ソロ作で頭角を現したマルチ・プレーヤーの対照的なライブ
いわゆる2010年代後半の東京インディシーン、アーバン、(すでに死語めいているが)シティポップの文脈。今や堂々たるトップバンドに成長したSuchmosをはじめ、若いがれっきとしたミュージシャンである彼らのセンスとスキルが反映され、今の活況の一因がある。今回、ダブル・リリース・パーティを開催したTENDREとMELRAWも明らかにその文脈に位置する存在だ。
マルチ・インストゥルメンタリストである二人。ampelでも活動し、Yogee New WavesやKANDYTOWNなど、様々なアーティストの作品に参加するTENDREこと河原太朗。一方、WONK第五のメンバーとも言われるMELRAW。彼らがここ数年の新たなポップ・ミュージックを底上げしてきたことは事実だ。そんな彼らが自身のリーダー作をリリースするという次なる東京のシーンの到来も感じるし、Ryohuのように両者と共演しているアーティストも存在するという、交差する線が可視化されるようなリリースパーティ。彼ら自身におおげさなところはないけれど、明らかにネクストステージの胎動は今ここで起こっている。そんな実感があった。
先攻のMELRAWは、昨年リリースした「Pilgrim」収録曲をギター、ベース、ドラムス、キーボードからなる屈強なグルーヴの上で、アルトサックスを縦横無尽にブロウし、またPCからサンプルを流したり、ライブの最中でもインスピレーションに動かされながら音を駆使。ハイエイタス・カイヨーテに近い近未来的なジャズのテイストもありつつ、ハードボイルドな世界観をアナーキックに描き出すスタイルには、過日の近藤等則のような印象も抱いた。
TENDREの音楽、もしくはファンに向けて自分の音楽や演奏のエクストリーム加減をちょっと恐縮しつつも、軸の部分で繋がっているお互いの音楽や存在を認め、この2マンが実現したことを喜ぶMELRAW。そして「こいつがいなかったらTENDREとも繋がることはなかったと思う」と、Ryohuを呼び込み、“Through the Space”で、ラップとサックス・リフの応酬を展開。さらにものんくるも登場し、華やかさが増していく。その後はMELRAWのハードボイルドかつ旅情すら溢れる演奏で、一気に意識を飛ばされた。音源より厚い音像で、斬新というより、ジャズ / フュージョンの定石も踏まえた演奏。ジャンルより、「男の世界」的なイメージの喚起力が心に残った。
後攻めのTENDREの頃になると、さすがSold Outしたフロアはギッチギチの満杯に。スタイリッシュなキャラクターのTENDREだが、ステージ上での振る舞いはものすごく腰が低く、かつユーモアに溢れている。EP「Red Focus」から“Night & Day”でスタート。ギターレスで隙間の多いサンサンブルのキモになっているのは、新世代ジャズ的なビート感のドラムと、ファットかつ機微に富んだベースだ。このリズム隊の絶妙な抜き差しが、エレピを弾きながら歌うTENDREの力みがなくニュートラルで心地いいボーカルと最高のバランスで届けられる。
加えて、アナログシンセとコーラスで演奏に面白い色合いやイマジネーションを加えるAAAMYYの存在も大きい。RyohuやTempalayのサポートでも活躍する彼女がバンドにいることも相まって、期待していたら、再びRyohuが登場。もちろん、TENDREがRyohuのアルバム「Blur」のサウンド・プロデュースを手掛けた縁あってなのだが、こうしてステージに三者揃い踏みとなるとテンションも上がる。しかもTENDREの「Red Focus」にちなんでメンバー全員が何らか赤い衣装を着ているのに合わせたのか、MELRAWの時とは違う赤いアウターで出てくるという細かさは粋ですらある。Ryohu、AAAMYYのナンバーをTENDREバンドで披露するという嬉しい場面も挟んで、よりこの2マンの意味合いが深くなっていく。交差する線が目の前で行われている共演によって立体化していく。
素直なリリックとシンプルなアレンジに胸が熱くなる“hanashi”や新曲なども絡めながら、ラストは「この曲からTENDREは始まったと言っても過言じゃないと思います」という丁寧なMCを経て、最低限のビートとピアノリフ、そこに豊かに広がるサックスとコーラスが空間を感じさせる“DRAMA”が、まさに風のように吹き抜ける。削ぎ落とし、肩の力が抜けきったこの時代の日常を彩るAORといった趣き。シンプルなのに心のどこかに引っかかる人としての個性や魅力。
1時間程度のライブがあっという間すぎて、少なくとも倍ぐらいは笑ったりちょっとグッと来たりしながら揺れていられる、そう感じた。
新曲もっと聴きたいなぁ、という気持ちはその場にいた全員に共通していたのだろう。5月に2ndシングルのリリースが決定したというMCに大歓声が送られたのも至極当然だ。
交差する重要なミュージシャンたちが自分の看板を掲げて漕ぎ出した去年から
今年のこの動き。これからさらに注視しておいて損はない。
<SETLIST>(TENDRE)
1. Night & Day
2. DISCOVERY
3. crave
4. Walk
5. SOFTLY
6. All In One (W/Ryohu)
7. KAMERA (W/AAAMYYY)
8. hanashi
9. DRAMA
–Encore–
10. karasa
photos by kosuke