THE JESUS AND MARY CHAIN | 東京 新木場 STUDIO COAST | 2019.05.19

乾いて湿り、暗くて明るく、傷つき喜ぶ

日曜日の18時が開演予定だったので、まだ明るいときに新木場に着いた。駅を降りると潮の香りがした。暗くなってから駅を降りることが多いせいなのか、あまり感じなかったけど、海が近いということを改めて気づかされる。

会場に入るとビーチボーイズの”I’m Waiting For The Day”が流れていた。続いて”Sloop John B”そして”God Only Knows”と続いたので、アルバム『ペット・サウンズ』をそのまんまかけていることがわかる。ポップなメロディを愛する彼ららしい、しかも「選曲」することなく、ただアルバムをかけているだけという抜け具合が、本当に彼ららしいと思える。

フロアや2階席(この日は自由席)には年齢高めの男女が集まる。もちろん外国人も多い。フロアはほぼ埋まってバンドの登場を待つ。

Photo by Ryota Mori

18時10分ころ流れていたビーチボーイズからロキー・エリクソンの”I’m A Demon”が大きめに鳴り響きメンバーが登場する。中央にヴォーカルのジム・リード(弟)、ステージ上手にギターでウィリアム・リード(兄)、ステージ下手にギターでスコット・ヴォン・ライパー、ベースのマーク・クローツァー、ドラムはフィル・キングである。ステージはシンプルに特に装飾はなく、照明は暗いか逆光なのでフロア前方でないとメンバーの表情がわからなかった。もちろん、明るくクッキリなジーザス&メリー・チェインというのもどうかと思うので、この暗さも彼ららしい。

“Amputation”からライヴは始まる。現時点では最新アルバムである『Damage and Joy』からの演奏される曲が多いけれども、これまでのアルバムから幅広く選曲されてオールタイムベストとして楽しめるライヴだった。

2曲目は”April Skies”、続いてピクシーズにカヴァーされた軽快な”Head On”、カッコいい”Blues From a Gun”とフロアも湧く。さすがに90年代のときのようにライヴ中ずっとフィードバックノイズが鳴り、耳鳴りが3日間止まらなかったという轟音はないけれども、曲の要所でギターノイズが炸裂してお客さんからは歓声が上がる。

やはりこれは誰しもが認めるところであるけど、彼らの曲のよさ、ポップセンスを改めて感じさせるライヴであった。それでいて、うつむきがちで、ステージを暗くして表情をあまり見せず淡々と演奏する。

Photo by Ryota Mori

1stアルバム『Psychocandy』から”Taste of Cindy”や”The Living End”の轟音、4thアルバム『Honey’s Dead』から”Far Gone and Out”の乾いた軽快さや”Teenage Lust”が持つ退廃もライヴではよいアクセントになった。それが『Damage and Joy』からの曲と違和感なく溶け込んでいた。本編ラストは”Reverence”。「キリストのように死にたい、JFKのように死にたい」と歌う。暗い、前向きじゃない、でもポップ。やる気がないようにみえるけど、やる気がないなら再結成してわざわざアジアへツアーにこない。この相反する感情が同居するのが、俺たちの大好きなジーザス&メリー・チェインなのだ。

バンドは去り、会場は拍手でアンコールを求める。すると、ドラムマシンが「ダン、ダ、ダン」とリズムを鳴らし始める。それに気づいたフロアから手拍子で「パン、パ、パン」と応える。そして演奏された”Just Like Honey”は、こんな演出をするバンドだったっけ? と意外に思えてしまう。アンコールは続き、”Cracking Up”、”Sidewalking”、新譜から”War on Peace”、最後は”I Hate Rock ‘n’ Roll”で締めくくる。そもそも初期は20分くらいしかライヴをやらないバンドだったのに、5曲もアンコールをやるというのは、歳月の流れを感じるのだ。表情はよくわからないけど、おそらくご機嫌だったのではないだろうか。「ロックンロールなんか大嫌い」というロックンロールをやるという矛盾。だけど、そのどっちつかずな空気に80年代~90年代の当時は惹かれていたし、今なお惹かれているのだ。

<SET LIST>

AMPUTATION
APRIL SKIES
HEAD ON
BLUES FROM A GUN
MOOD RIDER
BLACK AND BLUES
FAR GONE AND OUT
BETWEEN PLANETS
TASTE OF CINDY
THE LIVING END
TEENAGE LUST
ALL THINGS PASS
SOME CANDY TALKING
HALFWAY TO CRAZY
REVERENCE

JUST LIKE HONEY
CRACKING UP
SIDEWALKING
WAR ON PEACE
I HATE ROCK N ROLL

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Ryota Mori