人間の喜怒哀楽に寄り添い、許し、その先に見つけた光
「ブルージーに生きろ」。この言葉は、各方面から注目を集める、25歳の新進気鋭のシンガーソングライター、さらさのアーティスト活動における大きなテーマだ。このテーマは、人間が生きていく中で感じる、悲しみや憂鬱、孤独などから生まれたとされる“ブルース”に影響を受けた彼女が、ブルースが本来持つ「喜怒哀楽」などの様々な感情から見える、対となる感情「ポジティブとネガティブ」のあり方を、彼女の中の“ブルース”として言語化したものだ。そんなテーマから作られた彼女のクリエイティブには、「ネガティブな出来事や感情は決して悪いものじゃない。そこにはきっと抜け出せるチャンスがあって、その先にはきっと良い世界が広がっているはず。」という“感情を肯定する”メッセージが込められているように思う。
彼女自身2回目のワンマンライブは、前回のワンマンからニューシングル“f e e l d o w n”以外で大きなリリースがないにも関わらず即日ソールドアウト。それは彼女が素晴らしい作品を残しているからというのも勿論あるが、初のワンマンライブ開催や、フジロック’22をはじめとした様々なライブイベントへの出演、ラジオやポッドキャストの番組にも多数出演しながら、精力的に活動を続けていたことも起因しているだろう。そんな彼女の活動が実を結んで、この日も多くのファンが会場に駆けつけていた。
開場と共に徐々に埋まっていく会場。エントランスにグッズの先行販売コーナーがあったため、そちらでグッズを購入してから入場するというファンが多かったためか、開場の入りのスピードは若干遅めだった。けれど、開場して30分も過ぎるとキャパ700人のWWW Xは、あっという間に満杯状態に。そこに集まっている客層は、20代を中心としつつも上は50代(と思しき)ファンもいて幅広い。
「彼ら、彼女らは、さらさのどんなところに惹かれてここにきたんだろう?」そんなことを考えながら開演を待っている中、場内にはカナダの女性シンガーソングライター、ファイストの曲が流れていた。その選曲は、ファイストらしいフォーキーなオリジナル楽曲から、エレクトリックをはじめとした各種アレンジのリミックス楽曲、そして“異端の天才ピアニスト”チリー・ゴンザレスとのエキセントリックなコラボ曲まで、ファイストの多面性が表れたものだった。自分の軸を持ちつつ、そこに止まらずアプローチをかけていくという点において、さらさと共通するものが見えた気がした。
定刻から少し遅れて始まったセカンドワンマンライブ『( star )』。会場の照明が落ちると、空気の音が聴こえるような環境音と、まるでファンをささやかに迎え入れ祝福するような小さな鐘の音が鳴り響いていく。そんなアンビエントな入場SEとファンの温かい拍手の中、「さらさららぶりーろんりーばんど」のメンバー、磯貝一樹(Gt)、松浦千昇(Dr)、オオツカマナミ(Ba)、石田玄紀(Key/Sax)が登場。最後にさらさ(Vo/Gt)が大人な雰囲気のある黒のドレス姿で登場。
入場SEは、徐々に丸みを帯びたビートサウンドへと変わっていき、“Virgo”からライブはスタートした。1stフルアルバム『Inner Ocean』から連想させる風景…夜の海底に一筋の星の光が差し込むような幻想的なメロディに乗せ、薄明かりのスポットライトに照らされる中、ステージ上をファンに語りかけるように歌いながら歩くさらさ。《止めないで 揺れる心 立ち止まることも前進で》と、どんな状態をも肯定してくれる彼女の歌詞と優しい声色が心に染み入ってくる。
「みなさん、( star )へようこそお越しいただきました。最後まで楽しんでいきましょう」そんなさらさの静かな語り口のMCから続いたのは、リリースされて間もない新曲“f e e l d o w n”だ。ネオソウル以降の90’sR&B感漂うグルーヴと、ラテンのヴァイブスが感じられるこの曲から感じたのは、“現在”の彼女の中にある音楽の様々なエッセンス。そして、一つ上のステージに上がったようなサウンドクオリティ。彼女のヴォーカルもより深くソウルフルになっていて、グルーヴィーなサウンドと、ムーディーな空気感に、体を揺らさずにはいられないオーディエンス。
続く“jjj”では、背景に照らされた一筋の光と、メンバーを照らす淡い琥珀色のライトが、より一層シックな雰囲気を演出。ボサノヴァっぽい雰囲気のあるサウンドと、徐々に強くなっていくリヴァーブに、まるでカモメの鳴き声を模したようなエフェクトがかったサックス音。それらが全て重なり、曲のアシッド感が増していった。そんな演奏から、まるでグラデーションを描くように心地良さが増幅していくのが分かる。
そのままシームレスに始まったのは“退屈”。“退屈”という感情の中でれ動く人の気持ち、それを表現するかのような、囁きにも似た声色で歌うさらさのヴォーカルと、ドリーミー且つグルーヴィーなそのサウンドアレンジに、オーディエンスの体はまだまだ揺れ続ける。最後のサビからアウトロにかけて心強さを後押しするような強さが増していくサウンドと、《わたし変われないから / ひとりここに残っていよう》という歌詞が、退屈な感情を許容するような空気を生み出していた。曲が終わるごとにオーディエンスから発生する拍手は、まるでさらさの世界を優しく包むようだ。
今回のライブは、初ワンマンライブの賑やかな装いのステージセットと比べ、シックな装いのステージセットとなっていた。ステージ上にあるのは、天井から吊るされた琥珀色の「星のオブジェ(名古屋造形大学の木崎ガクト氏の段ボールアート作品)」と、メンバーたちの楽器、アンプ、エフェクターなどの必要最小限の機材のみ。非常にシンプルなセットだ。それに加えて、メンバーの衣装も「黒」と「黄色」のみという縛りがあって、ステージには『( star )』の世界観の下地が出来上がっていた。そこに出来ていた空間には、落ち着く雰囲気があり、曲や歌詞を聴かせるには最高の環境だったと思う。
そんな中、さらさの優しく肌に触れるようなヴォーカルから始まったのは“祈り”。アンビエントな中にも静かなジャジーさを感じる序盤から、サビのダンサブルな展開にかけてのコントラストが素晴らしく、中でもサビでの石田のプログレッシヴなサックスがまた最高で、さらさのヒップホップライクなヴォーカルと入り乱れるその様は、カオスでありながらもギリギリのところで均衡が保たれていて、抑制された高揚感がタマらなく気持ち良かった。
“午後の光”でも、そんな独特の高揚感は続いていく。トリップ・ホップを彷彿とさせるアタックの強いビート感があるオルタナティブなソウルは、さらさ流のブレイクビーツだ。彼女にとっての新しい試みが強く感じられるこの曲中、さらさは背後からの強烈な照明による逆光でうっすらとしか見えない。しかし、そんなうっすらとしか見えない光景が逆に、曲が持つ、さらさの中にある“剥き出しの感情”を余白混じりに朧げに映し出しているようで、心にグッとくるものがあった。
ソロでの活動だけに留まらず、数々のミュージシャンとのコラボレーションも果たしているさらさ。GLIM SPANKYの松尾レミをはじめ、Michael Kaneko、SPENCR、dawgss、AFTER HOURS…など。他にもセッションでのコラボなども含めたらもっとだろう。そして『Inner Ocean』でコラボしているのが、名古屋出身のラッパー、NEI(ネイ)だ。
流れ始めた“Blue”のイントロの中、さらさの呼び入れと共に登場したNEI。場内にぶら下げられたミラーボールが煌めく中で歌う、この曲が持つ艶やかな夜の雰囲気は、彼の寄り添うような飾り気のないラップとフロウにマッチしていて、フックのさらさによる印象的なフレーズ《飲み掛けのChinese blue(グレープフルーツとライチの味わいがあるカクテルの名前)》をより際立たせる。さらさとNEI、この二人の掛け合いは、とてもナチュラルなフィーリングがあって、歌い終わりで二人がハグしていた姿も相まって、二人の温かみのある繋がりが感じられたコラボレーションだった。
ライブは中盤に突入していく。さらさの「改めまして、さらさです。こんばんは。」という挨拶から、「さらさららぶりーろんりーばんど」のメンバーの紹介へと進む。彼女が絶大なる信頼を置く手練のミュージシャンたち。松浦、磯貝、オオツカ、石田とひとりずつ紹介する流れで、各々の楽器の音が足されていく。その流れで始まっていったバンド・ジャム・セッションは、決して派手ではないものの、ファンクやジャズをベースにしつつ、アシッドな雰囲気があったと思えば、一瞬プログレ風な香りも漂ったりと、いい意味でカオティックさもあった。これはいつまでも聴けてしまう系の最高なサウンドだ。そこから、徐々にジャジーさが強まっていき、生まれ出てくる緩やかなグルーヴがすごく心地良い。セッション終盤、さらさがステージに再登場。彼女はここまでずっとヴォーカルのみに徹してきたが、ここで初めてギターを手にする。
聴き馴染みのあるギターイントロから始まったのは、彼女のデビュー曲“ネイルの島”だ。ジャズやソウル、ファンク、ヒップホップのテイストを消化しつつもジャジーな雰囲気を纏ったこの曲に、《変わらなくていい / 剝がれ切った気持ち全部 / 守り切って上げるから》などの彼女らしいネガティブな気持ちも肯定する歌詞が重なることで、オーディエンスの心に、より曲が染み入っていく。穏やかな笑顔で歌うさらさ、それを支えるように重なるオオツカのコーラス、そして、そこに降り注ぐような星に反射する琥珀色の照明がただただ美しい。ラストは磯貝のブルージーなギターソロがバッチリと決まって、次の曲へと続いていく。
磯貝の極上なメロディラインのギターイントロから、ミッドテンポの“太陽が昇るまで”が始まると、夕陽色の照明に照らされるメンバーたちがステージに立っている光景も合わさって、会場内に穏やかな空気を作り出していった。この曲で際立っていたのが、哀愁を感じる緩いグルーヴのある磯貝のギターと、そこに添うように歌うさらさのヴォーカル。「陶酔する」とはまさにこういうことを言うんだろう、思わず目を瞑って聴き入ってしまいたくなった。
今回のステージの世界観を作る上での演出で印象的だったのが、「星のオブジェ」と「琥珀色の照明」だった。その“琥珀”を英訳した言葉“Amber”が次なる曲だ。“琥珀”の石言葉には、“陰陽のバランスを保つ”という意味があるという。そういった意味でも“Amber”は、さらさの歌詞世界上に確実に存在していて、「ネガティブなことも、そうでないことも、現在を全部そのまま一旦受け入れて、そこから次に進もう」と、さらさらしいソウルフルなヴォーカルが優しく感情を肯定していく。そんな優しいヴォーカルに、ネオソウルとそれ以降を感じさせるモダンR&Bなサウンドが合わさって、どんどん彼女の世界に染まっていく…。
さらさは、正直で誠実で繊細な感情も持ち合わせた、とても人間らしい人間だと思っていて、そんな彼女の性格的側面が、ライブ中盤のMCから垣間見えたような気がした。彼女はまず(EPやアルバムなどの大きな)リリースがない状況での、今回のワンマンライブ開催に不安を抱いていたことを口にし、満員の客席を見て泣きそうになったと話す。それに続いて、彼女は自身にとっての音楽、そして自身にとっての大切な存在について語り始めた。
“ネイルの島”でデビューしてからのこの2年間。毎日毎日、音楽やライブのことを考えながら生活してるんですね。それは、前に進むためであり、レベルアップしていく自分をみんなに届けたいからでもあるんです。
けど、毎日進み続けるにはどうしてもエネルギーが必要なの。私は元々、色々考えすぎちゃう性格で、考えなくてもいいことも考えちゃったりして、それで苦しんじゃったりすることがあるのね。で、そこでエネルギーを使い切ってしまって、時には自分のためだけでは、力が振り絞れなくなっちゃうときがあるんです。
それでも「やろう!」って思えるのは、自分の曲を聴いてくれる人がいて、こうしてライブに足を運んでくれる人がたくさんいるから。自分の歌を曲で伝えたいことを信じてくれてるって思うだけで、本当に救われるんです。それくらい、みんなに出会えたことが音楽をやっている中で “宝物” なんです。みんなが思ってるよりも、すごくすごくすごくパワーをもらってます。
みんな、ありがとうございます。ありがとう。
こんなにも正直な想いを聞いて、何も感じないファンはあの場にはいなかっただろう。それは僕も同様だし、だから彼女と彼女の音楽と共に前に進んでいこうと思えるのだ。
次に演奏された“グレーゾーン”は人が「失った人間らしさ」の一部を見事に言い表した曲だ。曲前のMCでさらさは、この曲に関してこう口にした。
「人間の思考とか価値観って、本来はグラデーションになっていると思っていて。けど、SNS上でコミュニケーション取ってると、どうしても白黒つけることが求められたりする瞬間が多々あると思うのね。それも大事だと思う。けど、人間の感情にはグラデーションがあって、私はそこに価値を置きたいし、それを大切にできる人間でありたいって思うんです。」
そんな彼女の気持ちを具現化した“グレーゾーン”の歌詞が心に染み込むように伝わってくる。「白と黒だけでなく、その間にあるグレーの部分も持てる自分でありたい」と歌うさらさのアンニュイなヴォーカルと、浮遊感のあるサウンド、そしてどこか危うい雰囲気のあるトラック。そこには「こうありたい」と思う気持ちと相反する、「自分に白と黒以外付けられるんだろうか…けど、自分もグレーを作れるようになりたいんだ」という「ネガティブを受けて前に進もう」とする聴き手側の葛藤も見えたような気がして、改めて、彼女の歌詞に背中を押されているような感じがした。
彼女から“勇気が込められた一押し”をもらったあと、さらに気持ちが上がる嬉しい発表がさらさからあった。「実は今日、新曲を用意してきました!」。歓喜の声とともに発表された今年2曲目の新曲のタイトルは“祝福”。優しいタッチのアルペジオによるイントロから始まったこの曲は、これまでの曲の中でも最もシンプルでストレートで、シンプルなコード進行の柔いブルースロックなバラードソングだ。
傷つくことを受け入れて、許し許されることも受け入れた先にあったのは、自己肯定の感情だった…そんな意味が込められた歌詞には「自己肯定できたこと」への祝福が見えたような気がした。そんな感情が心を巡る中で、天井から注がれる照明は、まるでバンドメンバーと僕らを祝福してくれているようだった。
ここでMCを挟み、ライブ本編ラストに突入する。エンディングに向けて、まず始まったのは、ギターと鉄筋の音のみのイントロで静かに始まった“火をつけて”。曲前半は気持ちゆったりめのテンポで奏でられ、サビ前の石田のキーボードのフレーズをきっかけに、徐々にエモーションを帯びていくさらさのヴォーカル。彼女自身の中にある「流れの激しい川のように全てを流してしまうほどの感情の激しさ」や「心惹かれる人たちや、様々な物事に出会って、新しい幸せと絶望を知ることができる神秘的な瞬間」をリスナーにも共有したい、そんな彼女の強い衝動がベースに作られたこの曲は、ラストへ向けて、さらにエモーショナルに展開していった。さらさの優しくもその奥に強い意志を感じるヴォーカルに石田のゴスペルを彷彿とさせるような祝福感のあるキーボード、曲のエモーションを引き立てる絶妙なラインで留まらせているようなオオツカのベース、Y2K R&Bの匂いを感じさせるこの曲を支える松浦の盤石なドラム。それらが、しっかりと盛り上がりを作り上げながら、ラストは、磯貝が前面に出るブルージーなギターソロによってカタルシスが生まれ、最高のアウトロになっていく。
オーディエンスから大きな拍手と歓声が贈られ、その音がフェードアウトしていくとともに聞こえてきたのは、レトロ映画からよく聞こえてくるポツポツとしたノイズ音のあるSEと、薄くエフェクトがかったギターの爪弾く音だ。これらが作り出す幻想感と現実感が同居するような雰囲気の中、そこから聴き覚えのあるフレーズとシンセ音がフェードインしてくる。そこにふっと入ってくる《ねぇ》という語りかけるような一言で始まったのは、“朝”だ。肌をやさしくなぞるような優しいメロディラインとグルーヴ、そこにスモーキーで深みのあるさらさの “素のヴォーカル” を感じさせる歌声が重なることによって、《いい感じでいたい》という「まだ不安定で曖昧な位置にいること」を表現するフレーズがリフレインされることによって、どんどんと言葉が染み込んでくる。曲を最後まで歌い切ると、さらさは「ありがとう。みなさん、またお会いしましょう」と一言残し、ラストにふさわしいバンド演奏のアウトロをBGMにステージを後にした。
アンコールを求めるファンの大きな拍手の中、この日のセットリストについて振り返りながら考えていた。セットリストの大きな軸は、1stアルバム『Inner Ocean』の「朝(“朝”)から始まって夜(“Virgo”)で終わる」という流れに対して、今回のライブでは「夜(“Virgo”)から始まって朝(“朝”)で終わる」という流れに置き換わっていたこと。それはライブのタイトルが「( star )」であったことに起因していると思われるが、このセットリストの流れが本当に秀逸だった。
まずは一曲目の”Virgo”で繰り広げた光景がステージ上に出来た時点で「( star )」の世界観がバチっとハマり、その後は朝に向かって…という曲の流れになったわけだが、その流れも「夜から朝まで」という流れがシームレスに展開していってるように感じられたし、とにかくパッケージとして素晴らしかった。この時点で、演った曲は14曲、まだアンコールが始まる前だったが、かなり満足感の高い内容だったように思えた。
すると間も無く、さらさが登場し「ありがとうー!うしろまで見てるよ!」と笑顔で登場。そのあとにバンドのメンバーが登場したのだが、なにやら様子がおかしい。即座に気づくさらさ。バンドメンバー全員が、この日発売されたばかりの「( star )Tシャツ」を着ていたのだ。そのメンバーたちの装いに思わず「あんたたち似合うよ(笑)」と言うさらさ。そんな小さなやりとりにもメンバー間の親密さを感じるようで、小さなホッとする時間だった。
ここからアンコールに突入する…のだが、さらさのワンマンライブアンコールには恒例コーナーがある。その名も『みんなが頑張るアンコール』。その内容は、「せーの」で一斉にファン各々が聴きたい曲名を叫び、その中からメンバーがピックアップした曲をアンコールで演る、と言うもの。このコーナーが一気に浸透したのは、初のワンマンライブ大阪公演で起きた、ファンにはお馴染みの「jjjニキ事変」だ。長くなるので詳細は割愛するが(左記リンク先のXのポストを参照)、この一件があって以来、さらさたちとファンの間に妙な駆け引きが生まれるようになり、それがアンコールの一つの楽しみとなったのは事実だ。実際この日も楽しげなやり取りが繰り広げられていた。まず、曲名を叫ぶファンの声が大きすぎてメンバーが曲名を聴き取れなかったり、皆が叫び終わった後に後出しで曲名を叫ぶファンがいたり、わざと「jjj」と叫ぶファンがいたり。とにかくみんなが笑顔に包まれていたこの時間は、幸せの一言に尽きる。
そんなファンのリクエストの中からピックアップされたのは“Amber”だった。本編でやった“Amber”が「同期ありVer.」だったということもあって、アンコールは「非同期Ver.」での演奏だ。フリーでラフなジャム感あるイントロから始まった非同期ver.の“Amber”は、同期ありver.からさらにライブ感が増していて「最高!」の一言に尽きた。抑制の効いたソウルフルなさらさのヴォーカルをはじめとして、バンド全体にも感じられた抑制と高揚のぎりぎりを攻める焦らし感ある演奏、それら全てが合わさって「さらさ流の極上ソウル」がそこにはあった。
約1時間半のセカンドワンマンライブのラストを締めたのは、「( star )なんでね、最後は太陽昇らせて終わりたいと思います」というMCからの“太陽が昇るまで”だった。哀愁のあるサウンドは、次また会えるという期待混じりの光となって天井の星のオブジェに反射し、これが最後と一層グルーヴィーになる演奏は、まるで《月の裏に触れるまで踊り》たくなるような空気を作り出し、オーディエンスを気持ちよく踊らせる。そして、ラストにかけてドライブしていくサウンドは最高の高揚感を生み出して幕を閉じた。
ライブを観終わり、帰りの電車の中で「ブルージーに生きろ」というテーマについて、僕なりに考え直してみた。「ブルース」とは、人間が持つ正と負の感情、それらと向き合い、寄り添い、前に進もうとすることで、自分の中にポジティブな推進力を産んでいく生き方であり概念だと思っている。しかし、そういった負の感情を認めて正の感情に変換していくことを言葉にして表現するのは、今やブルースの特権ではない。ブルースやゴスペルから派生したR&Bに始まり、そこからさらに派生していったソウルやファンク、カントリー、フォーク、ロック、ヒップホップ…など様々なジャンルのアーティストが、その時代にある問題に相対して、それぞれのポジティブやネガティブと向き合い、歌っている。時代の移り変わりと共に心の問題も変化していっている中で、そういった現象は当たり前のことだ。
では、何故彼女は、今「ブルージーに生きろ」と謳うのか?そして、なぜ「ブルース」を選んだのか?それは、彼女のルーツが差別が色濃く表れていた時代からR&Bやソウルを歌ってきたパティ・ラベルだったから…というのもひとつのキッカケだったかもしれないが、それ以上に、彼女の思いを表現するには、シンプルに「ブルース」の考え方が必要があったから、ただそれだけのことだったんじゃないか、とそう思うのだ。
先ほど「言葉にして表現するのは、今やブルースの特権ではない」と書いたが、時代経過とともに枝分かれしていったジャンルにある言葉には、どうしても時代に会った新しい解釈が加わっていってしまう。例えば、ロックだったらHR/HMとパンク・ロック、オルタナティブ・ロックなど…どの“ロック”(さらに言えばバンドによっても)もメッセージ性は様々だし、ヒップホップに関しても差別に対して問題提起するものもあれば、「金・女・セックス」に関してどストレートに欲求を発信するものもあったりして、そのメッセージ性もまた様々である。
それに対して、ブルース(特に第二次世界大戦前の1920年頃〜1945年頃に生まれたブルース)は、日々の生活の中での「喜怒哀楽」の感情の移り変わりを、シンプルながらも人間の本質を突く言葉に綴り、歌う、それがブルースの概念を作り上げ、今もなお存在している。そんな部分が、さらさの「ネガティブな感情を受け入れて、ポジティブなエネルギーに変換していく」歌詞と繋がっているように見えるし、だからさらさは「ブルース」を選ぶ必要があった。そういうことなんじゃないかと思うのだ。
今回のライブのタイトルにもなっている「( star )=光」に込められた意味。それは、ファンにとっては「さらさ」が「光」であり、さらさにとっては「ファン」が「光」であるということだ。さらさがファンに光を感じる理由、それは中盤のMCの「どんなことがあっても、みんながいるから頑張れる」という言葉が全てだろう。一方で、ファンが彼女に光を感じる理由。それは彼女自身が自身の感情と向き合いながら前に進もうとする彼女の生き様への「共感」、そして曲やMCを通して正直でいてくれる彼女への「厚い信頼」だ。そこには、依存し合わない、本当の意味での両想いな信頼関係がある。とはいえ、人間生きていれば、きっとまたつまづくこともあるだろう。けど、だぶん大丈夫な気がする。その時に思い出せばいい「ブルージーに生きろ」と。
<セットリスト>
01. Virgo
02. f e e l d o w n
03. jjj
04. 退屈
05. 祈り
06. 午後の光
07. blue feat NEI
08. ネイルの島
09. 太陽が昇るまで
10. Amber
11. グレーゾーン
12. 祝福(new song)
13. 火をつけて
14. 朝
EN01. Amber(async ver. / requests from fans)
EN02. 太陽が昇るまで