うように色気のあるフレーズを弾く2人のアコギが、より曲の艶やかさと美しさを増幅させていった。2曲めの“TIMEZONE”では先ほどの情熱的な感じから一転、切なさ漂う雰囲気に変わっていく。ダミアーノの恋愛における実体験が元になったこの曲で、張り裂けそうな想いを歌詞に乗せ、時にエモーショナルに、そしてソウルフルにも歌う。それはまるで移り揺れるダミアーノの想いを表現するようで、この曲を極上なラブソングに仕立てていた。このアコースティック・セクションは、マネスキンが破格なのは“フルバンドサウンド”だけじゃないことの証明となった。

Photo by Fabio Germinario

アコースティック・セクションが終わると、すぐさまメインステージで演奏が始まった。一足先にサブステージから戻っていたイーサンとヴィクトリアのインストセクションのスタートだ。バスドラの前で仁王立ちするヴィクトリアのヘヴィーで粘りのあるベースライン、タイトで且つヘヴィーにリズムを刻んでいくイーサンのドカドカ系ドラム。どんどんグルーヴが増していくリズム隊。下っ腹に響く強烈なビートが最高に心地良い。気づいたら時間の経過を忘れていた。

「まだまだ聴いていたい!」そう思った瞬間に、聴き覚えのあるヴォーカルのフレーズが聴こえてきた。“I WANNA BE YOUR SLAVE”だ。彼らを世に知らしめたこの曲のスタートに大歓声が湧き起こる。グラマラスでフリーキーでダンサブルで、さらにはEDMのドロップ構造のような展開もあって──そんな現代最高のアガるロックソングに、終始踊りっぱなしのオーディエンス。《I wanna be your slave, I wanna be your master》のコール・アンド・レスポンスもしっかりと決める。最後のコーラス前には、ダミアーノの指示「Down down down…..」でオーディエンスは身を屈め、続いてのカウントアップで、コーラスで一斉にジャンプ!あちらこちらから発狂にも似たファンの叫び声が聞こえる。これを最高と言わずして何を最高と言うのだろうか!とステージ上を見ると、笑顔で大の字になるダミアーノの姿があった。

思い返すと、イタリアのいちローカルバンドだった彼らが一躍世界の注目の的となった、ヨーロッパ最大の音楽コンテストであるユーロビジョン・ソング・コンテストの2021年優勝者という大きな実績、そしてその肩書き。普通のバンドなら優勝時からスタイルは大きく変えずに、作品を作り、プロモーションに勤しむ…のがイメージし易いところだが、彼らは冷静にその時の状況とその先を見ていた。

有名になったその先にあったのは、彼らを称賛するポジティブな反応と、色モノとして見て批判するネガティブな反応だ。とりわけキャンセルカルチャーが広まりやすいSNS上における、そういったネガティブな反応は、時に言葉の狂気となり得るもので、彼らはそこに目をつけ、コンテスト優勝後に真っ先に制作したのが次の曲、“MAMMAMIA”だ。ダミアーノは曲前のMCでこう言っていた。「ユーロビジョンで優勝した。僕らは素晴らしいことをしたと思ってる。けど、そのことで批判されてしまうこともあるんだ。そんな状況もからかって過ごしてやる、そんな素晴らしい曲が“MAMMAMIA(なんてこった!)”なんだ」。イタリア人の楽観的な側面を感じるような超ポジティブなこの曲で、ダミアーノは「世の中にいるステレオタイプなんて、からかって過ごしてやるぜ!」と言わんばかりに、バウンシーに歌う。そこにヴィクトリアの重いベースラインが重なって、最高にクールでポップなサウンドが広がり、締めはオーディエンスとのシンガロング“Oh! mamma mamma mia!”。会場全体が「なんてこった!」と叫ぶその光景は、ロックが作り出す開放的な空間を象徴しているようだ。

会場内に広がるポジティブな雰囲気の中、スッと入り込んでくるどこか不穏さを感じさせるヘヴィ・ロック・ナンバー“OFF MY FACE”。ヘヴィなバスドラと不穏な声色のヴォーカルをイントロに始まるこの曲は、原曲2倍増しの重量感とアシッド風味のあるヴォーカルとバンドアレンジが相まったグルーヴでオーディエンスを酔わせ、続く“IN NOME DEL PADRE”では、AC/DCを彷彿とさせる王道なギターフレーズをイントロに、畳み掛けるイタリア語のラップへのミクスチャーロックな展開で、ファンのハートを鷲掴む。それだけでは飽き足らず、ドラムスのイーサン以外の全メンバーがステージから降りて、それぞれ客席に突入する。トーマスに関しては、客席を闊歩しながら演奏するその様子をギターの先端に仕込まれたカメラで撮影。その映像はスクリーンに映し出され、それを観た離れた場所にいるファンからは大歓声が上がっていた。

メンバーがステージ上に戻ると、休む間もなく次の曲、“BLA BLA BLA”が始まる。ダミアーノのコール《Ah-ah-ah-ah-ah-ah-ah-》から始まるダンス・パンクなこの曲は、アップテンポな曲ながらも歌詞的には失恋ソングなのだが、内容が「恋人に裏切られ失恋したことにブチ切れてることを歌っている」と吹っ切れてるとも違う振り切ってる感があって、しんみりした感じは皆無。ダミアーノのパフォーマンスにもそれは現れていて、まるでこの歌詞のシチュエーションを楽しんでいるようだった。それはヴォーカルの声色にしてもそうだし、ステージ上での軽快な立ち振る舞いにしてもだ。極め付けは、自ら客席に乗り出し、腕を突き上げながら《Ah-ah-ah-ah-ah-ah-ah-》をオーディエンスに歌わせたり、その憤りを滲ませつつワザと不穏な笑顔を浮かべていたりと、とにかく不思議な楽しさが溢れていた。

Photo by Fabio Germinario

彼らの母国、イタリアに保守的な側面があるのはまごうことなき事実である。故にイタリア国内で需要があるのは、ポップやトラップ、EDMなどの、ヒットチャートに上がるようなメインストリーム・ミュージックばかりで、それ以外の音楽は蚊帳の外にあり、そこにはアメリカやイギリスのようなインディーロック的な概念はほぼ存在しない。そんな国でロックをやるということは、需要のないほぼゼロな存在であることの証明だ。そんなイタリアから突如現れた彼らが、同じように保守的な風潮に埋もれてしまっているミュージシャンやリスナーたちに向けた強烈なメッセージソングが、本編最後の曲“KOOL KIDS”(メインストリーム・ミュージックばかり聴くクールなヤツら)だ。

「今日のステージは僕らにとって最高の瞬間だ!」と、ステージにファンをどんどん上げるダミアーノ。ステージに30人ほど上がったところで始まった曲は、まるでロックを称賛するパーティのようで、メンバーたちもファンもとにかく楽しそうにはしゃいでいるようだった。メンバーそれぞれに密集するファンたちと、そんなファンたちと一緒にプレイするメンバー、彼らみんながとにかく楽しそうにしているのがとても印象的だった。そして、そんな雰囲気の中に投入される声明的なその歌詞、《俺たちはパンクでもポップでもない、ただの音楽フリークだ》や《クール・キッズはロックが好きじゃない / トラップとポップしか聴かないし、彼らはロックはクソだと思ってる / でも俺たちはクール・キッズがどうとかクソどうでもいい》は、現代版に変換された“ロック”な叫びそのもので、《Kool kids! Kool kids!》のシンガロングも相まって、会場の一体感を強く感じられた。最後、トーマスのエフェクターを駆使した演奏からのフィードバックノイズと共に演奏が終わると、まるでお互いを称賛するように、ハグしたり、座礼しあったりしていた。そんな光景は微笑ましくもあり、ロックファンであることを祝福されているような幸福感を感じずにはいられなかった。

Photo by Fabio Germinario

オーディエンスのアンコールを求める拍手と、「マネスキン!」コールが鳴り響く中、大歓声の中上半身裸になったトーマスが再登場。ギターを手にとると、まずはシンプルな柔めのギターフレーズを弾き、それをサンプリング音にしたものをベースにして、次のフレーズを重ね、最終的にはメロディ本体が浮かび上がってくるようにギターフレーズを作り上げていく。思わず目を瞑って聴き入ってしまうような、最高な泣きのメロディのあまりの美しさに、感嘆の声を上げることすら忘れ、思わず無言で聴き入ってしまうオーディエンス。こういうカタルシスのある瞬間があるからこそ、ロックはやめられないのだ。

そして、ギターソロからシームレスにクライマックスへと突入していく。ダミアーノの哀愁あるイントロのヴォーカルから始まったのは、超王道ロック・バラード・ソング“THE LONELIEST”だ。『RUSH!』以前の彼らに足りなかった圧倒的な存在感を持つバラード・ソングとなったこの曲は、レッチリにおける“Under The Bridge”であり、クイーンにおける“Love Of My Life”であり、メタリカにおける“Nothing Else Matters”であり、エアロスミスにおける“I Don’t Want to Miss a Thing”だ。この曲がラスト前のこの位置にあることで、ライブ・バンドとしてのマネスキンを、確実に一つ上のステージに上げたといっても過言ではないと思う。そんな極上のロック・バラードはオーディエンスの心を鷲掴みにし、「まだ終わりたくない!」そんな心の叫びが聞こえるような、ラストのコーラスの大シンガロングを生み出した。エモーショナルなヴォーカルに、荒々しくもドラマティックなバンド・サウンドが合わさることでより際立つ、この曲が持つ泣きメロは、この曲がバンドのマスターピースになる予感を感じさせるほど、胸が熱くなるものがあった。

日本のオーディエンスにマネスキンが現代最高のロック・バンドであることを証明した、この日のライブのラストを締めたのは、本日2回目の“I WANNA BE YOUR SLAVE”だった。あのイギー・ポップに「最高のヴォーカリストを擁し、自分たちがやるべきことを心得ている。最高にイカしてて、如才がなくて、洗練されたハードコア・ロックバンド」と言わしめたこの曲で、彼らはイギーの言葉を体現するようなパフォーマンスを見せた。マント(“KOOL KIDS”からずっと身につけっぱなし)を身につけたダミアーノのその立ち振る舞いには、まるでフレディ・マーキュリーを彷彿とさせる会場を掌握する存在感があったし、堂々としたそのヴォーカルに関しても、もはや新人とは言えない威厳を放っている。そんなダミアーノと一体となり、上昇していくバックバンドの熱量もまた凄まじかった。ヘヴィなグルーヴを生むトーマスのギターと、まるで歪んだエフェクトがかかっているような凄まじい重さのあるヴィクトリアのベース、そしてひたすら強靭なで強烈だったイーサンのドラム、それらがバンドのパフォーマンスの熱量を底上げし、オーディエンスのボルテージをさらに高めていった。スタンディングエリアでの沸き起こる激しいモッシュに、指定席エリアの絶叫と暴れるに近しいダンスと、まさに会場一体となった熱量の爆発っぷりは、「灯滅せんとして光を増す」と言わんばかりの最後の瞬きだ。

そんな、まさに“完全燃焼”な2時間弱のライブは、マネスキンの最高で王道と革新が同居するロックの持つ圧倒的なパワーと、そのパワーを混じりっ気なしにオーディエンスに伝えるバンドのライブ・パフォーマンス、そしてそれに応えるオーディエンスの純粋な熱量。それら全てが掛け算で巨大化したようなライブだった。

Photo by Fabio Germinario

改めて書くが、マネスキンが生まれた国は「ヒットチャート至上主義」と言う意味で保守性の強い国イタリアである。そんな彼らがこのライブで証明したのは、ポップもR&Bもエレクトロもヒップホップも全部包括するような2023年におけるロックの革新性。それはライブを通して「ロック再興の狼煙が上がった」という確信をファンに与えた。そんな大きな影響を生み出したのが、ロックを生んだイギリスでもアメリカでもなく、イタリアのバンドだった…と、こんなに痛快なことはない。きっとこの先も彼らの「ヴォーカル/ギター/ベース/ドラムスで作り上げるロックンロール」という軸は変わらないだろう。この4ピースという形を深化させていきながら、引き続き、時代の流れと共に様々な音楽を包括しながら、時代を堂々闊歩していく、そんな画が容易に想像できる。。それはすなわち、確度の極めて高い、王者誕生の未来予想図だ。

<セットリスト>
01. DON’T WANNA SLEEP
02. GOSSIP (feat. Tom Morello)
03. ZITTI E BUONI
04. HONEY (ARE U COMING?)
05. SUPERMODEL
06. CORALINE
07. Beggin’ (The Four Seasons cover)
08. THE DRIVER
09. FOR YOUR LOVE
10. VALENTINE
11. GASOLINE
12. TRASTEVERE (Acoustic ver. at Acoustic Stage)
13. TIMEZONE (Acoustic ver. at Acoustic Stage)
14. I WANNA BE YOUR SLAVE (with bass and drum intro)
15. MAMMAMIA
16. OFF MY FACE
17. IN NOME DEL PADRE
18. BLA BLA BLA
19. KOOL KIDS
EN01. THE LONELIEST
EN02. I WANNA BE YOUR SLAVE

※ライブ写真は12月2日3日有明アリーナ公演のものです。

Text by  Shuhei Wakabayashi
Photo by Fabio Germinario