JON SPENCER | 東京 恵比寿LIQUIDROOM | 2019.02.20

ジョン・スペンサー、ソロでも健在!

ジョン・スペンサーは、1985年からバンド活動をスタートし、プッシー・ガロアを経て結成したジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョン(以下JSBX)のリーダーとして、90年代初頭から、何度となくライブツアーを周り、幾多のシングル、アルバムをリリースしてきた。来日公演も数多い。目下JSBXは休業中だが、2017年公開の大ヒットしたカーアクション映画『Baby Driver』で”Bellbottoms”が使われたこともあり久々に話題が浮上した。そんな絶妙なタイミングで、初のソロ名義のアルバム『Spencer Sings the Hits』をリリースし、ソロで来日するというのだ。まぁ、とにかくまずはアルバムを一聴して、良かったら観に行こうとアルバムを聴き始めた途端、JSBXのレコードと比較しても何ら遜色ない、テンションが高い「ジョンスペ」らしい曲が満載で瞬時にライブ参加を決めた。

会場は恵比寿リキッドルーム。開場直後にフロアへと足を運ぶと、開演まで時間があるからか、まだガラガラだ。余裕でステージ全体が見やすいステージ右側の片隅をキープして開演を待つ。前座のクラン・アイリーン(Klan Aileen)がスタートするころには、結構な数の観客がフロアにワラワラと集まり、フルハウス状態と化すと、場内が暗転してライブがスタートした。ボーカル&ギターとドラムの2ピースだったが、意外なほどグルーヴィーでタイトなJSBXを想起させる演奏で、20分強の間飽きずに見ることができた。筋金入りのJSBXファンとおぼしき観客からも、いい感触の歓声や拍手をもらっていた。フロアは絶妙な温まり具合を帯びてきた。

恐らくジョン自身が選曲したであろう、マニアックなBGMが延々と流れる中、淡々とスタッフがセットチェンジを終え、定刻を過ぎると(意外なほど焦らされた感じがしたが)、メンバーが登場し、ニューアルバムからの”Alien Humidity”からライブがスタートした。ジョンの歌とギターの出音は開演直後は小さく感じたが、バンド全員が揃って音を出し始めると、音が絶妙なバランスで溶け合う。小細工なしのシンプルな照明も、今夜の潔いライブにフィットしていたと思う。

バックバンドのThe HITmakersは、JSBXの前身バンド、プッシー・ガロア時代のドラマーのボブ・バードとキーボード、鉄製ゴミ箱に車のパーツからなる”鉄の塊”の打楽器を打ち鳴らすパーカッショニストの3人編成。全米ツアーを回ってきただけあり、板についてきた”Spencer Sings The Hits”の曲を中心に構成された選曲のセットで、JSBXのライブと同様に初っ端からテンションを上げ矢継ぎ早に展開していく。キーボードのアレンジメントが絶妙な隠し味となっていたことをJSBXのライブとの違いとして特筆しておきたい。アルバム一枚分程度の曲数をやってサヨナラなんて訳がなく、アンコールではプッシー・ガロアやJSBXのセルフカバーに加え、なんと”Roadrunner”のカバー(The Modern Loversのオリジナルに忠実なカバーだったが、凄くハマっていた!)もソロアルバムの選曲を音楽的に補完するように披露してくれた。JSBXのライブでは必ずジョンが連呼して盛り上がる「Blues is no.1!!」こそ言わなかったが、終盤に披露された”Shirt Jac”での、「ウギャアアアアアア ア アッ」て、断末魔みたいなスクリーミングも、客席にコールアンドレスポンスを強要(「Yeah!!」 とか)する様も久しぶりに目撃できた。ジョン・スペンサーという男のライブパフォーマーとしての圧倒的な輝きは健在だった。

エルヴィス直系のロカビリーも、ロッキンブルースも、トラッシュなパンクも、ラップもジョンが自分の脳内のリミキサーを駆使して捻り出したソロの新曲を、The HITmakersの3人と音を鳴らしながら、ライブ映えするようなアレンジを求めて、一曲一曲仕上げていき、その場でリミックスを施したものを聴いたような即興感を感じられた。

ジョンは、音楽の中に自分の人生の方向すら左右するパワーが無尽蔵に秘められていることを身をもって知っていて、それをどう発露すればいいのか、という方法を考えながらツアーを続けているんだろうな、と改めて強く感じた濃密な90分だった。JSBXの次の活動も気になるところだが、勝るとも劣らないこのバンドでの強力な2ndアルバムと、次の来日ツアーを期待したい。

<Setlist>
Alien Humidity
Wilderness
Overload
Pretty Fuck Look (Pussy Galore song)
Time 2 Be Bad
Ghost
Dang (The Jon Spencer Blues Explosion song)
Beetle Boots
New Breed (Pussy Galore song)
Cape
Love Handle
Tough Times in Plastic Land (Sam Coomes cover)
Shirt Jac (The Jon Spencer Blues Explosion song)
I Got The Hits
Do The Trash Can
The Loveless (Heavy Trash song)

<Encore>
Hornet
Just Wanna Die (Pussy Galore song)
Roadrunner (The Modern Lovers song)
Bellbottoms (The Jon Spencer Blues Explosion song)
No Count (Pussy Galore song)

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Text by Taisuke Ebinuma
Photo by Yoshika Horita