MITSKI | 東京 Shibuya WWW X | 2019.02.12

音楽が昇華し、総合芸術に変わった瞬間

先日、フジロック’19への出演が決まったことも記憶に新しいMitski。幼少期の経験や日系アメリカ人として自らのアイデンティティに対する葛藤を強く表現する音は今のアメリカ音楽のダイバーシティを表す、まさに旬なアーティストの一人といっても良いだろう。注目が集まる中、5thアルバム『Be the Cowboy』を引っさげての3度目の来日公演は東京・大阪ともにSOLD OUT。

東京公演当日の18時30分を回る頃には公演開始を待ちきれず浮き足立つオーディエンスですでに埋め尽くされていた。その雰囲気を掻き立てるようにBGMは軽やかなピアノやサックスの音が響きわたる。皆片手にハイネケン、軽やかなジャズの音色。ライブが始まるのとは少し違ってまるで外国のダイナーにいるかのような雰囲気だった。

定刻より10分過ぎたくらいに凛とした雰囲気でMitskiが登場。たっぷりとした白シャツに黒のスカートといったシンプルなモノトーンコーデがよく似合う。大歓声で迎えられつつも彼女がマイク前にすっと立つと緊張と期待で会場が一気に静まりかえった。

異様の静けさの中、突如なり響くギターの渋いイントロ。5thアルバムから『Remember My Name』でスタート。マイクの前に佇み1点を見つめて歌う彼女は1曲目にしてすでに会場を支配し、オーディエンスを魅了する。

Photo by Kazumichi Kokei

さらにライブが進むにつれ、甘い恋心や孤独を歌う曲に合わせて、彼女の内側から湧き出る感情が爆発し、何か取り憑かれたように全身を使って表現を加えていく。奇妙でありつつも、時にそれは神々しいと感じるほどだった。

Photo by Kazumichi Kokei

Mitskiの作品を聞いていると、歌詞から情景が浮かび、まるで小説を読んでいるかのような感覚になる。そこにライブの肉体表現が重なることで、音楽を昇華させ、こんなにも心揺さぶる芸術作品に仕上げてしまうのかと、エモさ最上級のMitskiの世界観にどっぷりとはまって行く自分がいた。

4曲目が終わったところで「こんばんわ、Mitskiです。ただいま帰りました。」と驚くほどさらっとしたMC。オーディエンスも「おかえりー!」と応じ、リラックスした笑顔を見せた。先ほどの雰囲気とは打って変わってこんなにも柔らかな表情を見せてくれるのかとそのギャップにさらに虜になった。

中盤には3rdアルバムからのギターサウンドが前面に出たロック中心の選曲。それに呼応するように会場の熱はさらにヒートアップする。そして5thアルバムのリード曲『Nobody』のイントロが聞こえると今日一番の大歓声。フレンチポップの曲調、キャッチーな歌詞に誘われ、会場をダンスフロアに仕上げてみせた。彼女を一躍有名にした『Your Best American Girl』で止められない感情を発散し、さらに加速する強烈な感情表現とともに『Drunk Walk Home』で本編は終了。

もちろんアンコールを求め鳴り止まない拍手。そこに何事もなく、すっと姿を表す様もまたMitskiらしい。アンコールではシルバーラメがギラギラ光るギターをかき鳴らし、叫ぶように『My Body’s Made of Crushed Little Stars』を歌い上げたかと思いきや、『Two Slow Dancers』で透き通る歌声を響かせ、ライブで火照った心を鎮めるように優しく浄化してくれた。「これが本当に最後の曲です。感謝の気持ちを込めてものすごい古い曲、大学の間に書いた曲です。」と『Goodbye, Danish Sweettheart』。多幸感に満ちた曲調に温かな雰囲気でライブは大盛況のうちに幕を閉じた。

新譜、旧譜をバランスよく取り入れた24曲。シンプルなバンドセットながらもMitskiの存在感を存分に堪能できる素晴らしいライブだった。来たるフジロックでのアクトは期待しかない。

<Set List>
1. Remember My Name
2. I Don’t Smoke
3. Washing Machine Heart
4. First Love/Late Soring
5. Francis Forever
6. Me and My Husband
7. Dan the Dancer
8. Once More to See You
9. A Pearl
10. Thursday Girl
11. I will
12. Townie
13. Nobody
14. I Bet on Losing Dogs
15. I Want You
16. Your Best American Girl
17. Why Didn’t You Stop Me?
18. Geyser
19. Happy
20. Come Into the Water
21. Drunk Walk Home
22. My Body’s Made of Crushed Little Stars
-Encore-
1. Two Slow Dancers
2. Goodbye, Danish Sweettheart

Text by Masako Yoshioka
Photo by Kazumichi Kokei