KING BROTHERS | ロックンロールサーカス in 兵庫・THE CASTLE | 2024.01.06

ロックンロールの流星

キングブラザーズ、2024年明けて1発目のライブは新春の神戸のサーキットイベントとしてお馴染みとなった『ロックンロールサーカス』だった。40あまりのアーティストが三宮近辺5ヶ所の会場に集結し、お客さんはリストバンドさえ見せれば全てを行き来できた。イベントは12時スタートでキングブラザーズが登場したのは17:20、雑居ビルの2階にあるレストランバーTHE CASTLEだ。前ステージを熱演していた騒音寺のライブ中から、会場への階段は長蛇の列で、キングブラザーズのスタート時刻には入場規制がかかる盛況ぶりだった。

2023年の12月から、休みに入ったゾニー(Dr)の代わりにピンチヒッターとして入った池本元希(イケモトゲンキ)を一目見ようとする客が増えていることは噂で聞いていたが、イベントらしく老若男女顔ぶれも様々で、会場の室温の高さと相まって期待感がその上気した表情からもわかった。「こんな日は何かが起こる」いや、何かを起こしてくれるのが、キングブラザーズなのだ。

歓声の中、後方から客を分け入って3人が入場する。ケイゾウ(Vo/Gt)の雄叫びがライブの口火を切ると、ゲンキがドカドカと打ち鳴らし、 マーヤ(Gt/スクリーム)とケイゾウは容赦無く爆音を鳴らしていく。”ルル”でマーヤはフロアにマイクを投げ込み、それを掴んだ客がマーヤに呼応するようにスクリームしていく。ゲンキはゾニーから受け継いだ26インチのバスドラを操っていた(あの大きさをうまく鳴らせるのは大変難しいそうだ)。マーヤは「新年早々やばいぜ、落とすな!」と客に自らを担がせフロアを練り歩かせた。

ゲンキはマーヤのスクリームをかき消すことなく間を埋めながら更に盛り上げていく。ゲンキが入ったことでバンドが変化するのは当然のことで、音のバランスが変わり、特にケイゾウのギターがよく聞こえるようになり、よりエモーショナルにグルーヴィーにノリを生み出してきている。ゲンキは、Vo/Gtの礒崎陽平と二人でガレージバンド50/50’sで活動していた頃、オリジナルはもちろん、カヴァーアルバムも制作していた。セッションから原曲を紐解き、再構築させるのは得意分野なのだ。キングブラザーズという憧れのバンドのDrとして座した今、既存の楽曲を塗り替えていく道すがらなのだろう。毎回グンと成長する姿が頼もしくもあり、末恐ろしくもある。



“魂を売りとばせ!!”でマーヤは最前列に食い込みながらスクリームし、踊り、跳び、客を煽りながら崩れぬ姿勢で、ギターを掻き鳴らす。「叫びまくれ」というマーヤの声に導かれ、異様なテンションの会場内のあちこちから叫び声が飛び交った。

2023年我々が見送った偉大なミュージシャン達、特に印象的な11月26日に逝去したチバユウスケの死は、ロックンロールの星が消え、我々はロックンロールの光を失ったかのように思えた。しかしキングブラザーズはミッシェルと同時代を生き、2024年をも生き抜いているではないか。それがどれほど奇跡的なことで、我々を勇気づけてくれていることか。年齢を重ねた分マーヤの髪は白髪混じりになり、ケイゾウはピュアでハートフルな部分もステージ上でも見せるようになったものの、25年を経てもなお、ロックンロールの初期衝動をほとばしらせながら時代を疾走するバンドで有り続けているのだ。

元日の能登半島地震を受けて、会場には募金箱が置かれていた。ケイゾウはライブ中何度もそのことに触れては、フロアにライブを楽しんでパワーを送れと叫んでいた。だがしかし、”☆☆☆☆”で、ゲンキに満杯のフロアを指差して、ドラムセットを下ろすよう合図を送った。この状況でも降ろすんだ!という観客の歓喜に満ちた笑顔に囲まれ、マーヤは寡黙な表情で準備が整うのを待った。ケイゾウは神戸!と連呼し、ゲンキが笑顔を浮かべると”マッハクラブ”が劇的に始まる。マーヤのスクリームにシンガロングしていく観客。バンドの特性から厳しい戦いを強いられてきたコロナ禍を越え、目一杯押し込められたフロアの観客は満面の笑みでロックンロールに両手を差し出していた。まるで流星のようにマーヤは会場を右へ左へと流れていった。

「皆んなの声があれば俺のギターなんかいらない、俺のギターの代わり頼んだぜ!この頑張りがロックンロールを繋げていく。置いときゃいいのにリーダーが募金箱を俺に渡したってことは、高速回転する募金箱の中に入れることができたら今年は大吉だ。コインより札束折った方が入れやすいぜ!みんなの分も楽しめるかい?レッツゴーロックンロール!」とマーヤが叫ぶと、募金箱を持ったマーヤを受け渡す人、募金箱に募金する人、ゲンキとケイゾウの周りをぐるぐるとトルネードのように熱狂が渦を巻き、ぶっとんでいくように最後は演奏も速度をあげていった。

「ロックンロールで完璧さ」と虚空を指差しマーヤがポーズを決める。フロアの真ん中で爆音を鳴らしながら、キングブラザーズはこれからも光を放ち続けていく。

ライブ情報はオフィシャルサイトをご確認ください。

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Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe