THE CURE | FUJI ROCK FESTIVAL | 2019.07.28

締めくくりにふさわしいステージ

フジロック2019のグリーンステージ、最終日の殿(しんがり)を務めたのはThe Cure。今や伝説となっている約3時間、全36曲を演奏した2013年の出演以来、約6年ぶりに鬼才ロバート・スミスが苗場に帰ってきた。

デビューアルバムの『Three Imaginary Boys』リリースから40年、屈指の大名盤『Disintegration』のリリースからは30年、更には「ロックの殿堂」入りまで果たしたという、The Cureにとって何かとメモリアルな今年。グラストンベリーをはじめとした数々の著名なフェスティバルにヘッドライナーとして出演する中、日本ではフジロックを選択してくれたことが本当に嬉しい。ケミカル・ブラザーズもしきりにフジロック愛をコメントし今回の出演を喜んでいたが、ロバート・スミスも同じように感じてくれているのかと思うと最高じゃないか。20数年を経て「フェスティバル」という文化が苗場の地にしっかり根を張ったことの証拠のようで、とても感慨深い。

風鈴のような涼しげな音がステージにキラキラと鳴る落ち着いた雰囲気の中、姿を見せたバンドが重厚かつ荘厳に奏でた“Plainsong”から幕が上がった。フジロックまでの各地のセットリストを見ると、“Shake Dog Shake”からはじまる「攻め」の趣のものと、“Plainsong”からはじまる「取っつきやすい」趣の2パターンがあって、どちらで来るのか気になっていたが、やはりグラストと同じ選択。苗場の山々に囲まれて浴びる“Plainsong”は格別だ。3曲目の”High”までの流れは、世界各地から集まったファンたちからの愛でいっぱいの反応に空間が満ちていて、ロバート・スミス同様に空に向かって叫びたくなるほど気持ちよかった(隣で観ていた人が「I’ve waiting for you for a long time!(ずーっと待ってたよ!)」と叫んだ時のあの多幸感は今でも忘れられない)。

ロバート・スミスの声はよく通りいつも以上にロマンチックに耳に響いていたし、バンドの演奏もタイトで完璧だったが、気になることが一点だけあった。「サイモン・ギャロップはどこ?」ということ。最近のステージでアンプに飾ってある「Bad Wolf」の旗もあるし(サイモンは『Doctor Who』*のファンと言われている)、あれがサイモンなのか?いや髪も短いし、急に体格良くなり過ぎだろとか悶々としながら観ていた。後で、超直前にサイモンが体調不良によって出演できなくなったため、サイモンの息子のエデン・ギャロップが代わりに出演していたことがわかった。急ごしらえとはとても思えない。バンドとしての化学反応もばっちりスパークしていた。日本のファンを失望させないように、バンド全員でエデンをフォローしていたとのことだったが、彼らの真摯なスタンスがステージに温かみを与えていたように思えてならない。The Cureは苗場でまたひとつ「伝説」を作ってしまったようだ。

「取っつきやすい」パターンのセットリストとはいうものの、”A Night Like This”から”Last Dance”でおセンチな気分を味合わせ、”Burn”から”Never Enough”ではインダストリアル・ミュージックの源流っぷりを発揮してグリーンステージをダンスフロアに変貌させ、”From the Edge of the Deep Green Sea”から”A Forest”ではダークで深淵な世界を描く。3曲ごとにロバート・スミスの果てしなく広く、深い世界観をクルクルと変えながら提示してきて一筋縄ではいかない。そんな本セットの流れをコンパクトに再提示して、ラストは恒例の”Boys Don’t Cry”の甘酸っぱさで締めくくるというアンコール部含め、鬼才ロバート・スミスの「頭の中」をこれでもかと堪能することができた。本セットとアンコール部で計2時間強と、長くもなく、短くもない。オーディエンスが満足に残されるよう、よく配慮されたセットリストだった。

「またすぐにみんなに会いたいよ」と苗場に帰ってきたことを心から喜んでいるような笑みを浮かべ、終始ご機嫌ままステージを後にしたロバート・スミス。今年のフジロックを締めくくるのにこれ以上ないステージを繰り広げてくれた。

*1963年からイギリスBBCで放映されている世界最長のSFテレビドラマシリーズ。「Bad Wolf」は、改訂版『Doctor Who』第1シリーズ第12話のタイトル。

Photo by Ryota Mori

Text by Takafumi Miura
Photo by Ryota Mori