clammbon | 朝霧JAM 2018 | 2018.10.07

富士山の夕暮れとともに

晴天から夕暮れへと差し掛かる頃、まだリハーサルにも関わらず、clammbonの3人がステージに登場した。機材トラブルがあったようで、原田郁子が「一旦みんなは聞かないでー!」とアナウンス。その後、何とか音が出ると「出ましたー!」と嬉しそうに話す原田。そして始まったリハーサルは最新曲“Prosit!”。跳ねるようなリズムが印象的で、曲が進むと身体を揺らす観客が多くなっていった。

リハーサルが終わると、ミトが「じゃあ、やっちゃいましょうか!台風去ったぞーい!」と言葉を続けると、1曲目“Re-Folklore”が始まった。歌詞の歌い出しは “強い台風の去ってった夜に〜” と、まさに今年の朝霧JAMの状況を表した言葉だった。途中Vo.原田の手拍子に導かれ、観客の間にも手拍子が広がっていく。「朝霧―!声聴かせてくれよー!」というミトの言葉に呼応し、観客の「ラーラーララー」が大きくなる。

その後はヴォーカルさえもひとつの楽器のように聴かせる“KANADE Dance”や“NOW!!!”と名曲揃い。途中、初日の吹き荒れた雨風に触れ、そんななかでもアーティストのライブを観て、キャンプを楽しんだ来場者に向け、「フェスの達人だ、みなさんは」と続ける。

「GOGO PENGUINとこのバンドが対バンしていたら世界一のフェスになったんじゃないかと思う曲のカバーをします」と言い、始まったのは、E.S.Tの“GOLDWRAP”。『LOVER ALBUM2』でカバーしたものの、最近あまりライブで演奏されることのなかった楽曲に観客からは歓声があがった。

“グラデーション”が始まると、ステージ後方には霧がかかり、ゆったりとした曲調と見事に親和するようだった。転調するとミトは体を反ってベースを弾き、伊藤も心強いドラムでサポート。一気に荒々しい雰囲気へと変わった。

ポップな曲調の中で躍動的にうねるベースラインが印象的な“シカゴ”、軽やかな“Lush Life!”と続け、「もう歌えるよね!最高の声を聴かせてくれよ、カモン」と言い、始まったのは“波よせて”。観客は自らの手を大きく振りかぶり、ゆっくりと歌い出す。「海の向こうに何がある?」とミトのラップと原田の掛け合いが朝霧の夕方の景色に溶け込んでいく。「最高。良い景色」とミトが会場に向かって呟く。ふと振り返って富士山を見ると赤く染まりかけていた。

最後は、“タイムライン”。曲中の歌詞 「遊ぶ子供たち」 で原田が会場を指差し、にこやかに笑う。シャボン玉が空へと舞い上がり、オレンジ色の照明と日が落ちていく様子が重なり合うと、最後の曲ということも相まって哀愁を感じてしまう。そして、「ありがとうございました」というミトの声とともにclammbonのステージは静かに幕を下ろした。

メジャーを離れ、クラウドファンディングを実施し、「自分たちで」企画や制作、流通を行うclammbon。そして、200名規模のボランティアを募り、「自分たちで」フェスを運営する朝霧JAM。自らが主体的に関わることを大切にする両者。ステージからも、フェスからも、地に足がついたような頼もしさを感じた。

振り返り富士山を見ると、赤く染まった雲に覆われていた。赤富士が顔を表したのは一瞬だけ。同志にも似た、clammbonのステージの終演とともに朝霧JAMのシンボルである富士山も一緒に幕を下ろしたかのようだった。

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Text by Madoka Hasegawa
Photo by Masami Yasue