FLEET FOXES | 東京 Zepp Divercity Tokyo | 2018.1.18

6年の時を経て変わったコトと変わらないコト

2012年1月20日。場所は新木場Studio Coast。そこで活動休止前、そして、当時ドラマーだったジョシュ・ティルマン(Father John Misty)脱退前、最後のライブが行われていた。そのライブは、ファンの中で今もなお語り草になるほど「熱く」そして「温かい」ライブだった。あのライヴで印象的だったのは、転換時の会場の空気中を舞う”音”だった。曲と曲の間でMCのない転換中に、楽器をチューニングする音や、メンバーがスタッフと何やら言葉を交わしている小さな声、そしてマイクが拾う空気中の塵の音・・・たくさんの”音”が聞こえる。それらはどれも極々小さな音で、いわゆる雑音なんだけども、どれ一つ無駄な音に聞こえなかったこと。そこには「彼らと一緒に音楽体験の場を共有できた喜び」が詰まっていた気が今でもしている。

あれから6年。彼らはここ日本が発端になり制作された新作『Crack-Up』を提げ、再び日本にやってきた。前回の公演と会場は違うが、開催時期がほぼ同じ(前回が1月20日、今回が1月18日)ということもあり、フロアには長袖仕様のお客さんが目立つ。この会場には、6年前の新木場のステージを見ていた人も多いであろうことは予想するに易い。あの日の、あの体験をしている人にとって、この日期待する”コト”はきっとそんなに違いないのではないだろうか。それは、あの時の体験の再現と、その先の彼らの存在感を感じたいという欲求である。

静かなホーンの音が印象的な入場BGMのなか、メンバーたちがステージに現れる。ロビン・ベックノールド(Vo./Gt.)はじめ、あの頃とほとんど変わらぬメンバー。変わったところと言えば、新しいドラマーが入ったことと、長髪になっていたスカイラー・シェルセット(Gt.)ぐらいか。入場のBGMからシームレスに新曲”I Am All That I Need / Arroyo Seco / Thumbprint Scar”からライヴはスタートした。サポートのドラマーも含めた6人編成で鳴る音は、6年前より増して繊細で美しい。そして、音源にも含まれているあらゆる音声のサンプリングも入り、『Crack-Up』の世界観の再現性とライブ感のバランスがとても良い。1曲目からシームレスに”Cassius, -”と繋がるこの流れは音源と同じ。しかし、ここから新作モードの彼らの本領が発揮される。”Grown Ocean”から”White Winter Hymnal”と彼らの代表曲が続き、ここから一気に「僕らの知る2012年までのFleet Foxes」モードへ突入するかと思いきや、これら楽曲の魅力と雰囲気は変えずに、アレンジ等も含めて不思議なくらい『Crack-Up』の世界観の中の音として鳴っていた。「その世界の中心には人がいて、それを取り巻く空気のように音が存在する」。そういう”感覚”を感じさせることができてしまうのが、彼らの代表曲の存在感も完全に取り込んでしまえる今の彼らの強さなんだと思う。

そんな流れの中で、ライブ中盤にひとつのサプライズが。ロビンの「ハッピー・バースデイ、サカモト」(ライブの前日、1月17日は坂本龍一の誕生日)の言葉と共に、なんとYMOの”Behind The Mask”のカバーをフルレングスで披露。シンセのメロディを中心にしたアレンジや、ヴォーカルのパートでスカイラーが声にエフェクトをかけて歌う部分は、オリジナルに寄せてはいるが、別のシンセのパートにフルートが代用されたり、有機的なドラム・ビートや刻まれるリズム・ギターがそこに入ると、より雰囲気は変わってくる。劇中のボートラという感じはするが、この曲はいいワンクッションになっていた気がする。

そして、このライブ最大のハイライトは、このアルバムの起点となった6年前の日本公演がインスピレーション源となって作られた曲”Third Of May / Odaigahara”のパートだった。この曲では、ロビンとロビンの親友でありバンドメイトでもあるスカイラーとの関係が歌われている。彼らがバンドを始め、日本公演を終え活動休止に入り、そしてまた音楽を初めている、いまこの瞬間までの物語。そんな”物語”が語られているバックのスクリーン全体には、真っ赤の照明と白のフラッシュ(日の丸カラー)が焚かれていた。そんな目の前の情景もあいまって、思わず涙してしまいそうになった。

本編のラストを(これまた感涙モノの)”Crack-Up”で締め、アンコールは、ロビンがよりエモーショナルに歌うアコースティック・バージョンの”Oliver James”、デビュー・アルバムの前にリリースされたEP『Sun Giant EP』に収録されている日本初演奏の”Drops In The River”、そしてラスト、今回のツアーもラストは”Helplessness Blues”だった。しかし”無力感のブルース”は6年前と今で全く聞こえ方が変わっていた。この曲の根底にある「絶望」や「祈り」を詩情を持って極めて美しく体験できたのが6年前ならば、『Crack-Up』というアルバムの持つ「どんなに”無力”であっても、僕らは未来へ向かっている」という「事実」を胸を張って受け入れ前に進む「決意」に勇気をもらえたのが今日のライブだったと言える。本当に感動的で最高のライブだった。

そんな今の彼らの音楽とライブには、一本の映画を見ているかのような感覚と、それを中小規模の劇場で演劇として生で見ているような感覚、その二つの感覚が同居している。ちょっと手を伸ばせば届きそうなんだけど、絶対に届かない、独自な世界。ライブ終了後、会場から東京テレポート駅へ歩く途中に感じた、温かみのある”余韻”は、光景こそ違えど6年前と全く同じだった。ひとつ違うことがあったとすれば、東京テレポート駅の階段を降りる人たちの足音に耳を傾けたこと、ぐらいか。

<SETLIST>
I Am All That I Need / Arroyo Seco / Thumbprint Scar
Cassius, –
Grown Ocean
White Winter Hymnal
Ragged Wood
Your Protector
The Cascades
Mearcstapa
On Another Ocean (January / June)
Fool’s Errand
He Doesn’t Know Why
Blue Ridge Mountains
Tiger Mountain Peasant Song (Robin acoustic solo)
Behind The Mask(YMO cover / for Ryuichi Sakamoto)
Mykonos
Battery Kinzie
Third of May / Ōdaigahara
The Shrine / An Argument
Crack-Up
—Encore—
Oliver James (Robin acoustic solo)
Drops In The River
Helplessness Blues

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Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Masahiro Saitoh