ワンマンだからこそ
jizue(ジズー)はフェスやイベントで何回か観ているけど、単独公演は初めてだった。フェスの40分から1時間くらいの演奏時間と、今回約1時間40分の演奏時間を比べるとやはり単独のライヴでないと表現できないものがあるのだ、と感じた。
jizueは7月3日に新しいアルバム『gallery (ギャラリー)』を発表し、今回はそのリリースに伴うツアーの一環で渋谷クラブクアトロのライヴがおこなわれた。金曜日夜20時スタートという仕事をしている人には優しい設定で、20時ころにはフロアは多くのお客さんたちで埋まっていた。仕事帰りの30代男女が多かったようにみえるけど、けっこう年齢高めの人もいてお客さんのバラエティは広い。20:05ころに場内が暗転してライヴが始まった。
ステージ下手から上手にかけてキーボードの片木希依、ギターの井上典政、ベースの山田剛、ドラムの粉川心という順番に並ぶ。ドラマーがステージ奥にいないで上手側からメンバー全員を見渡せる位置にいる。
まずは、新しいアルバムから”P.D.A.”でライヴは始まった。メンバー全員の技量は素晴らしいものがあるのだけど、とりわけ片木のピアノは表情豊かに疾走していくのが爽快である。「表情豊かに」というのは、ピアノの音色はもちろんだけど、彼女が弾いている姿、みせる笑顔も含めてのことである。ジャズが基本になっているのだろうけど、踊れるし、ハードに音をぶつけていくところもあるし、テクニカルなプレイの応酬はプログレッシヴ・ロックに通じるところもある。
各メンバーに見せ場があって4人のチームワークとエゴのぶつかり合いどちらも感じることができる。選曲は過去のアルバムから幅広く、jizueのさまざまな要素をみせることに成功していた。ダイナミックな”W”、和む導入から軽快に立ち上がっていく”sun”、jizueらしい展開をみせる”grass”、ダンサブルに激しく疾走していく”rosso”とjizueを十分に堪能できる。
それでいて、関西出身らしい言葉遣いのMCを聞くとそのギャップが面白い。特に山田のほのぼのというか、締まりのないMCで会場内を脱力させる。その後まったりとした”green lake”で和ませ、新譜から”junction”もバンドのスローで心地よい面をみせてくれる。
メンバーのテクニックが凝縮された”swallow”は、印象的なメロディを持つ曲でもある。インストゥルメンタルのバンドではあるのだけど、そのメロディを奏でるピアノは「歌っている」のだ。そのメロディとユニゾンで弾くギターもまた歌っているような躍動をみせる。楽器が表情豊かであるということは、歌っているかのようにみせることができるということであるのかもしれない。
本編ラストの曲の前に井上が長年使用していたバンドの機材車を買い替えた話をして、その車への惜別の思いを吐露していた。さまざまな場所にいって演奏するバンドにとって「あるある」な話なのだろう。一旦場内をしんみりさせてから、ラテンの要素もある”dance”でフロアをアゲていき締めくくったのであった。バンドはステージを去るけどすぐにアンコールを求める拍手が湧き、最後に演奏されたのが”atom”だった。メンバーが存分に音に思いをぶつけていく。バンドの音に合わせてフロアも躍動していく。この日の1曲目からさまざまな起伏があってラストの盛り上がりに至るまでを体験すると、やっぱりバンドの持っているものを十分に表現するにはこの時間の長さが必要であったのだと感じるのだ。
セットリスト
1. P.D.A.
2. trip
3. W
4. sun
5. grass
6. rosso
7. green lake
8. junction
9. swallow
10.dance
11.atom