ザ50回転ズ | 京都 紫明会館 | 2018.2.3

正真正銘ザ50回転ズ

本編最後の曲が演奏された時、あっと小さく叫んでしまった。してやられた、と思うと同時に鳥肌が立った。考え抜かれたこの日の構成に舌を巻いた瞬間だった。

取材に訪れたのは登録有形文化財である京都の紫明会館。不定期ながらも行われているザ50回転ズのアコースティック・ショーは、歩くと少し軋む板張りのホールで行われた。額縁のようなアールデコ風のステージを前に、スチール椅子が並ぶ。立ち見を含むお客さんの中に、ライブハウスで見かけるバンドT+首にタオルというロックキッズ然とした姿は見られない。

午後2時過ぎ、The Poguesの”Fiesta”が流れる中3人がいつもと変わらぬ笑顔でステージに飛び出した。ダニー(Vo/G)が「今日はようこそ!ディナーショー形式でやろうと思います、やりまっせー、ビールください!」と叫ぶ。いきなり曲より先に乾杯から始まる和やさだ。

ショーは先日1月17日に発売されたフルアルバム『ザ50回転ズ』のリードトラック”Vinyl Change The World”から始まった。ダニーはアコースティックギターを、ドリー(Ba/Vo)はウッドベースをもち、ボギー(Dr/Vo)は最小限のドラムセットというシンプルな編成だ。続く”ハンバーガーヒル”のスカのアレンジに観客も左右に揺れる。いい雰囲気の中いい感じにまったりとしたライブが行われるんだろうかという予測はどんどんと裏切られていく。ドリーの吹くカズーがSEのThe Poguesを彷彿とさせる”酔いどれマーチ”、ブギウギのリズムにハンドクラップが客席から沸き起こった”たばこの唄”。ダニーの弦を打つアタック音がキレを見せた”マブイあの娘”、ボギーがヴォーカルをとる”エイトビートがとまらない”はいつものシャウトを封印して魅せた。ライブハウスでおなじみのこれらの曲は、ロックンロールの瞬発力を損なわないまま贅肉を削ぎ落とし、その骨子をさらけ出していた。

“ゲゲゲの鬼太郎””ペタラコ節”などはアコースティック編成でしか聞くことが出来ないのではないだろうか。ニューアルバムに入っている昭和歌謡な”新世界ブルース”や”ホテルカスバ”、冗談めかして演奏された「まんが日本昔ばなし」の挿入歌まで真骨頂を発揮する。次に何が飛び出すのかとお客さんの瞳はキラキラしている。「いい曲書くなー」とダニーが呟いたように、このジャンルレスこそザ50回転ズの比類なさだ。一方、ドリーの見せ場を奪うダニーのギターソロが炸裂すると会場からどっと笑いが起こるなど、エンターテイナーとしての見せ方も抜群なのだ。

そしてメンバーそれぞれがヴォーカルをとるカヴァーコーナーで観客は完全にノックアウトされる。ドリーだけがステージに残り、弾き語った”夜汽車のブルース”ではため息混じりの歓声があがる。最初に好きになったチャックベリーの曲だと紹介したダニーの”30days”はカントリーアレンジが素晴らしいし、ビートルズがカヴァーした”My Bonnie”はドリーヴォーカルで、シンプルなロックンロールの格好よさに溢れていた。そして最後にボギーが歌ったのは、なんと沢田研二の”ストリッパー”。この選曲の妙たるや!ボギーの甘い声がこれほど生かされる楽曲が他にあるだろうか。

昨年11月24日金沢vanvanV4から始まったザ50回転ズ「Good Bye! Seventeen Tour」ではスペーシーなダニーのギターが印象的だった”デヴィッド・ボウイをきどって”は、ダニーのアコースティックギター1本でドリーが歌う。この日のセットリスト全て1曲1曲考えつくされているであろうのに、MCではなんでもないように笑いをとる。どれだけの引き出しをまだ隠し持っているのだろうか。

あっという間の2時間のショー。本編最後の曲は”おさらばブギウギ”だ。去年のツアーファイナル、十三246GABUと同じく、”Vinyl Change The World”から始まり”おさらばブギウギ”で締めた。あのモッシュにもまれた熱いライブとアコースティックライブの始めと終わりが同じなんて、ねぇ、出来すぎでしょう?

 

— set list —
Vinyl Change The World
ハンバーガーヒル
酔いどれマーチ
たばこの唄
マブイあの娘
エイトビートがとまらない
ゲゲゲの鬼太郎
ペタラコ節
新世界ブルース
ホテルカスバ
夜汽車のブルース
30days
My Bonnie
ストリッパー
デヴィッド・ボウイをきどって
あの日の空から
故郷の海よ
11時55分
YOUNGERS ON THE ROAD
マチルダと旅を
おさらばブギウギ

— enior —
たまにはラブソングを

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Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe