WEAVER | 東京 マイナビBLITZ赤坂 | 2019.03.31

物語とリンクした新しいパフォーマンスで10周年イヤーの幕開けを飾る

神戸出身の3ピースピアノバンド・WEAVERが、約1年半ぶりとなるライブツアー「WEAVER 14th TOUR 2019『I’m Calling You〜流星前夜〜』」を開催した。WEAVERは、小説家としても活躍する河邉徹(ドラム)が“人工流星”をテーマに描いた新作小説『流星コーリング』と、物語のサウンドトラック的イメージで楽曲を制作した同名アルバムを3月6日にリリースしており、今回のライブではその物語と音楽がリンクするというテーマに沿って、よりストーリーの世界観に浸ることができる演出や構成が練られた。東名阪3公演のみという貴重なツアーだけに、ファイナルとなった東京・マイナビ赤坂BLITZ公演はSOLD OUT。ツアーという形で久しぶりに音楽を共有できる喜びをバンドもファンも滲ませながら、今のWEAVERのフルスペックを注ぎ込んだパフォーマンスに、来る10月の10周年に向けてさらなる期待が高まる一夜となった。

開演時刻を回ると徐々に照明が絞られ、夕闇と静寂に包まれる場内。アルバムのオープニング・ナンバー”Overture~I’m Calling You~”が鳴り響くと同時にステージ上のビジョンに映像が映し出され、順にメンバーがステージに登場。そのまま”流れ星の声”へと繋げ、杉本雄治(ヴォーカル/ピアノ)の伸びやかな歌声が物語の始まりを告げるように響く。物語の展開に沿って『流星コーリング』の収録曲が演奏されていく中で、”Shine”(2011年)や”66番目の汽車に乗って”(2011年)、”夢じゃないこの世界”(2013年)といった『流星コーリング』以前にリリースした曲も織り交ぜて披露。今作のために制作した楽曲ではないが、いずれも星や夜空を彷彿とさせるナンバーで、懐かしい曲も新しい曲もどれもが物語を彩る1ピースとして輝いていた。

臨場感のあるリリックビデオの映像をバックに演奏したり、曲間では声優の花澤香菜、角田雄二郎の朗読音源による演出があったりと、言葉や歌詞を様々な形で届ける工夫も凝らされていた。また、映像やナレーションなど様々な要素が最大限の効果を発揮できるよう緻密に設計された演出に圧倒されると同時に、その時その瞬間だからこそ生まれるグルーヴや表現でオーディエンスを引き込むシーンも印象に残っている。主人公が同じ日を繰り返し明日へ進めなくなってしまった場面を歌う”Loop the night”では、物語の佳境に向けてメンバーの演奏にも熱が入り、早いテンポの中で重なる緊迫したセッションが主人公の焦燥感を見事に表現。そして、杉本がファルセットを交ぜながら時折語意を強めるなど、溢れんばかりの感情を込めて歌い上げた”透明少女”を終えるとメンバーは一旦ステージを去った。一切MCを挟まず、物語の世界に浸り深く堪能できる1時間だった。

場内が明るくなり、再びメンバーがステージに登場。フロアを見回しながら杉本が「こんな感じでここまでやってきましたけど、皆さん楽しんでもらえてますか?」と問いかけると、もちろんと言わんばかりの拍手が弾け、メンバーは顔をほころばせた。いろんなことが便利になり、音楽もどんどん手軽に聴くことができる時代に、長編の物語と音楽が連動するということは、遠回りなことかもしれないと河邉は言う。「でも僕らの力や、やりたいことを集めたもの。それが今回の『流星コーリング』なので、こうしてたくさんの人に受け取って楽しんでもらえてうれしいです」と感謝の言葉を重ねた。

じっくりと物語の世界を表現することにこだわった前半とは一転、後半は高揚感を露わにライブモードに。河邉の「1、2、3、4!」という大きな掛け声から熱いセッションを披露し、勢いそのまま”だから僕は僕を手放す”へとなだれ込む。さらに”Free will”でマイクをフロアに差し出し、コールアンドレスポンスによって一体感を高めて”Shall we dance”へ。杉本が「そんなもんじゃないでしょ!?まだまだ踊り足りないでしょ!?」とオーディエンスを挑発し手拍子を煽りながら、視線を交わし合うメンバーは、前半のクレバーな印象とは打って変わって、まるで少年のようにこの瞬間を誰よりも1番に楽しんでいるよう。10年目を迎え、成熟したフェーズに差し掛かったバンドが、こんなにも純粋に音を鳴らすことを楽しむ姿というのは、それ自体が沢山の希望的意味を持っているように感じた。拍手や歓声を受けながら勢いそのまま駆け抜け、本編ラストは最新曲”カーテンコール”でフィニッシュ。さらにアンコールではアルバム『流星コーリング』の中で唯一まだ演奏されていなかったバラード”I would die for you”を披露し、緩急巧みな歌と演奏で最後の一音まで聴衆を惹き付けて『I’m Calling You~流星前夜~』のステージが締めくくられた。

一つのバンドが物語と音楽を作り上げるからこそ追求し得る表現や世界観をこの日はっきりと示してくれたWEAVER。奥野は「『流星コーリング』はこれから先も15年、20年後とバンドをやっていくために、改めて3人の気持ちを一つにしてくれた作品で、WEAVERにしかない最強の武器になったと思っています」と語り、河邉は「世界中にたくさんの小説家がいるけれど、小説を読んで、それに音楽まで作ってくれるメンバーがいるのはきっと僕だけ。僕は世界で1番幸せな小説家です」とメンバーへの感謝も口にした。

WEAVERは7月からベストアルバム『ID 2』を引っさげ全国15都市を巡るライブハウスツアーをスタートし、デビュー10周年を祝う地元・神戸国際会館ホールワンマンが流星コーリング・プロジェクトの最終地点ともなる。今、改めて3人の思いを強固に結び直し、最強の武器と呼べる唯一無二のパフォーマンスを獲得した彼ら。アニバーサリーイヤーのスタートダッシュが華々しく切られた。

<SET LIST>
1. Overture ~I’m Calling You~
2. 流れ星の声
3. 最後の夜と流星
4. Shine
5. 66番目の汽車に乗って
6. Interlude Ⅰ
7. 栞
8. Nighty Night
9. Interlude Ⅱ
10. Loop the night
11. 夢じゃないこの世界
12. 透明少女
13. だから僕は僕を手放す
14. Free will
15. Shall we dance
16. くちづけDiamond
17. カーテンコール
EN. I would die for you

Text by 岡部瑞希
Photo by Yuto Fukada