Janet Klein and her Parlor Boys | 東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO | 2018.10.24

魔女か、妖女か、はたまた天使か女神?

10年ぶりの来日なのにな〜んも変わってない… かも。

モノクロだった無声映画のヒロインが、総天然色でいきなり目の前に現れて、歌って踊り出したようなもの。と、そんな説明がぴったりだろう。1910年代から30年代アメリカの古き良き時代の音楽を今に蘇らせている女性、ジャネット・クラインと彼女のパーラー・ボーイズ。2008年のフジロック・フェスティヴァルに姿を見せて以来、10年ぶりとなる彼らの来日ツアーが始まった。

その初日、なによりも驚かされたのは、彼女の容姿。さて、この10年はなにだったの? と、思えるほどに、な〜んにも変わっていない。そんなわけはないのだが、ジャネットの表情は10年の『老け具合』を全く感じさせないのだ。人間の観察眼にたけている方々に言わせると「少し太った」とか「声が少し不安定になった」らしいのだが、撮影をしながらライヴを体験していると、そんなことはみじんも感じさせない。それよりなにより「この人は、ひょっとすると魔女か化け物ではないか?」といった想いがむくむくとわき起こるのだ。

とはいっても、撮影した写真をチェックするのは、ディテールがはっきりくっきりする大型モニタ。というので、実を言うと、確かに年輪を感じざるを得ないのだが、少なくともライヴを見ている限り、それは全く感じなかった。実に前回と全く同じなのだ。しかも、その場にいる感覚も、振り返っての感想も前回と変わらない。なにはともあれ、見ている人たちを否応なく幸せにしてくれるのがそのライヴ。ステージで満面の笑みを浮かべて、歌い踊るジャネットを見ていると、それだけで観客の表情がほころんで、誰もがニコニコしているのがよ〜くわかる。

今回の渋谷クラブ・クアトロではステージ前に椅子が並べられ、リラックスしてライヴを楽しめるようにアレンジされていた。とはいっても、上手のスペースはダンスする人たちのために確保されていて、ライヴのさなか、カップルで踊っている方々が実に楽しそうだ。当然ながら、後方で立ち見している方々は身体を揺らせながら、踊っている人たちもちらほら。ジャネットが演出する時代を感じさせるスタイル、日本で言えば、モボ・モガっぽい出で立ちの方々も姿を見せて、音楽のみならず、ジャネットが映し出している世界に惚れ込んだファンもいっぱいいるんだろうということが見て取れる。

(ちなみに、モボとはモダン・ボーイでモガとはモダン・ガール。大正から昭和初期に使われた言葉ね)

リムプレスの前身、スマッシング・マグでやった2006年のレポをチェックしてみると、バンドのメンバーが全然違っているように思えるんだが、おそらく、バンドは固定されたものではないんだろう。なによりも重要なのは「ジャネット・クライン」というアーティストであり、キャラクターじゃないかと思える。アルバムのジャケットからプロモ・ビデオ、ポスト・カードといった物販にいたるまで、全て手がけているのが彼女自身。同じように、ファンはそんな世界を楽しみにやって来るのだ。

「私にとっては… あまりにモダンな1947年の歌だけど…」と、思わず一緒に歌ってしまった「銀座カンカン娘」など、日本語で彼女が歌った曲も3曲ほどあっただろうか。途中、休憩を挟んで、トータルで言えば2時間弱のライヴだった。ここで楽しんだのは、なによりも聞く人々を幸せにしてくれるレトロなポップ・ミュージックを映し出すジャネット・クライン。音楽が初めて記録されだした頃の歓びと楽しさに満ちあふれた世界だったように思える。

「すんごい幸せな気分にしてくれてありがとう!」

ショーの後、ジャネットに声をかけると、即座に返ってきたのはこんな言葉だった。

「それが音楽ってものよ!」

と、ストレートにそう言うことができた時代と空気を再現してくれるのが彼らの音楽であり、ライヴなんだとつくづく思ったツアー初日。この感覚、ぜひ多くのみなさんに体験していただければと思いますよ。

Janet Klein and her Parlor Boys Japan Tour 2018
10/24 (水)渋谷 クラブクアトロ 18:30開場 19:30開演
10/25 (木)梅田クラブクアトロ 18:30開場 19:30開演
10/26 (金) 福岡市 Gate’s7 18:30開場 19:30開演

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Text by Koichi Hanafusa
Photo by Koichi Hanafusa