原始神母 ~PINK FLOYD TRIPS~ | 高円寺High | 2017.05.19

何にでもなれたピンク・フロイド

仕事を終えて高円寺のライヴハウスに着いたときには19時20分ころだったので、すでに始まっていた。お客さんがぎっしり詰まっていたので、あまりよくみえなかった。ちょうど「星空のドライブ(Interstellar Overdrive)」をやっていた。そして初期ピンク・フロイドで好きな曲「ルーシファー・サム(Lucifer Sam)」が演奏されて感激。さらに「マチルダ・マザー(Matilda Mother)」「アーノルド・レーン(Arnold Layne)」「第24章(Chapter 24)」「天の支配(Astronomy Domine)」そして「星空のドライブ」に戻った。

メンバーたちの衣装は60年代のサイケデリックそのもので、背後のスクリーンにはオーバーヘッドプロジェクターによるオイルライトが映しだされていた。さまざまな色のカラーインクを皿に垂らしてサイケデリックな模様を描く。CGじゃなくて人の手でおこなわれるのはすごく新鮮で、むしろ今のバンドでも取り入れてもいいのでは思うくらい。

シド・バレット在籍時の曲をメドレーで披露していくのが今回の目玉。サイケデリックでポップで狂っていた初期ピンク・フロイドを取り上げるのは意義あることだろう。どうしても中期の傑作群が好まれる傾向にあるけど、こうして演奏されるとみえてくるものがある。

休憩を挟んだ第2部の冒頭は「太陽讃歌(Set the Controls for the Heart of the Sun)~シンバライン(Cymbaline)~神秘(A Saucerful of Secrets)」のメドレーで、第1部のシド・バレット・メドレーと合わせて思うのは、このころのピンク・フロイドは何にでもなれる可能性があったということだ。『原子心母(Atom Heart Mother)』の実験を経て、『狂気(The Dark Side of the Moon)』で完成されたときには、我々が一般的に思う「ピンク・フロイドの音」として様式がイメージができあがっていた。だけども初期は、内包していたポップさを極めればそのままブリットポップの源流にもなれたし、呪術的なリズムの方向性はフランスのバンドであるマグマだろうし、サイケデリックなフォークの路線はティラノサウルス・レックスにつながっていくし、「ナイルの歌」はハードロックだろう。

筆者が先日、フジロッカーズorgで原始神母の紹介記事を書いたとき、「プログレッシブ・ロック」という言葉を使わなかった。確かに『狂気』にたどり着くまでのピンク・フロイドの姿勢は言葉本来の意味でプログレッシブそのものだったと思うけど、日本で「プログレ」といってしまうと、ある種の固まったイメージになってしまう。ピンク・フロイドの初期にはいろんな可能性が開けていた、それをこの日の原始神母は教えてくれた。そういう意味で、ポップな「シー・エミリー・プレイ(See Emily Play)」や「夢に消えるジュリア(Julia Dream)」を演奏してくれればもっとよかったのに、と思うのだ。

 どうやら前半で自分が到着する前には「吹けよ風、呼べよ嵐(One Of These Days)」をやっていたようだ。シド・バレット・メドレーのあとは「マネー(Money)」から「アス・アンド・ゼム(Us and Them)」「望みの色を(Any Colour You Like)」「狂人は心に(Brain Damage)」「狂気日食(Eclipse)」と『狂気』の後半をたけ続けに演奏。

第2部の初期メドレーのあとは、「タイム(Time)」、そして「虚空のスキャット(The Great Gig In The Sky)」で新たに加わった冨田麗香と、ここ最近のライヴでは常連になっているラブリー・レイナのスキャットが聴けた。「クレイジー・ダイアモンド(Shine On You Crazy Diamond)」「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール (Another Brick in the Wall)」「原子心母(Atom Heart Mother)」で締める。「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール」では三国義貴と大久保治信のキーボード・ソロの応酬が圧巻。原曲のイメージを壊さない程度の「遊び」があって楽しい。(こうなるとピンク・フロイドじゃない曲を「もしピンク・フロイドがカヴァーしたら?」みたいなこともやってほしかったり……)。

アンコールは木暮”シャケ”武彦のギターがいい感じに鳴りまくる「コンフォタブリー・ナム(Comfortably Numb)」、最後は恒例の「ナイルの歌(The Nile Song)」だった。それぞれがソロを回して思い切り楽しんでいることが伝わる。

そして、ベースの扇田裕太郎が「フジロックで『あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』を歌いましょう」と話したように(この日のお客さんには「あなたがここにいてほしい」の歌詞が記されたチラシが配られた)、フジロックでの出演が非常に楽しみになった。苗場で会いましょう。


Wish You Were Here Pink Floyd Lyrics

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Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by  LIM Press