10年前よりもたった今!
今夜の会場は、大阪は十三にある名ライヴハウスのファンダンゴだ。会場中にベタベタと貼られたバンドのポスター、周囲を怪しく照らす赤色の光、中央に向かって張り巡らされた世界中の国旗。ステージ奥に描かれたジャクソン・ポロックを感じさせる乱雑なイメージもたまらない。何もかもがロックンロール感満載でワクワクしてくる“場”だ。
そして、今夜ここに登場するのは「大阪ロックンロール少年院」から飛び出した真正ロケンロー・トリオ、ザ50回転ズだ。アメリカはサンフランシスコでレコーディングしたデビュー・アルバム『50回転ズのギャー!!』のリリースから10周年を迎えた彼ら。10周年の記念ということで(図々しくも)古巣のワーナーミュージック・ジャパンに連絡を取り、10年前の自分たちに勝つべく、こだわりにこだわってリマスターを敢行(これは必聴の出来!旧盤と聴き比べることをお勧めします。鳴りが全然違うから!)そして、当時と同じ鮮やかな青を再現したジャケットを仕立て、2005年に初の海外ライヴを行った場所であるニューヨークのPianosから原点回帰ワンマンツアーをキックオフした(ニューヨークでの珍道中の模様はこちら)
そして、今夜がツアー・ファイナルだ(当然のごとくソールドアウト)。ロックンロールの雷に打たれた3人組が、雨の日も風の日も、日本中、いや世界中にその雷を轟かせて続けて来た。素晴らしいことだ。ロックンロールの可能性を信じきった奴らで今夜も会場はパンパンなのだから。そう、「爆弾もミサイルも必要ないさ、お前がいるから」って奴らでね。みんなバンドTにタオルを首にかけ、準備万端な出で立ちでまだかまだかと開演を待ちわびているのだ。
会場が暗転し、銀行強盗的な覆面が目立つザ・フジサンズと名乗る3人組が二階の楽屋から駆け下りてきた。白黒のボーダーにライダースを羽織ったまんまラモーンズな出で立ちでキメ、のっけから「カリフォルニア・サン」を投下し会場を沸かせる。倍速でかっ飛ばすアンダートーンズの「ティーンエイジ・キックス」やゴキゲンなザ・ハヴノッツの「アイ・ヘイト・ミュージック・スター」などマイクの出音が歪んでいて荒々しいガレージ・ロックな質感フル満タンであっという間に駆け抜け、ザ50回転ズ登場の花道を作るべくフロアを熱気ムンムンな状態に仕上げた。
「オーイ!ダニー!、ドリーにボギー!待ってんでー!!」と叫ぶファン。ステージが暗転して、お馴染みのオープニング曲、ドクター・フィールグッドの「ライオット・イン・セル・ナンバー・ナイン」のいなたいフレーズが流れる中、かの青いジャケットと黒パンツでビシッときめたボギー、ドリーにダニーのお三方が順に登場。ダニーが「飛ばすぜ、ファイナルー!」との一声から「50回転ズのテーマ」に「マブイあの娘」とのっけからガンガンにブッ飛ばす。「大丈夫?」と心配してしまうほどに頭を振りまくり、あらん限りに飛び跳ねステージを縦横無人に動きまくる。「全曲再現!最後までよろしくー!」とドリーが歌う切ないパワーポップ「ぬけがらロック」がこれまた最高。ミドルテンポなリズムに合わせ手を振り上げ、左右に揺れるオーディエンスを見るだけで幸せな気分になってしまう。「紹介しましょう。ベースのドリー!」とはじまったザ・マミーズのインスト曲「ザ・バラッド・オブ・アイアン・アイズ・コディー」。ドリーがベースをバキバキとかき鳴らし、爆音が耳と全身に迫って来る。特にと心地よく響き渡る。重低音を存分に浴びるのに、この会場の音響はうってつけだ。
続くは初期衝動感がハンパない「たばこの唄」。個人的に50回転ズの中でも最も好きな曲のひとつだ。何よりもダニーの「俺がギターじゃー!」からのキメッキメのギターソロのかっこよさにゃ即死必至。これを聴けただけでも来た甲斐があるというもんだ。「チェーンスモーカー、ドリー!こいつは禁煙なんかしないぜー!!」と歌詞のストーリーどおりに不良少年よろしく締めくくった。
ブルージーなセッションと10年間の道のりが込められたダニーの語りが最高だった「お前のせいだぜ」から「天王寺エレジー」の流れ。いずれも昭和歌謡を感じさせるいなたさがたまらない名曲だ。ディープ・パープルの「ブラック・ナイト」のフレーズといった遊びを入れながら情感たっぷりに演奏する。かつてはハードロックやパンクといったどストレートなロックしか受け付けなかった四角四面な筆者。これらの曲を聴いた時はその他の曲との違いに「なんじゃこのダサさは?」と思ったもんだが(すみません!)、今なら理解できるこのニュアンス、かっこよさ。爆音が耳から入り込んで心に染み渡る。髪の毛は薄くなった(!?)が、メガネは相変わらず曇ったままギターをかき鳴らすダニーのかっこいいこと!ダニー自らが公言したとおり、10年前のあの日より今ここにいる50回転ズが死ぬほどかっこいいってことがよくわかる。
「おまちかねのロマンチックなナンバーを1曲!」とはじまった「アタイが悪いのサ」。サム・クックと昭和歌謡をごった煮したような極上の50回転ズ節のR&B。泣きのギターソロが雄叫びを上げる。ラモーンズなドカドカビートがはじまれば、サビでの高らかなドリーのシャウトが最高な「Saturday Night」だ!今日が日曜日で明日から日常がはじまるという現実に直面しつつもこれでもかと拳を振り上げ暴れるクラウド。ここ一番の盛り上がりを見せて「ありがとー!気ぃつけて帰ってなー!良いお年をー!!」と『50回転ズのギャー!!』の完全再現部が完了した。あらためて、このアルバムの素晴らしさを堪能。彼らのロックのいや音楽に対する愛がこれでもかと詰め込まれた宝箱のようなアルバムだ。
鳴りやまないハンドクラップにすぐにメンバーが再登場。「流石にこれじゃ終わりません!10周年、10年前の曲全部やるぜー!!」とキャッチーな「マイクチェック」を皮切りに、第2部がはじまった。フロアにギターを突き出して繰り出すギターソロが秀逸だったインストナンバーの「ダンスのブルース」。冒頭のカウントが十八番だった愛すべきディーディー・ラモーンに捧げられた軽快な「Mr.1234man」と激しいテンションで立て続けに披露。今夜、まだまだ奴らは止まらない。「海賊たちのララバイ」のOiパンク、1976年感プンプンな「1976」(まんま!)の失踪するパンク・ビートは会場を一体にさせるのだ。8ビートって、やっぱ最高だな。チャイムのギター音からはじまるポップな佳曲「放送室のメロディ」の青春節満載なキラキラさに目頭が熱くなる。「今夜はこれでお別れしましょうー」と今夜二度目の「Thank You For RAMONES」を全力で出力。「全部出し切るってほんと気持ちいい!」てな感じの締めが最高だ。「ありがとう大阪!ツアーのさいごはやっぱりここに限るねぇ!」とドリー。ラストお決まりの「おさらばブギブギ」で、楽し過ぎるコール&レスポンスも飛び出し、会場全体が文字通りロックンロールで一体となった。この、どこまでもお決まりで、いつ観ても決してファンを裏切らないステージ。これが今の50回転ズだ。もはや、かつてのラモーンズの域に達しつつあるんじゃないか。「ありがとー!20周年で会いましょう!」とすがすがしくステージを後にした。
それでも鳴り止まない歓声に「しゃあねぇなあー!」とメンバーが再び戻ってきてRCサクセションの超名曲「雨上がりの夜空に」を投下した。かつて忌野清志郎さんが亡くなった2009年5月2日の翌々日に開催されたイベント(ロッケンロー・サミットなどを手掛けるYOU-DIE!!!がプロデュースしたコンピレーション・アルバム『69★TRIBE -Cupid Honey Traps』のリリース記念イベントだった)で清志郎さんに捧ぐと披露された感動の光景を思い出し、またしても目頭が熱くなる。本物の敬意が込められたこの名曲のカバーに心打たれないはずがない。「俺たちの10周年に付き合ってくれてありがとー!まだまだ俺たちかっこよくなれるはず!!」と「グッバイベイビー」で正真正銘のしばしのお別れ。この曲で「もう行くなくちゃ、次の街まで」ともう先を見据えている彼ら。何てかっこいいんだろう。ロックンロールという可能性は、バンド、オーディエンス、関わるすべての人たちで作り、広げていくものなんだ。終演後のザ・ルースターズの「Fade Away」が熱くなった耳にどこまでも心地よく響き渡った。
— Set List —
50回転ズのテーマ / マブイあの娘 / Thank You For RAMONES / ぬけがらロック / The Ballad Of Iron Eyes Cody / たばこの唄 / お前のせいだぜ / 天王寺エレジー / 少年院のソナタ / 乞食の大将 / 夢ならいいのに / アタイが悪いのサ / Saturday Night
— Encore 1 —
マイクチェック / ダンスのブル―ス / Mr.1234man / 海賊たちのララバイ / 1976 / 放送室のメロディ / Thank You For RAMONES / おさらばブギウギ
— Encore 2 —
雨上がりの夜空に / グッバイベイビー
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