新しい世界観を纏ったニュー・モード
約2年前、ライブ・パフォーマンス、ソング・ライティング、その両方の面で重要な役割をアレックス・カプラノス(Vo./Gt.)と共に担っていた、ニック・マッカーシー(Gt./Key.)がバンドを脱退した。そして、昨年5月、ディーノ・バルドー(Gt./BaVo.)とジュリアン・コリー(Key./Gt./BaVo.)が新メンバーとしてバンドに加入。今年2月には、新体制になって初めてのアルバム『Always Ascending』をリリースした。このアルバムをプロデュースしたのは、フレンチ・ハウス/エレクトロ・ユニット、カシアスのフィリップ・ズダール。故に、新作はフランツらしいポスト・パンクなテイストと、フレンチ・エレクトロ・ポップなテイストがマージされた、「フランツ・フェルディナンド新章」と言っても過言ではない内容になっている。
そんな彼らが日本でパフォーマンスするのは今年2回目。1月に一夜限りのプレミアライブとして行われた新木場 Studio Coast公演では、アルバムリリース前にもかかわらず、新曲と既発曲をしっかりと織り交ぜた完璧なステージを見せ、オーディエンスを存分に躍らせた。あれから約1年が経ち、フランツのニュー・モードが、ライブに於いて、どのくらい馴染み、どのくらいの進化を遂げているのか?それを自分の目で確認するために多くのファンが会場に集まっていた。
会場に来ている客層は、ポスト・パンクやニュー・ウェーブの創世記を通って来たであろうファン、リバイバル・ブーム期にフランツのデビューをリアルタイムに体験したファン、後追いの新しいファン・・・等、比較的年齢は高めではあるが、熱心なファンが集まっていた。
この日のオープニング・アクトを務めたのは、オランダの4人組サイケデリック・ポスト・パンクバンド、ラッツ・オン・ラフツ。まだまだ粗さはあるものの、その若手とは思えない重質なサウンドは、今後が楽しみなバンドであったし、初見のファンの心身を十二分に温めた。
そして、20時。スロウでメロウなナンバーをBGMにメンバーが登場。本編がスタートした。ライブのオープナーは、新作から“Slow Don’t Kill Me Slow”。ミニマルでスロウなメロディを最大限に表現したこの曲から、「新生フランツ・フェルディナンド」の所信表明が明確に感じられた。アレックスの所作は、まるで日本の歌謡曲シンガーのような柔らかさがあり、従来のアレックスのイメージに「ニュー・モード」をアドオンしている。続く”Stand On the Horizon”はニック在籍時に作成された楽曲で、サビにかけてフランツらしいソリッドさがある展開を見せていく部分が特徴的な曲なのだが、そういった従来のフランツのソリッドさは極力抑えられ、新作モードの流れに合ったアレンジに変換されていた。
序盤は”Slow Don’t Kill Me Slow”、”Stand on the Horizon”、”Glimpse of Love”、”Walk Away”と新作と旧作からのメロディアスな選曲だったが、ここから中盤にかけて徐々に「フランツ・フェルディナンドの本質」を見せるが如くドライブがかかっていく。
アレックスの「No, No, No, No…」の振りから始まった”No You Girls”、ダークでおどろおどろしいグルーヴに踊らされる”Evil Eye”、新作の”遊び感”が隠し味になり新しい魅力が出ていた”The Dark of the Matinee”。そして続くは、彼らの大出世曲”Do You Want To”。ここでも原曲の持つキレとメロディを際立たせる新アレンジが効いていて、「トゥッ、トゥー、トゥッ、トゥルルルルー♪」のフレーズでのシンセの使い方なんかは、もろに新作モードの影響を良い意味で受けていて、お客さんのダンス・マインドに拍車をかけていた。
バンドに新しくディーノとジュリアンが新たに加わったことで、音に厚みが出て、アレンジやパフォーマンスにも以前より”遊び”や”彩”を加わった。しかし、彼らのサウンドの本質は全く変わってはいない。”Do You Want To”の「トゥッ、トゥー♪」のコーラスに合わせてお客さんがジャンプする定番ムーブは、座席指定の東京国際フォーラムだろうが関係ないし、”Michael”で一気にギアが上がり、ソリッドにカッティングされるギターに、条件反射的に体を小刻みに揺らしてしまう感覚も全く変らないのだ。
そんな流れの中で、ひとつ大きな想定外なことがあった。それは”Take Me Out”。言わずもがな彼らのビッグ・アンセムなのだが、この曲の存在感が既存のイメージの何倍にも膨れ上がっていたのには驚かされた。もう少し分かりやすく言うと、イントロのフレーズが入った時点での観客の爆発度、そして、曲をラストまで走りきるまでのパフォーマンスの熱量の高さ、これらがこれまでの”Take Me Out”よりも明らかに増していたのだ。それは、ひとつ前に演奏されていたのが超ギター・エレ・ポップな”Feel the Love Go”だったこととのギャップから来ていたのかもしれない。しかし、果たして本当にそれだけなんだろうか?音数が増えて重厚になった演奏と、レイヤー数が増えたカラフルなギターリフと、変らないソリッドなポスト・パンクサウンド・・・。それら相乗効果で、この曲の存在感を数ランクも上に押し上げていたのだ。その証拠に、僕らはそのサウンドに対して「踊どる」衝動を抑えられなかったし、2009年同会場での公演で起きた”座席指定制の崩壊”現象の再現よろしく、アレックスの促しに指定席を離れ、一斉に会場最前列にダッシュで押しかけていた。皆が、手を振り上げ、叫び、踊っていた。その光景は9年前と全く変わっていなかった。
しかし、この日の熱狂が生まれた要因は、彼らの楽曲とパフォーマンス以外にもあるように感じた。それは今回のステージ構成・・・シリアスでドラマティックな序盤、滑らかさとキレの緩急が効いた既存曲で構成された中盤、目まぐるしい展開を見せた終盤、そして今のフランツとこれまでのフランツの特徴を振幅MAXに振り切って魅せたアンコール・パート。そんな「起承転結」のある構成にもまた、熱狂を作り出した要因があったように思う。そこには、確実に「これまでのフランツ」と「現在のフランツ」が同居していた。変わらないけれど、新しい。そんな新しいフランツの次の一手が今から楽しみだ。
と、ライブは大満足のままに終演を迎えたわけだが、小憎い演出は最後まで行き届いていた。
場内の通常照明がつき、ファンたちがまだ残る場内に流れていたのは、フランスを代表するエレクトロ・デュオ、エールの”Playground Love”。新作の世界観を踏襲したフレンチでチルアウトなこの選曲が、会場内に最高な余韻を作り出していた。
<セットリスト>
01 Slow Don’t Kill Me Slow
02 Stand On the Horizon
03 Glimpse of Love
04 Walk Away
05 No You Girls
06 Evil Eye
07 The Dark of the Matinee
08 Do You Want To
09 Finally
10 Michael
11 Feel the Love Go
12 Take Me Out
13 Ulysses
EN1 Always Ascending
EN2 Lazy Boy
EN3 Love Illumination
EN4 This Fire
※写真はホステス・エンタテインメントから提供されたものを使用しております。