Clockenflap | Central Harbourfront Event Space | 2018.11.9~11

10年続いた楽しさと、みえてきた課題

11月の香港は、台風シーズンも一段落して観光するにはちょうどいい季節である。亜熱帯気候なのでスコールに遭ったりするときもあるけど、ハリケーンで飛行機自体が飛ばないということは少ない。今年のCockenflapは通常より2週間早く開催されて、そのためなのか連日気温が28度くらいで暑く、幸運にも雨が降らなかった。3日とも雨がなかったのは久しぶりである。

香港の都市型野外フェスティバルであるClockenflapについては、過去の記事にどのようなフェスなのか書いたので参照してもらいたい。

2014年のレポート(出演したモグワイについて)
2015年のレポート(入門編)
2015年のレポート(ライヴ編)
2016年のレポート(フジロッカー向け)
2017年のレポート

今年もセントラル・ハーバーフロントでおこなわれてロケーションと交通の便は最高であった。前年との違いは、メインとなるHARBOUR FLAP STAGEはフジロックのグリーンステージ並みに、セカンドステージに当たるFWD STAGEもフジロックのグリーンとホワイトステージの間くらいの大きさになった。

それから今まで「あまり中華ぽい飲食店はない」とレポートしたけど、今年はHARBOUR FLAPとFWDの間に街中でみかけるような普通の食堂を再現したような店が新たにできていた。あとフレッドペリーのブースとかキャセイパシフィック航空の素人ステージ(?)が盛んになったことが去年との違いで、会場自体の広さやレイアウトは、ほぼ前年通りだった。


■フェスごはん

毎年書いているように、飲食には困らないし、美味いし、量も十分だけど、値段は高い。一食日本円で1000円から1500円くらいである。ビールも一杯1000円くらい。お金を節約しなくてはいけないので、ビールも食べ物も最小限となる。ちなみに水は無料で飲めるところが2ヶ所あってボトルに汲み放題だった。
毎年食べているのはタイカレー。美味くて量も日本のフェスと比べると多い。他にも台湾の魯肉飯やハンバーガーなど食べた物はだいたいよかった。あまり並ばない(高いからか)のもよい。


■お客さんたち

これも毎年書いているけど、真剣に音楽を聴きたい人は場所を選ぶしかない。最前列でも、ずっと雑談をしたり、演奏中でも電話で友人を呼びだしたりということは平気でおこなわれる。自分がせっかくよい場所を確保できたと思っても、後から来た集団がずっとライヴと関係ない話をしていたりしたら、黙ってその場から離れるか、もともと周りに人がいないところで観るしかない。日本とは感覚が違うと割り切るしかない。Clockenflapはいこうと思えば、割と前の方で観ることができるし、ステージ前がギッシリ詰まって身動き取れないということは少ない。その過ごし方さえ心得ればよいフェスティバルである。

■1日目 掘り出し物に遭う

金曜日は17時スタート。まずFWDステージで、SMOKE IN HALF NOTE。香港のバンドである。音が鳴った瞬間に今年もClockenflapに来てよかったと心から思ったくらい。ポストロック~シューゲイザー的な音像でラウドな響きと同居する繊細なギターフレーズが特徴のバンド。そして5弦ベースと手数の多いドラムが迫力あって、こういうバンドに出会いたかったと思えた。

途中からだったけど、YOURMUMステージ(フジロックだとレッドマーキーにあたる屋根付きのステージ)のSHAMEもすばらしい。UK出身のシンプルで激しいロック。ざっくりいうとセックス・ピストルズ+オアシスという感じ。ヴォーカルはカリスマ性あるし、これから伸びそう。

HARBOUR FLAPステージでのCIGARETTES AFTER SEXも配信の音源と比べ、生で聴くとずっしりと手応えあって、歌が生々しく迫ってきてよかった。

■2日目 デヴィッド・バーンが断トツ

昼は観光していたので、17時から会場に入る。フェス自体は12時からスタートしている。

FWDステージでALVVAYS(オールウェイス)。カナダ出身の男女混成バンドである。ヴォーカルのモリー・ランキンが赤いポロシャツと白いホットパンツで登場した瞬間に完璧! 見た目も音も「おれが好きな要素のみで出来上がってるバンド」だった。ギターポップの系譜を引く音、モリーのキュートなルックス、思った以上に伸びやかな声、キャッチーなメロディを持つ曲、全てがよかった。

HARBOUR FLAPステージに移動してJARVIS COCKER INTRODUCING JARV IS.。詩の朗読というか、演劇的というか。PULPの曲は一曲のみ。ヴァイオリンやハープを使った曲がある。演奏はPULPと比べ重々しく、ジャーヴィス・コッカーが新たな挑戦をしていることはわかる。フォトピットに降りて、最前のお客さんにインタビューするコーナーがあったのだけど「あなたは何を恐れているの?」という質問(英語で)に男が答えて「チャイナ・ガバメント!」と大声で叫ぶと賛同の声が上がった。ジャーヴィスは「難しいことだな……自由な言論な重要だ」とか答えてた(英語で)。中国本土政府を香港の人は恐れてるんだなということが生々しく感じられた。

そしてヘッドライナーのDAVID BYRNE。年間ベストクラスの素晴らしさ。ここ10年くらいでも上位に入るライヴだった。LEDスクリーンやプロジェクションマッピングなど映像演出が盛んな昨今、それを全く使わずに、人の動きと演奏だけで、どこまで視覚的にすごいものができるのかの挑戦をおこなっている。そして、それは大成功なのだ。

トーキングヘッズの曲も惜しみなく披露していた。ステージ最前あたりにいるにも関わらず雑談に勤しむ欧米人の観客たちも、次第にステージに集中するようになった。総勢12人のプレイヤーやダンサー兼コーラスによる演奏はキレ味あるし、踊りもコミカルかつ動きは激しく、凄まじいリハーサルを重ねて作られた完成度が高いステージを作り上げていた。ヴォーカルと一部でギターを弾いたデヴィッド・バーン自身も踊りに参加する場面が多かった。

盛り上がるのはトーキングヘッズの曲が多い。”Once in a Lifetime”や”Born Under Punches (The Heat Goes on)”は鳥肌立ったし、”Road To Nowhere”感動的だったし、”Burning Down the House”で大合唱だった。今年のClockenflapはデヴィッド・バーンのためにあったようなものだ。

■3日目 コーネリアスは独自の世界を提示したが……

この日も観光していたので、観たのはCorneliusとThe Vaccinesのみ。

HARBOUR FLAPステージでコーネリアス。デヴィッド・ボウイの”China Girl”をサウンドチェックのときに弾いていた。始まる15分くらい前にいけば、ほぼ最前で観ることができた。アルバム『Mellow Waves』発売してからずっと続くステージセットである。音と映像を融合させた完成度高いものだった。しかし、お客さんは次のKHALID待ちが多かったのか、パリピみたいな女の子たちがずっと雑談したり、割り込んで来た上に電話かけて他の子を呼び寄せたりと、落ち着いて聴けなかったのは残念。

コーネリアスも「他のアーティストを食ってやろう」というタイプのミュージシャンじゃないから、雑多な嗜好の人たちが集まるところだとアウェイな環境になるのだろう。

ザ・ヴァクシーンズは香港と相性がよさそう。4年前にもこのフェスにでているように、馴染みのフェスという雰囲気があった。1stアルバムの曲が盛り上がるし、それらを要所に繰り出していく。新譜の曲もライヴではよかった。近くの白人男グループが完全に酔っ払い、よく歌詞を覚えて歌ってて盛り上がっていた。

音楽好きのお客さん(地元の大学生っぽい人もけっこう1人で来ている)とパーティーピープル的な人が混在しているこのフェスは、人種も嗜好も混在している故の活気や魅力もあるのだけど、日本でのフェスマナーからすると、ちょっと残念に思うことはある。いずれはこの2者を分けないといけない時期が来るかもしれない。もちろん日本でもそういう状況になるかもしれないけど。ただ、そういうことを差し引いてもこのフェスは、高層ビルに囲まれ、海がすく近くにあって素晴らしいロケーションの魅力がある。さらに自転車が引っ張る屋台の後ろにDJセットを作ってずっと音楽を流しながら会場を回っていたり、謎の恐竜の骨3体がゆらゆらと徘徊していたり、楽しい雰囲気を作る努力や工夫は感じられる。だから、いろいろあるにせよ「また来年もいこうかな」と思わせるフェスなのだ。

オフィシャルサイト

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Nobuyuki Ikeda