FATHER JOHN MISTY | 東京 TSUTAYA O-EAST | 2018.2.15

人間の喜劇の始まりと、その続き

先月Fleet FoxesのライブがZepp Divercity Tokyoで行われ、この日はFather John Misty(以降FJM)ことジョシュ・ティルマンのライブが渋谷のTSUTAYA O-EASTで行われた。ジョシュがFleet Foxesを脱退してから、もう6年が経つ。袂を分かったその2組は、今それぞれの進むべき道を進んでいる。そのことは、彼らがリリースして来た作品を聞けば明確に分かると思う。けど、未だに「Fleet Foxesの元ドラマー」という触れ書きが頭をよぎってしまうのは、紐付けてしまう余地があるから。その余地がなくなる感覚が得られることの期待半分、寂しさ半分の気持ちを持って、僕は東京・渋谷にある会場に向かった。

この日は珍しく20時開演ということもあり、開場時間である19時直後の会場内の人はまばら。客層に社会人が多かったり、外国人のファンも多かったりで、「仕事終わりで、最悪開演時間に間に合えばいいか」ぐらいのお客さんが多かったのかもしれない。

19時58分。定刻より少し早めにメンバーが登場し、最後に、サングラスをかけ、黒い縦縞模様のスーツを身に纏い、暖色系のスカーフを巻き、足元にはカラフルなスニーカーという、ファッショナブルな出で立ちのジョシュが登場した。

ピアノのフレーズで観客の湧き上がりから始まったのは”I Love You Honey Bear”。彼の代表曲であるこの曲からスタートしたライブは、しょっぱなからステージ上が”ジョシュ・ティルマン劇場”と化していた。ちょっとしたフレーズ間にマイクから離れる時のアクション一つ取ってもカッコいいし、続く”Total Entertainment Forever”では、それまで弾いていたアコースティック・ギターを唐突に離し翻してしまう彼の仕草も、これまた”いちいち”カッコよくてシビれてしまう。一転、FJMの中でも珍しいエレクトロでダンサブルなポップ・トラック”True Affection”では、しなやかなステップを踏みながらもオーディエンスを煽り、フロアも巻き込んだダンスフロアを作り上げていた。

と、ここまでは、前回のライブ(昨年のフジロック、フィールド・オブ・ヘヴン) でのパフォーマンスとさほど変わらない展開だったが、ここからジョシュの”シンガー・ソング・ライター(以降SSW)としての側面”も多分に感じられる展開へとシフトしていく。

フジロックのセットリストには2曲しか組み込まれていなかったファースト・アルバム『Fear Fan』からの曲、“Only Son of the Ladiesman”、“Nancy From Now On”、“Funtimes in Babylon”、“Misty’s Nightmares 1&2”、“I’m Writing a Novel”、“Hollywood Forever Cemetery Sings”など計10曲(ほぼ全曲網羅!)が披露された。さらに新曲”Mr. Tillman, Welcome Back”も併せて、フォーク、ロック、ブルース、カントリー、サイケといった様々なジャンルを用いた楽曲群から、彼のSSWとしてのポテンシャルを改めて感じ取ることができた。

しかし、そんな中でも”表現者”としての彼のパフォーマンスは、変わらず存分に発揮されていた。”Strange Encounter”のサビでの溢れんばかりのエモーションや、バレンタインデーということで彼の奥さんに捧げられた”Smoochie”の曲にある小さな抑揚を細やかな体の動きで表現する様、そして”Bored In The USA”の歌詞に込められた今のアメリカへのアイロニーをマイク一本で語り上げる言葉の重さを感じさせるあらゆる仕草。それら表現は、全ては彼にしか表現できないものである。

圧巻だったのは、ラスト前に歌われたピアノ・バラード”Pure Comedy”。最新作のタイトル曲であるこの曲で、彼は生身の人間が抱える不安を人間社会の縮図というスコープで捉え、それをアイロニカルに語り描いている。この歌を、彼はやはり全身を使って語り、歌い上げていた。

「人が生きている実感を味わせてくれるのは、生き残るための闘いだけ。
 人が求めるものは、苦痛を麻痺させてくれるもの、それただひとつだけ。
 言いたくはないが、僕らには、自分と自分以外しかない。 」

彼の言葉がこんなにも身に染みるのは、彼が僕らの目の前で語っていたからに他ならない。

こうして、約2時間、計25曲という超濃密なライブは幕を閉じた。ちなみに、ライブが終わった会場にアウトロBGMとして流れていたのは”Pure Comedy”のインストゥルメンタル・バージョンだった。ステージが終わっても尚、FJMのライブは続いている。

今回のステージは(皮肉めいている表現の歌詞世界は変わらないが)シンプルに楽曲で勝負した印象の強いファースト・アルバムからの楽曲が圧倒的に多かったせいか、SSWとしてのFJMがより色濃く感じられた。しかし、それはエンターテインメント性に落ち着きが見られたわけでは決してなく、彼がミュージシャンとしても優れていることを併せて感じることができたという意味でも、すごく意義がライブだったと思う。

フォーク・ロックバンドという枠組みから羽ばたき出し、よりアートな世界観を構築し始めたFleet Foxesと、フォーク・ロックミュージシャンという枠組みから羽ばたき出して、より表現者としてもSSWとしても成熟の領域に入っていったFather John Misty。もうそこには”元”という触れ書きは必要ない。彼は、彼にしか歩めない道を歩き出したのだ。

<SETLIST>
I Love You, Honeybear
Total Entertainment Forever
True Affection
Only Son of the Ladiesman
Nancy From Now On
Chateau Lobby #4 (in C for Two Virgins)
Funtimes in Babylon
Mr. Tillman, Welcome Back(新曲)
The Night Josh Tillman Came to Our Apt.
This Is Sally Hatchet
Strange Encounter
Misty’s Nightmares 1&2
Smoochie
Bored in the USA
Things It Would Have Been Helpful to Know Before the Revolution
Ballad of the Dying Man
I’m Writing a Novel
Hollywood Forever Cemetery Sings
Pure Comedy
Everyman Needs a Companion
–Encore–
O I Long to Feel Your Arms Around Me
I Went to the Store One Day
Real Love Baby
So I’m Growing Old on Magic Mountain
Holy S**t

Father John Misty | 関連記事一覧

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Yoshihito Koba