THE XX | 千葉 幕張メッセイベントホール | 2018.02.11

メランコリーの向こう側にある共振

ブライアン・イーノは、かつてインタビューでこんな言葉を残したという。「人がメランコリーを感じる理由のひとつは、過去は常に消え去ってしまうから」。ロミー、オリヴァー、ジェイミー、彼ら3人の根幹にあるのは、ロンドンの若者が抱える孤独と不安、そこから生まれるメランコリーだ。そういったメランコリーが言葉とそしてメロディに変換されたサウンドに、僕らは共振し、魅了される。しかし、それは逆に刹那的なものにも感じられた。孤独や不安は、置かれる立場も状況も変われば消えることもある。これから彼らはどこへ向かうのだろう?いつまでこの感情は続くのだろう?

セカンド・アルバム『Coexist』のツアー後、彼らは活動休止に入り、ジェイミーはソロとしてJamie xx名義でアルバム『In Colour』をリリース。そのアルバムは、彼らが育ってきたロンドンのクラブミュージックのテイストを含んだジャズやファンク、そしてソウル、ダンスホールなどの様々なリズムがふんだんに散りばめられたカラフルな作品になっていて、この作品にヴォーカルとして数曲ロミーとオリヴァーが参加していたということもあり、アルバムとそのライヴは、The xxの次へと繋がる予感を感じさせるものだった。

昨年1月にリリースされた最新アルバム『I See You』は、その流れを汲んだもので、各音楽メディアが選ぶその年のベストアルバムにも軒並みランキング入りを果たした。ライブに関しても、世界各国でスタジアムクラスの会場を埋められるほどのスケールになり、日本に於いては昨年のフジロックでの好演もあり、会場である幕張メッセには期待に胸を膨らます多くのファンが集まっていた。

そして、19時11分、新作『I See You』の冒頭曲である”Dangerous”のイントロ・ファンファーレでライブは幕で開けた。”Dangerous”のアップビートなトラックに、ロミーは目一杯髪を振り乱しながら踊りギターを弾き、オリヴァーもその”彼らしく”ユラリユラリと体を揺らしながらベースを弾く。続く”Island”、”Crystalised”は、従来の抑制の効いたミニマムなプロダクションをキープしつつも、そこにジェイミーの叩き出すビッグでタイトなビートが加わることによって、ダンサブルな今のモードにアップデートされていた。

既存の曲がその魅力をキープしたままアップデートが図られている中で、新曲はより活き活きと躍動し、新たな魅力を発散していた。Alessi Brothersの”Do You Feel It?”のサンプリング・フレーズから始まる”Say Something Loving”にしても、オリヴァーがマイク1本のみ持って歌い上げる”The Violent Noise”にしても、ロミーのエレキギターによる弾き語りの”I Dare You”にしても、アルバム音源にあるキャッチーなメロディや色味の感じられる曲感に、ロミーとオリヴァーのヴォーカルワークや演奏スタイルも含めた表現力の向上によって、より曲に広がりが出ていたように思う。

今の彼らのパフォーマンスがより魅力的になったのは、ジェイミーの作るプロダクションがあることももちろんだが、ロミーとオリヴァーの表現力の向上無くして有り得なかった。どこか伏し目がちに歌っていたロミーの目線は、今はまっすぐ正面を向き、堂々となった。まだ小さく淡々としていたオリヴァーのヴォーカルワークや動きは、雄大で芳醇さも醸し出しすようになった。

今振り返れば、2016年年末に行われた東京・豊洲Pitでの『I See You』のプレ・キックオフ公演では、ジェイミーソロ曲が多くプレイされていて、そのカラフルさに引っ張られるかたちで、The xxのネクストが芽吹き出していたが、メンバー三人のバランスが最高な均衡状態になった今、もうそれに頼る必要はもうない。

しかし、そんな中で唯一、ジェイミーのソロトラックからプレイされたのは、ロミーがヴォーカルを取る“Loud Place”だった。ロミーとオリヴァーは、ジェイミーソロのアルバムとそのライヴを目の当たりにして「自分ももっとアップリフティングな曲を作りたい。お客さんを躍らせる作品を作りたい。」と思ったと言う。そして、そのライブに於いて、最大のハイライトとなっていたのが”Loud Place”だった。ジェイミーのソロライブで、”Loud Place”をプレイするジェイミーの背後から、放射線状のカラフルな照明が会場全体に広がる光景には、”多幸感”と言う言葉がぴったりくる感動的なものだったし、『Coexist』でひとつの高みに到達したロミーとオリヴァーが「自分たちも」と思うのは、ごくごく自然なことだったと思う。

そんな”Loud Place”のサビで、Idris Muhammadのサンプリング・ヴォーカルが爆音で流れた瞬間の高揚感は”理屈抜き”に最高だった。そして、”Loud Place”からジェイミーのマッシュアップDJタイムを挟んでの”On Hold”は、高揚感と彼らの根幹にあるメランコリーを同時体験すると言う意味でも”現在”の彼らを表した最高の流れだったと思う。この一連の曲の流れが終わった時のオーディエンスの大喝采がそれを証明していたんのではないだろうか。

そして、彼らのメランコリーを最も感じられる瞬間がラストに向かう”Intro”からの”Angels”だった。数々のインタビューでロミーもオリヴァーも同じことをよく語っている。「たまに、自分は世界から取り残されてると感じることがあるけど、ライブの瞬間だけは孤独な世界から逃避できるし、自分自身を認めて楽しむことができる、だからライブが好きなんだ、だからみんなにも楽しいんで欲しいんだ」。彼らは自らの”孤独”と向き合いながらも前を向き、僕らと同じ目線で言葉を語ってくれる。だからこそ、”Angels”のフレーズ”Love Love Love…”をメンバーとオーディエンスと皆で呟く瞬間がとても愛おしく思えた。

メランコリーとは消え去って行く過去に対する切ない感情だが、いまの彼らにあるメランコリーは、これから過去も孤独も背負った上で前を向いて進んで行く未来に向けての感情だ。

<SETLIST>
Dangerous
Islands
Crystalised
Say Something Loving
Heart Skipped A Beat
Reunion
A Violent Noise
I Dare You (electric guiter acostic ver.)
Performance
Infinity
Replica
VCR
Fiction
Shelter (Jamie House Mix)
Loud Places (Jamie xx cover)
On Hold (Jamie Mashup Mix)
On Hold
Intro
Angels

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Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Masahiro Saitoh