Isolation Berlin | 東京 Shibuya Milkyway | 2019.02.01

凝り固まった「バンド」のテンプレを壊したベルリンのスーパーノヴァ

ドイツのバンドといえばクラフトワークかCANかD.A.F.か(いずれもバンドと形容するのがふさわしいと思えないが)という知識の中で、10年代も終わりの今、バンドとしては本国でも健闘し、アジアツアーも行うバンドがいるという。それが本稿の主役アイソレーション・ベルリンだ。事前にチェックした動画からは、キャッチフレーズに使われているドイツのジョイ・ディヴィジョン、もしくはザ・スミス、ストーン・ローゼズなどの暗く儚い印象と、隙間の多い音像が印象に残ったが、果たして現時点での彼らはどんなライブを見せるのだろう?珍しい体験になることを期待してヴェニューへ。

フロアにはそれこそザ・スミスやキュアー、ニコなどが流れている。80年代後半のロンドンのクラブ、もしくは東京にもそんな場所があったのかもしれない。加えて客層も往時を知る世代から20代まで幅広い。ダークなニューウェイヴ、もしくは全く新たな存在として彼らの存在を嗅ぎつけて集まったオーディエンスは存外多かった。

オープニングアクトのルビー・スパークスがマイ・ブラッディ・バレンタイン顔負けのシューゲイズ・サウンドや、新機軸の同期も用いたインディーポップをクールな佇まいで聴かせる。ラストのノイズピットはなかなかの圧。時代を超えて、好きな音楽を追求する彼らのいい意味での頑固さは頼もしい。

そして今夜の主役、アイソレーション・ベルリンのメンバーが登場。ボーカルのトビアスはキャスケットにレザーブルゾン(背中にはバンド名)。今時のフロントマンというより、役者のようなフィロソフィだ。ギターのマックスは長身痩躯で神経質なミュージシャン、ベースのデイヴィッドは知的で教師のような感じ。ドラムスのジミヨンはプレイしていなかったらIT企業のエンジニアに見えたかもしれない。要はキャラクターはバラバラ。しかし音を出すと強い。パンクロック的な初期衝動ではなく、スタイルに拘泥しない色気のあるロックとでもいえばいいだろうか。それはひとえにトビのアクトによるところが大きいのだが、表情豊かで、身振りを交えながら、時に渾身の叫びを放つ。久々にロックバンドでこれだけ叫ぶボーカリストを見た気がする。その叫びも、曲によって様々な先人アーティストを思い出させるから見ていて、彼が意識している・いないに関わらず、パンクやニューウェイヴ、時にブレヒトの「三文オペラ」まで想像させる、ストーリー・テラーとしてのボーカリスト像が浮かぶ。

特に序盤の「Marie」ではルー・リード的なメロディより言葉が持つフィーリングをビートに乗せて歌うムード、「Ich wünschte, ich könnte」ではジム・モリスンのような色気とでも言おうか。詩人的なフィロソフィを持ったボーカリスト、というのがトビの個性だ。そぎ落とされたバンドのアンサンブルは、そうした往年のパンク黎明期のバンドと共振する部分も感じるし、「Vergifte dich」は意外とストレートにロックンロールだ。ソリッドなプレイに次第に加熱するフロアの反応にトビが「ダンケシェン!」と笑顔で言い放つ。

動画を見た時の印象に近かったのは、高音弦を使ったベースの反復と、シンバルはほぼ皆無なソリッドなダンスパンクな「Prinzessin Borderline」。生楽器しか用いていないのに、どこかインダストリアルな質感のサウンドに聴こえるのは音のチョイスのセンスからだろうか。曲としての知名度が高い「Isolation」は、ジョイ・ディビジョンというよりギャング・オヴ・フォーぐらいタフなビートで切れ味鋭く。マックスのディレイとトレモロを駆使したギターサウンドが透明な哀しみのようなものを増幅させる。ほとんど言葉がわからずライブを見てきたが、さすがに「アイソレーション」のリフレインはまっすぐ気持ちに飛び込んできた。しかもウエットさはなく、むしろ透明な哀しみを抱えた人間であることが前提であるように、タフに声を発していた。詩人、そして物語を書く人というイメージが強い彼。歌詞もじっくり読んでみたくなった。

本編ラストの「Isolation Berlin」では「ベルリン」と繰り返されるヴァースがあり、曲調は全然違うのにくるりの「東京」を思い出してしまった。ミディアムでどっしりしたアンサンブルだというだけではない何か反応するものがあったのかもしれない。それだけアイソレーション・ベルリンの音楽性は一つのジャンルに固定できない。もっといえば、「バンドとはこういうもの」だと、アメリカもイギリスも日本も、新しさを追いかけるけれど、彼らは時代性より個人の感性や好みで、半ば力技でバンドサウンドを駆動させている。こういうアプローチのバンドは久々というか、2010年代も終わりの今、稀有だ。

アンコールはアッパーな人気曲「Kicks」と、「Wahn」ではトビがフロアに降りて歌う場面も。様子を見ている感じだったフロアも、1曲終わるごとに拍手も大きくなり、誰も構えていない、暴れるつもりで来ていない、その自然なムードも日本のヴェニューでは久々の体験だった。同じ夜、バンドのテンプレからも、ライブのテンプレからも最も遠い空間はアイソレーション・ベルリンの初来日公演だったんじゃないだろうか。

Text by Yuka Ishizumi
Photo by Masahiro Saito