The Shiawase | 愛知 栄 R.A.D | 2018.10.14

情景までも歌に乗せて届ける20歳のブルース

地元FMラジオ曲の担当者から、すごいバンドがいると聞いていながら、なかなか見る機会がなかったのが、このThe Shiawase(ザ・シアワセ)だ。仲井陸 (ギター/ヴォーカル)、木村駿太(ベース)、山本真綺(ドラム)によるスリーピースバンドは、今年10代限定の「未確認ロックフェスティバル」でファイナルまで進出し、ドラムの山本真綺が個人賞を獲得したことでも知られている。

メンバー全員のステージ衣装はアロハシャツ。そして、各メンバーの左手の甲には、しあわせマークが書かれている。1曲目は、ほぼ真っ暗の中、静かに「ブルースプレイベイベ~」との歌い出しからはじまる‟平成アロハ航路”。公式ミュージックビデオでは軽快なリズムが印象的な曲だが、ライヴではより疾走感があり、迫力あるグルーヴでぐいぐいと観客を魅了していく。ギターソロでは年齢を感じさせないプレイに、思わず引き込まれてしまう。ギターを支えるリズム隊もこれまた強靭。図太いベースに、信じられないほど抜けの良い音で曲をまとめてしまうドラムの力量がすごい。

中盤では、「懐かしい曲」という紹介から‟鳥とチューバ”を披露。この曲を皮切りに、あらためて詩の美しさに引き込まれていった。特にラスト2曲は圧巻の一言。‟二つで一人のアルバム”は、高齢を迎えてパートナーを失う悲しみを切々と綴った曲だ。そして‟頷くグレープフルーツ”は、大好きだった人との別れを憂う曲。ひとつひとつの歌詞が、終始全力で歌い上げる仲井の気持ちと、歌詞の歌詞の背後にある情景までが身体のなかに飛び込んでくる印象。楽曲を聴いて共感することは多々あるものの、背景まで感じさせてくれるような曲を届けるバンドはそうはいない。しかもそれが、若干20歳になったばかりのバンドなのだ。

The Shiawaseは、ストレートな楽曲、情景を感じさせてくれる美しい歌詞、そして各個人の演奏スキルが非常に高い。ラストの‟頷くグレープフルーツ”を聞いてから、ずっと胸が熱いのだ。それは、初めてくるりの‟東京”を聴いた時のやるせない想い、どこにもぶつけることができない葛藤、すべてを包括して放つ熱気。そんな忘れかけていた生々しいものを思い出させてくれた。彼らの楽曲は、もっともっと多くの人に届いて欲しい。いや、届いてしかるべきと確信している。

<SET LIST>
01.平成アロハ航路
02.ルックンチビ
03.19のマスカラ
04.鳥とチューバ
05.ずうっと恋でペダル
06.NANOHANA
07.二つで一人のアルバム
08.頷くグレープフルーツ

Text by 古川喜隆
Photo by 古川喜隆