FLOGGING MOLLY | 東京 Shibuya O-EAST | 2019.04.23

どこにでもある「ふるさと」

この日は、開演前にステージ上手にDJブースが設けられ、その場にふさわしくケルティック・パンク(アイリッシュ・パンクは日本での呼び名)の曲がかかっていた。今年のフジロックにも出演するイタリアのバンダ・バソッティもその中に混ぜられて思わず嬉しくなる。19時ころにクラッシュの”Clampdown”がかかり気分が高揚したところにザ・フーの”BaBa O’Riley”が流れてメンバーが登場する。ほぼ満員に近いフロアからは大歓声が上がり、この曲が終わった瞬間からライヴがスタートする。

ステージ下手からベースのネイサン・マックスウェル、アコーディオンのマット・ヘンスリー、ヴァイオリンやティンホイッスルのブリジット、ブリジットの夫でこのバンドの中心人物であるデイヴ・キング(ヴォーカル、ギター)、バンジョー&マンドリンのスペンサー・スウェイン、ギターのデニス・ケーシーと並ぶ。ドラムはマイク・アロンソ。

まずは”(No More) Paddy’s Lament”。一斉にフロアが踊りだし、初手からステージ目掛けて飛び込む人が続出する。郷愁を誘うヴァイオリンやアコーディオンが速いビートに乗って駆けていく。そこにデイヴ・キングの歌が加わる。音源で聴くより、あまりダミ声を感じさせずクリアで通りがよい。

新アルバム『Life Is Good』から”The Hand of John L. Sullivan”。途中で「オ、オーオーオ、オ、オーオーオ」と合唱を促すところがあって曲の構成も見事である。3曲目には早くも酔っ払いの子守唄、ケルティック・パンクのアンセムというべき”Drunken Lullabies”がプレイされ、すでに盛り上がっていたフロアがまたさらに一段上がった。フロアの前方でおこなわれたモッシュは激しくなり、クラウドサーフでステージに向かう人たちが増えていく。それで大きな事故にならないのはそんな混乱の中にも倒れた人を助けたりするギリギリの節度があるのだろう。

以降も基本的には激しいパンキッシュな曲が続くけれども、緩急をつけて飽きさせない。”The Days We’ve Yet to Meet”ではネイサンがリードヴォーカルを取る。”Black Friday Rule”ではデニスによる長尺のギターソロが圧巻だった。最初はデイヴのアコースティックギターと激しくカッティングを競い合い、デイヴも他のメンバーも一旦ステージを退いたあとは、ずっと1人でギターを弾きまくった。その間、ドラムのマイクが速いビートでリズムをキープしていた。

“Life Is Good”でクールダウン、ブリジットのティンホイッスルに導かれて”Devil’s Dance Floor”、”Crushed”では、故人のトリビュートコーナーということなんだろうかアレサ・フランクリンの”Think”やクイーンの”We Will Rock You”を引用して合唱させる。本編最後は”The Seven Deadly Sins”で締めくくる。

メンバーがステージを去ると、「オーレ―、オレオレオレー」とサッカーで有名な”Ole, Ole, Ole”(The Name of the Gameとかwe are the championで知られる)を合唱してアンコールを求める。そしてすぐにステージに戻ってきて”If I Ever Leave This World Alive”と”Salty Dog”で盛況のままライヴは終わった。そしてフロッギング・モリーのライヴでは恒例であるモンティ・パイソンの”Always Look on the Bright Side of Life”が場内に流れ、ネイサンとデニスはフロアに降りていってクラウドサーフしたり、お客さんたちと記念撮影したりと余韻を楽しんだのであった。

このライヴを観ていて思いだしたのはイースタンユースの吉野の言葉で「ふるさとは捨てた。どこにでもふるさとがある。飲み屋の隣のオッさんもふるさと。『そのオッさんにもふるさとがある』んじゃなくて、そのオッさんがふるさとなの」というものだ。ダブリンから離れ、ロサンゼルスでバンドをやっているデイヴにとって「ふるさと」は具体的な地名なのではなく、今やっている音楽が「ふるさと」なのではないだろうか。だから、東京でライヴを楽しんでいるひとりひとりにとっても懐かしくノスタルジーを覚えるものなのだ。デイヴは「See you soon」といっていたので早い再会を期待しよう。

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Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Miho Kawahara