KING BROTHERS | 大阪 難波メレ | 2026.02.10

祝祭のビート──池本元希サポートラストナイト

2023年12月から2年2ヶ月の間、Dr.ゾニーの一時バンド休業中のサポートとして加った池本元希(以下ゲンキ)。2026年2月10日、この日は彼のサポート最後となるライブだった。

「気持ちよかったですね!感情の抑制がききませんでした」そう語ったのはちょうど10年前、ゲンキが当時50/50’sとしてフジロックフェスティバルのROOKIE A GO-GOステージに出演した後のインタビューのことだった。

キングブラザーズのホームとも言える大阪難波メレのスタッフでもあったゲンキは、誰よりも多くキングブラザーズを見てきたドラマーだった。ホワイト・ストライプスや、ストレイ・キャッツ、キングブラザーズに影響を受けてきた彼に白羽の矢が立ったことは至極当然で、ブルージーでありながらも、どこまでも若々しく躍動するドラミングはバンドに吹いた新しい風だった。

難波メレ15周年記念としてこの日はポリシックスとの2マンライブで、キングブラザーズは後攻だった。
「全員が滅茶苦茶になるまでライブは終わらない」とケイゾウが口火を切ると“マッハクラブ”の頭っからフルスロットル全開のゲンキのビートに、噛みつく勢いのマーヤとケイゾウに、観客も全身全霊で受け止めていた。マーヤはフロアに飛び込み、「TOISU!TOISU!俺たちは・・・ニシノミヤ!」と叫び、ライブ序盤でありながらもフロアは最高潮の盛り上がりを見せた。「リーダー!ハヤシ君が言っていた「※あれ」言ってもらっていいですか?』とマーヤが言うや否やケイゾウは「ボケっと見てるやつは全員死刑!」と満員の観客に噛み付くように言い放った。

※ポリシックスはデビュー当時キングブラザーズと同じレーベルDECKRECで、当時よく対バンしていた。いつもライブでケイゾウは踊らない客に怒っており、「あんなこと言えない」とハヤシがMCで語っていた。


「ゲンキがクソ格好いいナンバー」とケイゾウが曲紹介をした“スーパーx”。この日を含め、ゲンキはいつだって本当に楽しそうだった。マーヤとケイゾウの間で少年のように無邪気な笑顔で、ステージを揺らす轟音を叩き出す。そのコントラストがたまらない。これほどまでに楽しそうなドラマーを、筆者はこれまで見たことがない。瞬間瞬間を全身で楽しむその姿勢が、ビートそのものを跳ね上げる。リズムは弾み、うねり、加速し、気づけばフロアの体温を一段どころか二段、三段と押し上げていく。そして観客の歓声も、彼の笑顔に呼応するようにどんどん大きくなっていくのだ。
彼のプレイは、計算では辿り着けない衝動と歓喜に満ちたもの。まさに“今この瞬間”にしか鳴らせない、祝祭のようなビートだった。

そして何より印象的だったのは、ゲンキから向けられる無垢な笑顔に応えるように、マーヤとケイゾウからも時折笑顔がこぼれることだった。マーヤはゲンキの横に貼り付いて慈しむような眼差しを向けたり、これまでにないほど自然体で、そして晴れやかな表情を浮かべていた。わざと真横でギターを振り上げては振り下ろし、ゲンキにちょっかいを出すそぶりも見せた。曲順を間違えるケイゾウにゲンキが笑顔を向けるとケイゾウもまた笑顔で応えたりと、サポートという立場を超え、彼は確実にこの夜の中心でバンドメンバーの感情を揺らしながらビートを鳴らしていた。

「キングブラザーズあとちょっとで30周年。数々のフェス出禁、サンキュー&ファっキュー みんなで出禁になろう」とマーヤが叫んだ“BIG BOSS“ケイゾウもフロアに飛び込んで、マーヤと共に観客の頭上を舞った。

重いグルーヴの“クール誕生”、諦念の中にも希望を見出すような明るさのある“あッ!!ああ”両極端な2曲だが、ゲンキのドラミングはギターとボーカルを際立たせるために存在している。だが、その献身は決して消極的なものではなく、むしろ攻めの美学だ。出過ぎることなく、しかし決して埋もれない、いなければ成立しない。そんな理想的なポジションで楽曲の核心を支えてきた。ギターとボーカルを主役に押し上げながら、自らもまた物語の推進力となるのだった。


ライブの最後を飾ったのは“ルル”だ。マーヤはおもむろに「トイスの兄ちゃんどこ?」と叫び、ポリシックスのハヤシをステージへと引っ張り上げ、自らのギターをそのまま預けた。ハヤシはそのままマーヤの代わりに演奏し、当の本人は当然のようにフロアへダイブしていった。さらにアンプまで客に担がせ、「気をつけて」と一応は声をかけつつ、「キングブラザーズのライブは何でも飛んできますよ」と笑う。ギターを託されたハヤシも負けてはいない。そのままフロアへと飛び込みマーヤとシャウトの掛け合いを始め、ステージと客席の境界は完全に消滅した。

音も、人も、熱も入り乱れ、カオスは最高潮へ。ゲンキは爆音と無秩序が渾然一体となった中心で最後まで笑顔を浮かべ、痛快なまでの大団円を迎えたのだった。

詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。

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Text by TOMOKO OKABE
Photo by TOMOKO OKABE